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98.コタにも一個あげるよ




 連休明け。

 学校全体に気怠い空気が漂っているのは、ギャルゲーの世界でも変わらないらしい。

 通学中に小耳に挟んだ話では、一年男子生徒は休みを満喫出来たらしい。

 ともなれば、がっつり休暇を堪能した後の登校日だ。

 その歩みは、亀のように遅い遅いものだった。


 しかしながら、彼らに登校しないという選択肢はない。

 俺を含めた一年男子生徒全員が青春に隷属している為、それでもわらわらと、学校には集っている。


 空気の悪い本校舎に居るとカビにやられてしまいそうだったので、俺は教室には寄らず旧校舎四階の部室を目指した。

 大概、少し早く登校した三条さんと吾妻さんが水遣りをした後、部室で話をしているので、鍵を取りに行くまでもなく解放されている事が多い。



「コタ! おはよー!」

「おはようございます、コタローくん」

「おはよう。小太郎くん」

「おはよう」



 扉を開けば、挨拶が飛んでくる。

 三条さん、吾妻さん、五十嶋さんだ。

 先に登校した彼女たちは、椅子に腰掛け雑談をしていたらしい。


 勉強会は、あれから数度開催されて、俺の学力もヒナちゃんの作ったテストであれば満点を取れるまでに底上げされた。

 その全てに、五十嶋さんも参加し、まんまとヒナちゃんを餌付けした彼女は、三条さんと吾妻さんにも『素っ気ないけど実は優しい人』と認識されたらしい。

 上手く馴染んでいるようで、少し安心した。


「コタ、水無月さんがさっき来て、猫小屋作るのに必要なもの揃えてくれたって」

「そうなの? いつにしようか」

「放課後か、日曜日にでも集まる?」

「時間かかるかもしれないから、皆が良いなら休日の方がいいかもね」


 何せ、日曜大工だなんて言うくらいであるし。

 今は別の呼び方が広く普及しているけれど、時代的にはそういったものが流行る前のはずだ。

 そんな趣味を持っている人物は、いないはずなので、頼れるのは三条さん一人になる。

 体力パラメーターが器用さに関わってくるのであれば、俺は真っ直ぐ線を引く自信すら無い。


「そうだね。休みの日に集まるの、結構楽しいし」

「勉強会も楽しかったですよね」

「ヒナミも来る? それ」

「来るよ。桂那ちゃん、ほんとにヒナの事好きだよね」

「……普通」


 五十嶋さんはそれだけ答えると、立ち上がる。

 俺を一瞥だけして、脇を通って部室を後にしようとするので、三条さんが慌てた様子で「え、ごめん……! 嫌な事言った?」と謝罪する。


「別に。もうすぐ予鈴鳴るし、図書室行かなきゃ」

「……びっくりした」


 脱力する三条さんに対して、五十嶋さんは首を傾げている。

 表情があまり変わらないので、三条さんは苦戦しているようだ。


「それじゃあ、また。昼休みに」

「うん。またね!」

「私もそろそろ、教室に戻りますね」

「うん、咲ちゃんもまたね!」


 二人が一気に部室を後にしたものだから、人が減った部室内は尻込みする程静まり返る。


 特別何も入っていない鞄を床に置き、椅子に座ると、三条さんがニコニコと楽しそうな顔のまま、俺に向かってお菓子を差し出す。


 小包装されたチョコレートだ。


「桂那ちゃんがくれたから、コタにも一個あげるよ」

「仲良くなれたみたいで、よかったね」

「えへへ、……ちゃんと仲良く出来てると良いんだけどね」


 まだ不安が勝つらしい彼女は、視線を下に落として、机の上に置いたチョコレートを見る。

 五十嶋さんがヒナちゃん以外に何かを与える姿なんて、あまり想像出来ない。


 ――もしかすると五十嶋さんも三条さんの事を気に入っているのかも。


 過去に、素直に懐いてくれるヒナちゃんに心を開いたのであれば、仲良くなろうと一生懸命な三条さんの事も、可愛いと思うのかもしれない。


 そうなると、吾妻さんは大丈夫だろうかと、一抹の不安が過ぎる。


 小屋作りの際にでも、困っているようなら話を聞こうと心に決めてから、俺は貰ったチョコレートを手に取った。





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