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69.そういうところ好きだよ





 部室へ戻ると、吾妻さんとヒナちゃんは先に戻って来ていた。

 扉を開けた途端に「おかえりー」と、椅子に腰掛ける二人の呑気な声が聞こえてきて、少し安心してしまった事が、気恥ずかしかった。


「こっちはいなかったよ」

「タロくん聞いてよ! スイちゃん二連続で扉ばっばってやってダッシュで逃げたんだよ!」

「見付からずに逃げれたんだからいいじゃん!」

「ヒナお腹抱えて笑ったよね」


 見付からなかったらという事実よりも、容易に想像出来てしまう光景のインパクトが強すぎて、笑ってしまう。


 脳筋、此処に極まれりだ。


「なんか、三条さんのそういうところ好きだよ」


「な……っ!!」


 思わず口から溢れてしまった軽率な発言に、俺以外の三人はまあるく口を開けていた。


 誤魔化す為なら何とも無しに言えるのに、自然に出てしまった発言がこうも照れるものだとは思わずに、取り繕うように咳払いをひとつする。



「それはさておき、こっちも見付からなかったから、登校していない線も入れて探さないと」


「タロくんすけこましぃ」


「ヒナちゃんうるさい」



 ぷぷぷと笑うヒナちゃんの頭を、真っ赤な顔をした三条さんが叩く。

 相当仲良しになったようで、ヒナちゃんは嬉しそうに笑っていた。



「コタの言う通りだよ! 次の作戦考えよ!」



 流れを変えなければ、ヒナちゃんに玩具にされ続けると考えたのだろう。

 机にバンと手をついて、椅子から立ち上がりそう言った三条さん。

 その真剣さに、ヒナちゃんも茶化すのをやめて、自身の唇に手を添えて考えるような素振りを見せる。


「うーん。センセイに聞くとか? でも名前わからないもんね」

「人相書きはありますけど、不審に思われる可能性もありますね」

「あ、水無月さんは?」


 三条さんの提案は、至極当然のものだった。

 面白がりな水無月仁美であれば、一役買ってくれる可能性は、大いにある。


 けれど、水無月仁美は『神』である可能性が高い。


 ――いや、だからこその水無月仁美という選択肢もあるのか。


 俺が天使を探す事は、真っ当な行動だろう。


 水無月仁美の出方を見る為にも、案外良い案だと言えるのかもしれない。



「そうだね。水無月さんなら、協力してくれそうだ」


「水無月さんって誰?」


「用務員さんですよ」


「へー、ヒナ、自分の中学の用務員さんとか話した事ないな」


「この学校の用務員さん、変わってんだよ」



 三条さんから見ても、水無月仁美は変人なのか。

 それは少し意外で、笑ってしまう。

 良い具合に楽観視出来るようになってきた思考回路に安堵しながら、俺は口を開いた。



「それじゃあ、水無月さんを探しましょうか。さっき体育館で見掛けましたけど、多分ウロウロしてると思うので、また分かれて探しましょう」

「うん」

「はーい」

「そうですね」



 同意が三つ。

 校内全域を探すとなれば、ペアよりも別々の方が良いだろう。



「ヒナ、タロくん以外の番号しらないから、みんな交換しよー」



 ヒナちゃんがはいはいと手を挙げて、携帯電話を取り出す。

 そう言えば、俺も吾妻さんの番号は知らないのだ。


 一番、携帯電話の操作が手慣れているヒナちゃんに俺の携帯電話も差し出して「操作して」とお願いしたら、ヒナちゃんは「おっさんかよぉ」と笑っていたけれど、むしろスマホに慣れた俺はガラケーの操作が難しいんだよとは言えるわけも無く、乾いた笑いだけを溢して、俺はその一部始終を見守った。


 一番、手っ取り早い捜索方法は『二ノ前満月』に聞く事なのだろう。


 けれど俺は、それを彼女たちに伝えなかった。


 水無月仁美と同様に、いや、それ以上に、二ノ前満月は避けて通りたい人物だからだ。





 

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