久々に混沌の勢力
ともあれ、一応は新騎士団長が決まった。ポット大臣によれば、このような場合、騎士を集めて新騎士団長就任披露パーティーを催すのが慣行(気になる費用は、伯爵側と騎士団側で折半)とのこと。
基本的に悪しき慣行は廃止すべきだと思うけど、この場合は、騎士会への嫌がらせの一環として催すのも悪くないだろう。日時や場所のセットや根回しなど、細かいことはポット大臣に任せ(多少、不安もあるが)、騎士団長就任披露パーティーを催すことにしよう。
懸案事項がひととおり片付き、執務室でゆっくりと午後の紅茶を味わっていると、
「カトリーナ様、大変です!」
いきなり、ノックもせずにドーンが飛び込んできた。
「どうしたの? まさか、ゴールドマンの息子に逃げられた?」
「違います。それとは別の話です。実は、宝石産出地帯に駐留している猟犬隊から報告がありまして、混沌の勢力が攻め込んできたとのことです」
「あっ、そう。それで?」
「はい? ですから、大変なことに、今度こそヤツらは、完膚なきまでにボコボコに……」
予想外の返答で(わたしが驚きもしなかったから)混乱しているのだろうか、ドーンは何やらわけの分からないことをのたまっている。
混沌の勢力が攻めてきたのは、これで何回目だろう。慣れてきたせいか、あまり大変な感じはしない。
わたしは紅茶を飲み干すと、少しの間、考えて、
「分かったわ。手早く片付けてくる」
わたしはプチドラを抱いて館を出た。プチドラはわたしを見上げ、
「マスター、これからどこへ?」
「隣よ。カトリーナ学院。メアリーとマリアは魔法科の授業中よね」
カトリーナ学院の門をくぐり、広い庭園を抜けると、果して、校舎の前でメアリーとマリアが5人の生徒を相手に、魔法の実技指導を行っていた。メアリーは横向きに槍に乗り、空中から地上の標的を次々と攻撃魔法で破壊していく。おあつらえ向きに、実戦的な対地攻撃訓練のようだ。
「二つの魔法を同時に操るコツは、どちらか一方に意識を集中しすぎないこと」
メアリーはすべての標的を撃破すると、生徒の前に降り立って言った。
「へえ~、すごいわね、メアリー」
わたしはゆっくりと歩み寄り、思わず拍手。
メアリーはわたしを認めると、とりあえず一礼し、
「カトリーナ様、いらっしゃったのですか。今日はどのようなご用件でしょう」
「うん。実は、手伝ってほしいことがあってね」
「手伝いですか? あの…… どのような……」
メアリーは、ちょっぴり警戒しているような様子。今日……特に今日は、大いに警戒するほうがいいかもね……




