82.猫丸素早いよ?!
「それにしても、その質問流行ってるの?」
「どういう事ですか?」
「いやね、鳳凰くんにも聞かれたからさ」
「……まあ、そうですね」
鴎太も、神を探しているのだろうか。
世界の謎に一番近いのは、鴎太だろう。
アイツは初めから、俺を含め他の男子生徒は知り得ない情報を握っている。
――ただ、もし二ノ前満月が『神』だとするならば、『神のお気に入り』は鳳凰鴎太の事になるんじゃないだろうか。
鴎太の話をした時の、二ノ前満月はただの、普通の女の子だった。
『お気に入りだから、常に行動を監視出来るように、出来てる』
あの言葉が事実なのであれば、鴎太は誰よりも真実に近い位置に居るにも関わらず、絶対に真実に迫ることの出来ない人物という事になる。
自由に記憶を読み取られ、都合の悪い事実を摘み取られるのであれば、それは他の誰よりも状況が悪い。
探られるという段階まで黙認している理由は分からないが、真実に辿り着いたとして、それをどうこう出来るとは思えない。
――メインヒロインに気に入られていて、敷かれたレールからはみ出る事が出来ないなんて、まるで主人公みたいじゃないか。
「水無月さん」
「ん? 何かな」
「俺の今の質問。他の人には内緒にしていてくださいね」
「良いけど、何の為の質問だったのかな」
「勝負をしてるんです。鬼ごっこみたいなもので、鬼を見付けるゲームなんですけど、水無月さんが鬼なんじゃないかなって疑ってたんですよね」
「それで田中くん最近冷たかったの?!」
冷たく見えていたのか。
俺は水無月仁美には一貫して距離を取っていたはずだから、特別態度に出していたつもりは無いんだけど。
「その鬼ごっこ、鬼を見つけたら勝ちなの?」
「はい。外部者の協力は禁止のルールで、お手付きは一回まで」
「お手付き二回したらどうなるの?」
「鬼になりますよ。鬼の勝利条件は過半数を鬼にした場合。鬼以外の勝利条件は鬼を全員言い当てた場合」
「鬼になって、尚且つ鬼だってバレちゃった人は完全に負けって事?」
「そうなりますね。だから、今みたいに水無月さんに質問した事をバラされちゃうと、鬼の可能性が高いのバレちゃうんですよね。鴎太、口止め忘れたんでしょうけど」
「はーー、なるほどね。変なゲームしてるんだね」
その場凌ぎで考えた言い訳なので、変なルールなのはもっともだ。笑って誤魔化しておくと、水無月仁美はうんうんと頷いて「任せてよ! もう誰にも言わないようにする」と、八重歯を見せて笑ってみせた。
「鴎太の事は知っちゃったんで、俺の方から伝えておきます」
「そうだね、教えないのフェアじゃないもんね。邪魔しちゃってごめんよ」
「構いませんよ。ただこれ以上は内緒にしておいてくださいね」
もう一度釘を刺すと、水無月仁美は「大丈夫大丈夫」と親指を立ててみせた。
言い訳は正直何だって良い。
水無月仁美の言葉のままを信じるのであれば、どれだけ下らないものであっても生徒が問題の無い範囲内で遊んでいるのだと判断すれば、特別水を差したりしないはずだ。
これで俺が水無月仁美に今の質問をした事を、鴎太や二ノ前満月に話す事は無いだろう。
最悪したとしても、話の意味が通じない筈だ。
「というか、田中くん猫丸探すの手伝ってよ。どうせサボりだよね?」
「いや、サボりですけど。良いんですかそれ、注意しなくて」
「田中くんに注意しても仕方ないでしょ」
水無月仁美の『用務員としてのルール』のセーフとアウトがよく分からない所ではあるけれど、正直部室に戻ったところで、する事は無い。
五十嶋桂那に連絡を取ろうかとは思っていたが、鴎太の問題も出て来たので、水無月仁美に黙っていてもらうために少し付き合う程度なら問題ないだろう。
「昼までなら良いですよ」
「おっしゃ! じゃあ虫あみ貸してあげる」
「いや、いりません」
「猫丸素早いよ?!」
「それこそ虫取り網じゃ無理でしょ」
「うーん、それじゃあ私は取り敢えず中庭見てくるから、田中くんは花壇の方をお願いね」
手分けするらしい。
それだけ言葉を残して走って行った水無月仁美の後ろ姿を眺めながら、本当に水無月仁美の言葉を信じるべきか、もう一度考える。
クイックロードは、起きなかった。
二ノ前満月を神だと考えた場合の方が、鴎太の件も含めて納得はいく。
――やはり、暫くはこの方向で考えよう。
簡単に結論を決めて、俺は旧校舎裏の花壇へ向かって歩き始めた。
止まっていても仕方がない。
猫丸も、また怪しい猫ではある。
自分の全てに理由を当て嵌めながら歩く道のりは、本当に足元に道があるのか、探りながら歩くような不安感があって、少し、恐ろしく感じた。




