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70/151

70.なんか意外ですね





 無事、電話番号の交換を終えた俺たちは、それぞれ捜索箇所を手分けする事にした。


 吾妻さんが、取り敢えず保健室横の水無月仁美の拠点を確認しに行き、その後、旧校舎内の捜索。


 ヒナちゃんは校舎外一帯。


 三条さんは、足を使って兎に角走り回ると言っていた。


 俺を追っての鬼ごっこの時のように、人数がいればローラー作戦でも何でもやりようがあるが、四人ともなれば、出来る事は限られている。


 猫丸を追えば水無月仁美が現れるんじゃないかと当てをつけた俺は、まず第一に花壇を見に行く事にした。


 ――のだが、これがどうやら、相当の悪手だったらしい。


 猫丸は確かに、花壇で日向ぼっこを決め込んでいた。

 けれど、その脇に、二ノ前満月がしゃがみ込んでいたのだ。



「ぶなあご」



 俺を見て一鳴きした猫丸の視線を追って、二ノ前満月が此方を見る。



「コタローくんだ」



 目を細めてにっこりと笑った二ノ前満月は、立ち上がって、此方へ歩み寄ってくる。

 肉食獣を目の前にした草食獣のように、この場から今すぐ逃げ出したい衝動に駆られたが、此処で逃げれば何よりも不自然だ。


「さっき振りだね」

「あ、……そうですね」

「そういえばさ!」


 二ノ前満月は酷くご機嫌なようだ。

 ぽんと手を叩き、一歩俺との距離を詰める。

 甘いにおいが鼻を擽り、なんだかくしゃみが出そうになるので、それに合わせて俺は一歩後ろへ下がる。


 そんな様子を見ていた二ノ前満月は、困ったように眉根を寄せた。


「コタローくんくらいだなぁ。わたしのこと避けるの。悲しいよ」


 言葉とは裏腹に、悲しさなんて微塵も感じさせてはいない。

 むしろ、本当に困っているといった様相で、二ノ前満月は続きの言葉を口にした。


「そういえばさ、コタローくん。妹とは合わないから、わたしのこと名前で呼ばないって言ったよね?」


 確かに、そんな会話をした記憶はある。

 ヒナちゃんと会ったのだから名前で呼べという事だろうか。

 そんなものは、何がなんでもお断りしたかった。


「ヒナミちゃんの事は名前で呼んでるので、区別化は出来てますよ」

「えー、ほんとに酷いなぁ」

「別になんとも思ってない顔してますよ」

「顔に出ないだけかもしれないよ?」

「その場合は、謝りますよ。でも、思ってない」

「ふふふ、気にしてないんだけどね、全然」


 困っていますという表情すら取り下げて、美少女然とした満面の笑みを浮かべる二ノ前満月。

 やはり、何処までも恐ろしいと感じてしまうラスボス感を、彼女は身に纏っている。



「鳳凰くんは、一緒に居ないの?」

「……鴎太?」



 何故急に脈絡も無く鴎太の話になるのだろうか。

 まるで意図が読めずに、黙って二ノ前満月を眺めていると、彼女は再び、困ったような顔をする。



「男の子同士の友達って良いよね。コタローくん、鳳凰くんにだけ乱暴な口調で話すでしょ?」

「気の置けない友人が欲しいんですか?」

「うーん、そういう事になるのかな?」

「鴎太に頼めばなってくれますよ」

「いや……! それは絶対に、ダメ……!!」



 突然大きな声を上げるもので、思わず二ノ前満月を凝視する。

 鴎太は、女子受けしそうな可愛らしい顔をしているし、誰にでも分け隔て無く人と接する、所謂モテそうなヤツだ。

 それをそこまで拒否る理由なんかあるのかと、心底不思議に思ったわけだが、二ノ前満月は頰を赤らめ、目を逸らす。


 随分と、人間らしい反応をする。


 そんな彼女を見るのは、初めてだった。



「え、二ノ前さん、もしかして鴎太の事……」

「や、ちが……っ! 違うよ?! 鳳凰くんはほら! 違うでしょ!!」

「はあ……、なんか意外ですね」

「違うって言ってるよね?! 鳳凰くんはその、昔近所に住んでた男の子に似てて……!」

「だから、気になるんですね」

「違うってば……!」



 顔を真っ赤にさせて、二ノ前満月はぶんぶんと首を左右に振る。

 合わせて揺れる桃色の髪が、太陽の光に照らされてきらきらと輝いていて、伏せられた目蓋を縁取る長い睫毛は、赤い目元に陰を落とす。


 俺が揶揄うような発言をした時の、三条さんと少しも変わらない。


 ラスボス認定していた女の子は、ただの恋する女の子の顔を、していた。



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