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63.この世界の、謎を解くためにも




『でも、記憶の改竄はもう起きないと考えてる』



 俺が彼女の言葉を飲み込む事も出来ない内に、彼女は言葉を続ける。

 ――そうだ、確かに、俺はクイックロードの前に金色の髪を見た。声を聞いた。


 あれは、五十嶋桂那だ。



「君は、誰だ?」


『……私は、五十嶋桂那。ニイちゃんの、最初の友達。ヒナミの先輩。この世界の、バグ。ある時から、世界の個人的干渉を受けずに、もう何十回と世界の行末を見送った、この世界のバグだよ』



 五十嶋桂那の声音には、悲しみだけが含まれていた。

 映画を観て悲しかったと感想を述べるみたいに、自分のものでは無い何かを語るみたいに。


 クリアしたゲームがリスタートするみたいに、この世界はもう何巡もしているのだろう。


 俺はその、何巡目かで五十嶋桂那に会っている。

 


『ニイちゃんが、悲しそうに自分は兄ちゃんだったって言うから、ニイちゃんはニイちゃんなんだよ』



 スピーカー越しに聞こえる彼女の声は、震えていた。

 泣いているのかもしれない。

 この世界の女の子は、みんな泣いている。



『思い出して。……約束した』



 鼻を啜るような音が聞こえる。

 三条さんも、吾妻さんも、泣いていた。

 ヒナちゃんも、幸せではない。

 過去に知り合ったという、五十嶋桂那も、泣いている。


 延々に繰り返しているというのであれば、この三年間が終わり、また一年目に戻れば、同じように恐怖を植え付けられ、同じように蔑ろにされ、同じようにひとりぼっちだ。


 どれだけ現状を変えようとも、巻き戻るのであれば、意味が無い。


 今回、吾妻さんと三条さんは、友達になれたけれど、次もなれるとは限らない。


 ――この茶番を、続ける意味が、見出せない。



『ニイちゃんは今、とても囚われている人が居る。その人を探して。その人は、世界の鍵になる』



 俺の、天使だ。

 最早実在するのかどうか、定かでは無い、名無しのモブ子。



『約束、思い出したら、電話して』



 その言葉を最後に、電話は切れた。

 断続的な機械音だけがスピーカーから発されていて、俺は携帯電話を閉じる。

 ポケットにねじ込みながら、目の前のヒナちゃんを見れば、不思議そうな顔をしていた。



「どうしたの? 顔色悪いけど、誰から?」


「友達、から。その、……俺の一目惚れの人の事、相談してて……」



 言い訳なんて、浮かんで来なかった。

 ヒナちゃんはハンバーガーを頬張りながら、そんな俺を見て笑う。



「ヒナは、タロくんの味方になりたいな。だって、お兄ちゃんが居たら、タロくんみたいに優しい人だったのかなって、思うもん」



 ――兄ちゃんを見てたら、本当にお兄ちゃんだったら幸せだったのにって、思うよ。



 ヒナちゃんに、あの子の姿が被って見える。


 引っ込み思案で、自分に自信が無くて、誰にも理解されない。


 辛い事があっても、俺の前ではいつも笑っていて、親と折り合いが悪くて、いつも俺の所に逃げてくる。


 それでも、その子は笑ってる。


 肩につくかつかないか程度の黒髪で、癖なのか、右側の耳の横の一房をくるくる手で弄るので、そこだけ、いつも内巻きになってる。


 吾妻さんみたいな、黒縁の重たい眼鏡を掛けていて――


 ――その容姿は、俺の記憶の中にある、モブ子の姿に瓜二つだ。



「ヒナもさ! ヒナも一緒に探すから! ……そんなに悲しそうな顔しないでよ」



 相当心配させてしまったらしい。

 ヒナちゃんは、食べかけのバーガーをトレイに置いて、身を乗り出している。



「……ごめんね、ヒナちゃん」


「いいよ。ヒナ、タロくんの事好きだもん」



 にっこりと、笑みを浮かべる女の子。

 彼女は優しい子だ。

 五十嶋桂那は、ヒナちゃんの事を信用しているようだった。

 それなら、ヒナちゃんに手伝って貰うのが、一番良いのだろう。



「お願いしても、いいかな」


「うん。ヒナの事頼って」



 今日、待ち合わせ場所で会った時と同じ様にピースを作ってみせて、それから「ヒナこれ早く片付けちゃうね」と、再び食事に取り掛かったヒナちゃんを見て、俺は少し安堵した。


 五十嶋桂那は味方だ。

 ヒナちゃんも味方。


 ヒナちゃんに手伝ってもらい、モブ子を探す。


 この世界の、謎を解くためにも。






お読み頂きありがとうございます!

次の章は「モブ子」を探します。

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