出撃の朝(正確には夜中)
次の日の早朝、隻眼の黒龍、メアリー、マリア、及び魔法戦隊が本営のテント前に集まった。周りはまだ真っ暗。早朝というより、真夜中といった方がいいかもしれない。こんな時間に起こされただけあって、さすがにみんな眠そうだ。特に魔法戦隊は、座り込んで居眠りを始めたりしている。子供だから仕方がないだろう。メアリーは「眠るのは帰ってきてから」と、起こすのにひと苦労。
わたしはみんなを見回し、
「それじゃ、よろしくね。あまり考えることはないわ。敵の後方から、一気呵成に攻撃魔法でやっちゃって」
「了解しました。では、行ってまいります」
メアリーは槍に横向きに腰掛け、フワリと空中に浮かび上がった。魔法戦隊は練習用の魔法の杖に乗り、なんだか少し頼りなげにメアリーに続く。マリアは隻眼の黒龍の背に乗り、悠然と大空へ飛び立った。
なお、わたしは本営に残り、全体の動きを見ながら適宜指示を出す予定。こう言うと聞こえはいいけど、詰まるところ、わたしが一緒に行っても邪魔になるだけだから、本営で適当に遊んでいればいいという……
ともあれ、このようなことで、特に作戦名などは付けていないが、とにかく混沌の勢力を殲滅する作戦が開始されたのだった。
メアリーたちへの見送りが終わると、司令官が寝ぼけ眼をこすりながら現れ、
「ふぁ~~…… あっ、ありゃ?」
「ひと足遅かったわね。もう、みんな出発したわよ」
すると総司令官は、「しまった」という顔で額に手を当て、
「あたたたた…… これは失礼いたしました。皆さんが出撃されるということで、私もぜひ見送りをしようと考えていましたのに、ああ、なんたる不覚……」
「構わないわ。それよりも、今日は決戦よ。よく眠れた?」
「はい、それはもう、ぐっすりと」
なんともマイペースな司令官だこと。それでも今まで軍法会議で処分されるようなこともなく任務をこなしてきたということは、それなりに有能な人材なのだろう。人は見かけによらないとも言うし、とんでもない奇人変人が歴史に残るような「名将」だったり、「人間的に見れば最悪」でも腕前は超一流だったりすることは、往々にしてある。
それはともかくとして、周りはまだ暗い。夜明けまではしばらく時間がありそうだ。ということで……
「司令官、わたしはもうひと眠りするから、夜が明けたら起こしてね」
「分かりました。では、ごゆっくり……いえ、あまり『ごゆっくり』というわけにはいきませんが、ともかくも作戦開始時刻まで、お休み下さい」
多少、後ろめたい気もしないではないが、特にしなければならないことはない。時間まで就寝し直すことにしよう。




