89.五十嶋さんも、誘ってみる?
「咲ちゃんはね、チョコレート好きだよ」
「そうなんだ。甘いもの好きなんだね」
「ヒナちゃんは何が良いかな」
「無難な所でいいんじゃない? ジャンク系苦手とかでは無さそうだし、多分スナック菓子好きだよ」
大型連休一日目。
吾妻さんもヒナちゃんも特別予定は無かったようで、勉強会の提案は快諾された。
待ち合わせ時刻を昼過ぎにして、昼食後から下校時刻までの勉強会として予定を組んだのだが、俺と三条さんは、昼前に待ち合わせをした。
そのままスーパーに向かって、お菓子を調達しようという話になったのだ。
俺の持つカゴの中に、三条さんはお菓子を入れていく。
個々人の好みを考えて選んでいる様で、カゴの中身が女子高生然としていて、何だか面白い。
日向はどちらかと言えば、せんべいだとか、いもけんぴだとか、どら焼きだとか、そういった方向性のものを好んでいたので、新鮮だ。
「ジュース何にしよ」
「オレンジとリンゴで良いんじゃない?」
「なんで?」
「この前、そうだったよね」
「あー! なるほど。コタは?」
「俺もリンゴジュース飲むよ」
「あははっ、似合わないね!」
何だか楽しそうにしているので、よかった。
遠足の前日に眠れなくなる子供の様な性格な気もするので、今日も寝不足だったらどうしようかと思ったが、そんな様子も見られない。
元気いっぱいで、一リットルの紙パックのジュースを手に取る三条さんの後ろ姿を見ながら、俺はこっそり一人で笑った。
―――
学校へ戻る道すがら、ドーナツ屋さんでドーナツを買った。
そいつが引き寄せてしまったのかどうかは定かでは無いが、校門近くで目をらんらんと光らせた水無月仁美に出会してしまった。
この人、別に部活を受け持っているわけでもないのに、連休中にも学校に居るのか。
「私はねー、クリーム入ってるやつがいいなあ」
「水無月さんの分は無いですよ」
「えええー!? 私も実質部活メンバーみたいなもんでしょ!?」
「そんな記憶は無いです」
素っ気無く当たっているつもりなのに、水無月仁美は屈さない。
困った様子で俺と水無月仁美を見比べる三条さんに向かって「私もお昼一緒に食べていいかな?」なんて縋り付いている。
作業着の胸元からひょっこりと顔を出している猫丸が至極迷惑そうに「ぶもお」と鳴いているが、そんな事もお構いなしだ。
「い……、いいと思いますよ」
ついには見兼ねた三条さんの言質を取り、水無月仁美はるんるん気分で部室までついてくる。
鍵を開ける間も、どんなドーナツがあるかなと浮かれている始末で、大変鬱陶しいものだった。
「ところで今日の活動内容はどんな感じなのかな?」
三条さんが部室の窓を開けて、俺が買って来たドーナツとお菓子等を机に並べる傍で、椅子をずりずりと引いて腰掛けた水無月仁美は笑顔のままに問い掛ける。
「テスト近いので、勉強するんです」
「勉強会! へえー! 青春だねえ!」
この人、いつもそんな感じの事ばかり言っていないか?
青春中毒の水無月仁美は、いつもの様にすんすんと鼻を動かし、きらきらと目を輝かせていた。
「そういう訳なんで、さっさと出て行ってくださいね」
「え? 私も一緒に勉強したいなあ」
「水無月さんは勉強する必要全くないでしょ」
「いやいや、私ほら、一応勉強教えてあげられるし」
「吾妻さんが居るので大丈夫です」
「ひい! 今期新入生の中で一番の学力を持つ生徒!」
大袈裟に、たじろいで見せる水無月仁美を見ていると、何か反論する気力も失せてくる。
どうやって追い払うべきか、頭を悩ませていると、こちらの気を知るつもりも無い水無月仁美は「そうだ」と間抜けな声を上げた。
「五十嶋さんも、誘ってみる?」




