71.この人を、探してます
「とにかく、そんな事はどうでも良いの」
ぱたぱたと顔を手で仰ぐ素振りを見せる二ノ前満月は、何処からどう見ても普通の女の子だ。
彼女が超常的な力を使った所を、俺は見た事がある。
にも関わらず、毒気が抜かれてしまったような、そんな拍子抜けした気持ちが心の中に渦巻いて、酷く胸が痒かった。
「ん? 珍しい組み合わせだねー」
後ろから声が聞こえたのは、そんな二ノ前満月に返す言葉を思案していた時だった。
本日二度目のその声は、水無月仁美のものだった。
背筋が、少し寒くなる。
「あ、みいちゃん!」
「ミツキちゃん! ソイツ捕まえて!!」
「え?」
そいつ、とは、二ノ前満月の後ろに隠れるように丸くなっていた、猫丸の事だ。
水無月仁美が来たので、後ろに隠れたのだろう。
指を差された猫丸は、声も上げずに駆けていく。
そのスピードたるや、三条さんであっても追いつく事は叶わないだろう。
「あああ、ほんっと捕まんない……!」
項垂れた水無月仁美は、そのまましゃが見込む。
伏せられた顔に浮かべた表情は見る事が出来ないが、相当疲弊しているのだろう。
「やめたやめた!」
水無月仁美は、それだけ言うと、まとめ上げていた髪からゴムを抜き取って、ばさばさと乱暴に髪を散らす。
纏められていた根っこの部分が、少し癖になって、ふんわりと波打っていた。
髪を下ろすだけで、随分と雰囲気が変わるもんで、普段よりも幾分か、大人に見えた。
「今日のお姉さんのお仕事はおしまいですー」
気怠げな雰囲気でそう言った水無月仁美は、やさぐれた目で俺と二ノ前満月を交互に見る。
「田中くん。さっき体育館にいなかった? 吾妻さんと」
「そうですね。居ましたよ」
「モテモテだね。何してたの?」
どうやら、女の子を取っ替え引っ替えしていると言いたいらしい。
心外であるし、何か言い訳してやろうかと考えたたが、それをストレートに口に出している訳では無いし、乗ってやるのも癪に触る。
仕方が無いのでこの前半部分には無視を決め込んで、何をしてるのかの問いだけに答える事にした。
「人探しを、ちょっと」
二ノ前満月の手前、言うべきでは無い気もした。
言い終えてから、場を改めるべきだったかと、少し考える。
きっと、二ノ前満月の意外な一面を見たせいで、気が抜けていたのだ。
「人探し?」
怪訝そうな声を上げたのは、二ノ前満月だった。
水無月仁美も少し訝しむような顔で俺を見るので、恐らく懲りもせずに五十嶋桂那を探していると捉えたのかもしれない。
「五十嶋さんじゃ、ないですよ」
「じゃあ、誰かな?」
二ノ前満月の声は、冷たいものに戻っていた。
例えば、二ノ前満月と水無月仁美がグルである可能性は無いだろうか。
どちらが神なのか、或いはどちらも神なのか、それは分からないが、二ノ前満月が普通で無いという認識は、拭えない。
普通の女の子の面を見てしまった以上、神であると断言出来ない気持ちがあるのも嘘では無いが、かと言って、全面的に信用出来る人物でも、無い。
どちらにせよ、此処まで話題に挙げてしまっているのだ。
隠し通す事は難しい。
それに、これを打ち明けてしまうことが、悪手だとは、初めから思ってはいない。
水無月仁美の反応を見るという思惑込みで、水無月仁美を探していたように。二ノ前満月の反応を見る為に、話せば良い。
二人同時に反応を窺えて、良いじゃ無いか。
メンタルの武装を固めながら、俺はごくりと、固唾を呑んだ。
それから、ゆっくり口を開く。
「この人を、探してます」
ポケットから取り出した携帯電話を開いて、写真を見せる。
水無月仁美が「どれどれ」と声を上げながら、立ち上がる。
耳の横にだらりと垂れた髪一房を耳に掛け、携帯電話の画面を覗き込み、目をまんまるにさせた。
横から画面を覗き込んだ二ノ前満月もまた、目をまあるくさせている。
同じように驚いた表情を見せる二人は、暫く何も言葉を発さなかった。
水無月仁美は兎も角、二ノ前満月に関しては、設定上、モブ子と友人関係にあるはずだ。
いつの時期から友人なのかについて明言はされていないので、現時点では面識の無い可能性も、無くはないが。
俺は言葉を促す事もせずに、二人の言葉を待っていた。
先に、口を開いたのは、水無月仁美の方だった。
「んー、学校中歩き回ってるし、ほとんどの生徒の顔見たことあるはずだけど、記憶にないねえ」




