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97.全部、壊すんだ




「ニイちゃん」


 五十嶋桂那――五十嶋さんが心配そうに、俺の目を覗き込む。

 窓の外を見れば、もう雪は降っていない。

 ――夢から、覚めた。


「思い出した?」


 首を縦に振る。

 思い出した。五十嶋さんとの約束を、猫丸との、賭けの内容を。


「五十嶋さんの言いたいこと、わかったよ」


「手伝ってくれる?」


「――うん」


 世界を、壊す。

 結果、三条さんや吾妻さんを失う事になったとしても。

 それが、五十嶋さんの言う『殺す』という事になったとしても。



 五十嶋さんとした約束と、猫丸とした賭けの為に。



「五十嶋さん、やっぱり部活入らない?」


「……なんで?」


「一人は寂しいでしょ」


 五十嶋さんがヒナちゃんと関わらないのは、きっと俺が記憶を取り戻す保証が無かったからだ。

 そうなった場合、五十嶋さんの最終手段は一人で世界を壊す事。

 それはつまり、ヒナちゃんを殺す事になる。

 決断に迫られた時に、迷いなくその選択が出来る様に、五十嶋さんはヒナちゃんとの距離を取っていたのだ。


「でも……」


「あーーー!! 猫丸!!」


 後ろから突然叫び声が聞こえたもんだから、心臓が飛び出るかと思った。

 水無月仁美だ。

 後ろを向けば、髪を揺らしぱたぱたと駆けてくる姿が目に映る。


「連れて来てくれたんだ! ありがとう!」


 五十嶋さんの腕の中に収まっていた猫丸は、その声を聞いてぴょいと飛び降り、水無月仁美の元へ歩いて行く。

 何だかんだ、懐いているらしい。


「五十嶋さん、楽しかった?」

「……まあ」

「じゃあさ、部活、入ってみる?」


 八重歯を見せて、水無月仁美は笑いかける。

 何の屈託も無く、五十嶋さんの悩みなんて全く知らないその人が笑うから、五十嶋さんは拍子抜けした様子で、ぼんやりとその人を眺める。


「ぶなあ」


 後押しするように、猫丸が一声鳴けば、五十嶋さんは頷いた。


「……うん。入る」


 その選択が五十嶋さんを苦しめる事も、あるかもしれない。

 けれど、ヒナちゃんの側に居たいと思う気持ちも、確かにあるんだろう。

 覚悟を決めたみたいに、五十嶋さんはそう言って、俺に手を差し出した。


「よろしく、小太郎くん」


「よろしく。五十嶋さん」


 その手を取って、握手を交わす。

 感動した様子で「青春ーー!!」と騒ぎ立てる水無月仁美は放置して、俺は次にするべき行動を考えた。


 鴎太に、話を聞く。


 元の世界へ戻るための方法を。

 それが鴎太を殺す選択になったとしても、俺はもう、迷わず真っ直ぐ歩いていける。


 魔法の鍵を、俺は持っているのだから。



『クイックロード』



 頭の中に、声が響く。

 世界が歪む感覚は、もう無い。

 きっと俺がまた世界の崩壊へ向けて足を進めたもんだから、二ノ前満月が時を戻したに違いない。


 けれど、二ノ前満月は俺の記憶を読むことは出来ないので、何が起きているかまでは感知する事が出来ないはずだ。

 若干の時を戻して、めぼしい相手に此処に居るための理由を強める記憶改竄を施す程度だろう。


 つまり、俺は表面上では、モブ子を探しているフリだけを続ければ良い。



「俺、もう、迷わないから」


「……うん」



 首を傾げる水無月仁美には、特別説明も言い訳もしなかった。

 握手をしていた手を解き「それじゃあ、俺は帰りますね」と水無月仁美に声を掛ける。


「うん? うん、まあよく分からんけど、気を付けて帰るんだよ」


 手をひらひらと振ってから猫丸を抱え上げる水無月仁美を残して、俺は五十嶋さんと外へ向かう。

 そこで待っていた三条さんに「遅いよ」と文句は言われたけれど、笑って誤魔化して、先に行くように促した。


「五十嶋さん、部活入ってくれるって」

「ほんと……?!」

「よろしく、お願いします」

「よろしくね! 五十嶋さん!」


 頬を赤くして、照れたように笑う彼女だって、俺は世界と一緒に壊してしまう事になるけれど。

 それでも、やはり迷いは生まれなかった。


 ――全部、壊すんだ。




お読み頂きありがとうございます。

長くなってしまうので一旦此処を区切りに、これにて七章は終了になります。

七章の執筆中に、ブックマークが100件を突破しました。読んでくださっている方が目に見える形で実感出来るのは、とても嬉しくて、誰かに読んで頂けているから書き続けられるんだなぁと、しみじみと思う今日この頃です。心の底から、ありがとうございます!!

良ければ広告下の星マークから評価、ブックマークをよろしくお願い致します。読んで下さっている方が思っている以上に、私はたった一件の感想・評価・ブックマークに元気付けられ、喜んでいます!!

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