85.ラスボスなんて居ない
『彼が行動してる所為で、今日はクイックロードが頻発してる』
――自分の耳を、疑った。
俺は今日、クイックロードが起きているだなんて知らなかった。
けれど五十嶋桂那が言うには、今日もクイックロードが起きている。
――俺はまだ完全には、クイックロードが起きた瞬間を感知する事は出来ていないのだ。
「俺は今日は一度も……」
『ニイちゃんはまだ完全なバグではないから』
五十嶋桂那は淡々と言葉を述べる。
よく考えてみれば、確かに。
五十嶋桂那の手助けのもとクイックロードに気付いた時、俺は声を聞いていたはずだ。
けれど、昨日クイックロードが起きたと判断したあの瞬間、俺は声を聞いていない。
巻き戻ったんだろうなと、違和感から察したに過ぎないのだ。
その違和感が生まれた場所に居なければ、きっと気付いてはいなかった。
「ちょっと、自分の力過信してたかも」
『ニイちゃんもそのうち、私と同じになる』
慰めている様な声音だった。
スピーカーから響くその声には、何処か諦めのような色も滲んでいる気がする。
『鳳凰鴎太は、可哀想だけど、真実には辿り着けない』
行動が監視されているから。
これに関しては俺が考えた通りなのだろう。
それにしても妙な話だ。
世界の主軸たる主人公が、この世界の事を疑い調べている。
主人公すら望んでいない世界を、神は創造し、維持する事に躍起になっているのだ。
そもそも、この世界が作られた理由もよくわからない。
鴎太が望み、それを神が叶えたのであれば、簡単な話だ。
けれど、鴎太の行動を見る限り、そういう訳では無いのだろう。
――神の独断で、鴎太のために、この世界を作る必要があった?
『なあ、コタロー。オマエってさ、この世界に来る直前、何してた?』
『じゃあさ、コタローは死んでココに来たわけじゃ、ないんだな?』
『――は、って。お前は死んだのか?』
『オレは……、いや、死んでない。そうか、死んでないや』
鴎太と最後に話した内容は、俺がこの世界に来る前にしていた事の記憶についてだった。
特別興味が無かったので、鴎太がこの世界に来る前に何をしていたかは分からない。
けれど、あの話し振りからして、鴎太の身に何か、死に繋がるような出来事が起きていたんじゃ無いか?
――だとすれば、この世界は、死の淵に居た鴎太を救うために神が作った世界という事か?
誰か一人でも元の世界に戻ってしまうと、この世界が崩壊してしまうとしたら?
それはイコール、鴎太の死を意味しているのだとしたら?
神は、――二ノ前満月は、この世界を壊す事なく、平穏に、恙無く、ループさせ続けなくてはならない。
誰の記憶を変えてでも。鴎太本人の記憶さえ、変えてしまっても。
大好きな、お気に入りの、鴎太を生かせ続けるためだけに。
勝手な想像ばかりが、嫌な方向に進んで行く。
けれど、考えれば考えるほど、そうなんじゃ無いかという確信だけが、増していく。
「なあ、五十嶋さん」
『何かな』
「俺と五十嶋さんってさ、この世界にとっての癌なのかな」
『――そうだね。私から見たニイちゃんは救世主だ。ヒナミにとっても、三条さんにとっても、吾妻さんにとっても、救世主だ。けれど、ある一部分から見た場合、とても恐ろしい敵でしかない』
「――そっか」
『ごめんね、そろそろ時間だ。また、電話する』
その言葉を最後に、電話は切れた。
けれど俺は、身体が固まってしまったみたいに、動けなかった。
心臓の音が、耳元でなっているみたいに大きく聞こえる。
まるで警鐘みたいだな、なんて、ぼんやりと考えた。
大切なものを選べば、別の何かを壊してしまうかもしれない。
誰かの未来を選べば、誰かの未来を壊す事になる。
生かすためには、殺す選択をしなければいけない。
――それは、なんて、胸糞の悪い事だろう。
この世界に、ラスボスなんて居ない。
居るのは、好きな男の子と、幸せな時を過ごしたい、ただの女の子。
五十嶋桂那はそれを壊せと、囁いていたのだ。
お読みいただきありがとうございました。
読んでくださっている貴方であれば、どういった選択をするでしょうか。私はこの主人公ならこうかなと選択しながら、物語を書いていきますね。頑張ります。
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