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68.スカートの中を覗きたい




 ――正しいも、誤りも、真実も、自分の頭で考える権利がある。


 けれど、だからこそ、考えずには居られないのだ。


 誤った選択が恐ろしくて、逃げ腰になってしまう。


 ――よっぽど、縋るような目で吾妻さんを見てしまっているのかもしれない。

 目蓋を上げた吾妻さんは、俺を真っ直ぐ見て、とんでもなく不味いものを食べてしまって、けれどそれを言い出せないみたいに、眉根を寄せた。


「例えば、コタローさんが、遂叶ちゃんのスカートの中を覗きたいけれどその考えが正しいのかどうか分からない、程度の事で悩んでいるのであれば、私はコタローさんの胸中をすべて暴く必要があります」

「いや、……え?」

「冗談です。つまり、コタローさんの倫理観を全面的に信じているので、私は自信を持って伝えられますよ」



 吾妻さんの言いたいことが、何となく分かった気がする。

 正しさも、真実も、判断するのは自分自身の頭だ。


 吾妻さんは俺の頭を信じているから、自由に取捨選択しろと、言いたいのだ。

 拾いたい気持ちを拾い上げて、それを信じれば、それこそが正しいのだと。


 そうして、自分はその答えに、味方すると、伝えてくれているのだ。



「嘘、吐かなくて良いです。一番選び取りたい気持ちを、選ぶと良いですよ。コタローさんは、本当に悪手だと思っている事は、きっと選びません。私が、頭では否定しながらも、遂叶ちゃんと友達になる選択を、したように」



 少しクサい台詞にも聞こえるのに、流石はゲーム内のキャラクターの名を冠しているだけあって、随分と様になる。

 彼女の言葉はすとんと心に落ちてしまった。


 俺が彼女たちを思う気持ちが本当であれ、植え付けられたものであれ、信じたければ信じれば良いのだ。


 俺は今間違いなく、自分で思考する程度の自由は与えられていて、その思考の方向性を吾妻さんが保証してくれている。


 もし、これが神の植え付けた感情であっても、選択の自由は自分にある。


 神が影響を及ぼすのはあくまで、記憶に関してのみに限られている。


 行動は、自分の意思で選ぶことが出来るのだ。


 悩む事で立ち止まり、行動しないままでいる事が、一番の悪手で、神の望む未来でもあるのだろう。



「ありがとう、吾妻さん。ちょっと、前向きになれた」


「どういたしまして。あんまりコタローさんが沈んでいると、遂叶ちゃんが辛そうなので、これで最後にしてくださいね?」


「……はい。ごめんなさい」



 これに関しては、多少自覚があるので、素直に謝罪を口にしたけれど、吾妻さんはいまいち気に入らない様子で、ぷいと後ろを向いてしまった。



「私、ずるいですね」


「何が?」


「何でもないですよ」



 吾妻さんは、振り向かない。

 此方を見ない吾妻さんが、どんな表情をしているのか、俺にはまるで分からなかった。


 下階へ降りるための階段へ向かって一人歩き出した吾妻さんの、少し後を追って歩いて行くと、後ろからダンダンと床を蹴る音が、複数聞こえてきた。


 襲い掛かられては敵わないので、早足で階段を駆け下りて、追い抜いてしまった吾妻さんを見上げる。


 彼女は、綺麗に綺麗に、微笑んでいた。


 呆れているような、何かを諦めているような、そんな笑顔だったけれど、それでも彼女は、笑っていたのだ。



「どうかしましたか?」


「いや、なんか。泣いてるかなって」


「なんですか? それ」



 くすりと、彼女はもう一度だけ笑って、最後の階段を降りる。

 隣に並んで「早く戻りましょう」なんて俺を急かす、その表情は、もうすっかり、普段のものと変わらない。


 俺はなんだか居心地が悪くて、頬を掻いた。


 浮いては沈み、浮いては沈みの中で、世話の焼ける妹たちだと思っていた彼女たちに助けられながら、俺はまた一つ、心に決めた。


 例え、何処かの誰かに植え付けられたものだとしても、実際に関わり合い、選択して辿り着き、彼女たちに対して抱いた感情は、疑わない。


 その全てを掌握しきれているような万能な神なのであれば、俺は今モブ子に対して疑問なんて抱いていないだろう。


 だから、信じたい事柄は、信じよう。


 少し前を歩く吾妻さんの後ろ姿を眺めながら、そんな今更ながらの方針を、心に決めたのだ。




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