99.チャンスは一度きり
五月に入って二回目の日曜日。
猫小屋を作る会はその日に決まり、三条さんが張り切って参加者に声を掛けていた。
鴎太には俺が声を掛けようかと提案したが、どうやら自分でそういった催しを開催したいらしい。
三条さんが、これも自分で頑張ると握り拳を作って言うので、任せた結果、顔を合わせた鴎太に開口一番『三条さんが誘いに来たもんだから袋叩きにあった』と文句を言われた。
何はともあれ、そうしてメンバーを集めた猫小屋を作る会は、天候にも恵まれ、暑い日差しを受けながらの開催になった。
設置予定地の中庭の広場には板材や工具が集められている。
参加者は、俺と鴎太、攻略対象キャラクター全員集合に、プラス牛鬼。
「なんで、牛鬼がいるの」
「生徒と水無月さんだけだと危ないからって、来てくれたよ」
「ちょっと目が痛いんだけど」
三条さんに耳打ちすれば、彼女は頬を赤く染めながら、筋肉だるまが居る理由を教えてくれる。
相変わらずの暑苦しさに目眩はするが、これだけ攻略対象が集まる場所なのだから、居てもらった方が安全には違いない。
牛鬼の言う危ないからは、工具を扱うにあたっての事だろうけど。
「図面はあるのか?」
牛鬼が声を掛け、それに水無月仁美がここにありますよと答えて図面を差し出す。
スケッチブックに描かれたそれを見て、牛鬼は「ほう」と声を上げた。
流石に教師。
全員に集合を掛けたかと思うと、長々と注意事項を述べ始めた。
三条さんは、もっとわいわいしたかったんじゃなかろうか。
そう思い盗み見た彼女は、牛鬼の話を聞きながら、楽しそうにしていた。
なるほど。授業様式であっても、普段吾妻さんと共に授業を受ける事も無いので、楽しいらしい。
本人が楽しそうなのは、良い事なのだが、俺に関しては至って楽しくない。
早々に抜け出すべきだなと判断して、牛鬼の話が終わったタイミングを見計らって手を挙げる。
「先生。今日暑いので、近くのコンビニで全員分の飲み物買ってきてもいいですか」
「おおお! 水分補給は大切だからな!」
声、でかいな。
当初からそうであるが、この牛鬼は俺に対して中々好意的だ。
拒否されるどころか歓迎されたので、一抜けの権利を獲得した俺は、続けて鴎太に声を掛ける。
「荷物持ち、ついてきてくれよ」
「ええぇ、オレ?」
「お前しか男手いないだろ」
「そうだけど……」
若干嫌そうにはされたが、じっとり視線を投げ掛けていると、ようやく折れた鴎太が首を縦に振る。
「わかったよ」
「よし、さっさと行こう」
「サボりたいならなんで参加したんだよ」
ごもっともな小言を背に受けながら、早足に中庭を後にする。
二ノ前満月と目が合ったが、一番俺の意図を理解してくれているらしい五十嶋さんが、二ノ前満月に「これは何に使うの」とインパクトドライバーを手に質問していた。
雑な助け舟ではあるけれど、無いよりはマシだろう。
今、鴎太を連れ出す事さえ出来れば、取り敢えず話をする一度目のチャンスは得ることが出来るだろう。
「むまお」
「おお……、猫じゃん」
「え、猫丸も来るのか」
「まあご」
先を行く俺の前に躍り出たのは、今日の主役である猫丸だ。
ふごふご言いながら俺を先導するように歩いて行くので、まるでついて来いとでも言っているようだ。
後ろを振り向けば、此方を見ていた二ノ前満月がふいと視線を逸らす。
「まあ、いいんじゃないか。散歩するか」
「犬じゃないんだから」
「野良猫だし」
適当な会話をしながら、本校舎に入って行く猫丸を追って、校舎に入る。
此処まで来れば人の目も無いだろう。
歩く速度を落とした猫丸の尻を眺めながら、俺は本題に入る為に、口を開く。
――チャンスは一度きりかもしれない。
二ノ前満月は鴎太の思考を覗き見ることが出来る。
とは言え、それはあくまで、鴎太を通した視点でしかない。
俺の本心を知ることは出来ないのだから、まず初手は、大義名分を語っておくべきだろう。
「二ノ前さんが、心配してた」
「二ノ前さんが?」
「鳳凰くんは、一緒に居ないのかってさ」
「あ……ああ、最近話してなかったもんな!」




