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56.それ見たことか





 球技大会の、翌登校日。

 俺と三条さんは、一限目から、部室でサボりを決め込んでいた。

 二つ並べた机を真ん中に、俺の反対側に椅子を置いてそこに腰掛ける三条さんは、姿勢を崩す事も無く真っ直ぐ此方を見て、俺の話に耳を傾けている。



「という訳で、今日の昼休憩後に、五十嶋桂那さんを探しに行きます」



 吾妻さんとした会話の内容と、水無月仁美から得た情報を、三条さんに伝えたのだ。

 それを聞いた彼女は、うんうんとしきりに頷いてみせた。


「コタが五十嶋さんも誘うって言った時は、なんでって思ったけど。五十嶋さんが教室にも行けないくらい怖いなら、それこそ此処が受け皿になってあげるべきだもんね」


 彼女たちには、男子生徒に囲まれたという共通体験がある。

 なので、そこを話に挙げられると、同情的にならずにはいられないのだろう。

 やる気十分の三条さんは、もう一度うんと頷いてから、俺の事をじっと見詰めた。


「そういえばさ、」


 やけに勿体ぶって口を開くので「なんですか?」と続きを促すと、三条さんは一度視線を机に逸らし、それから、また真っ直ぐ俺を見て、ようやく口を開く。



「コタ、この前電話でタメ口だったよね」



 余計な事を思い出したなぁ。

 素直に面倒だったので「そうでしたっけ」ととぼけてみせるが、三条さんはえらく強気に「そうだよ!」と身を乗り出す。


「あの時は急いでいたので」

「アタシだってタメ口なんだから、コタだってタメ口でいいじゃん」

「親しき仲にも礼儀ありって言うでしょう?」

「距離置きたいだけでしょ!」


 あ、意外にも、バレていた。


「――って、咲ちゃんが言ってた」


 ――告げ口があっただけらしい。

 分かっているのであればそっとしておいて欲しかったのに。


 俺は初めのうちこそ割合砕けた話し方をしていたつもりだが、最近では敬語を心掛けていた。

 当初は、ゲーム内のキャラクターに気を遣っても仕方が無いと思っていた。

 ただの邪魔なおっぱい程度の認識だったが、関わるにつれて、彼女たちに自我があり、それを元に行動していると判断してからは、――ゲーム内のキャラクターの枠を超えて情が湧いてしまってからは、距離を置く為に行っていたものである。



「咲ちゃんも、タメ口が良いって言ってたし」



 これは、吾妻さんの仕返しなのかもしれない。

 俺が三条さんに弱いと言ったので、三条さんを使って嫌がらせをしているのだろう。

 ただ、純粋な嫌がらせの為に吾妻さんが三条さんを利用するとは考え難いので、三条さんが相談でもしたんだろう。

 返答は『コタローさんは、直接話せば聞いてくれると思いますよ。私もタメ口で話してほしいと伝えて貰っても構いませんし』だろうか。心の中で、コタローさん嫌がりそうで仕返しになるし、と付け加えていそうなもんだけど。



「別に、タメ口で話されたからって思い上がったりしないし」



 独り言のように、拗ねたように、三条さんは下を向いて呟く。

 これは、放っておいたら、泣いてしまうんじゃなかろうか。

 彼女は拒絶される事に対して、酷く弱い。



「――分かった。敬語、やめるよ」

「ほんと!?」



 がたりと椅子が床を擦る音が鳴る。

 立ち上がった三条さんは、前のめりに、俺に顔を寄せる。


「その代わり、一定の距離はちゃんと保って」

「わ……わかってる」


 釘をさせば、するすると椅子に戻っていったので、相変わらず素直なもんだ。


 俺は、バレないように小さく溜息を吐く。

 面倒である事に、違いは無いのだ。

 これ以上深く関わって、自制出来る自信も、あまり無い。


 まあ、三条さんと吾妻さんに対してタメ口を利く事で、二ノ前満月や水無月仁美に、より距離を置きたがっている事が伝われば儲けではあるので、悪い事ばかりでもない。



「咲ちゃんにもタメ口だからね!」

「……わかったよ」

「喜ぶかな?」

「案外嫌がるかもよ」

「そんな事ないよ。咲ちゃんもコタと仲良くなりたいって言ってたもん」

「それじゃあ、三条さんが俺に言って敬語が外れたら、吾妻さんは感謝してくれるかもしれないな」

「それね!」



 こんな事で、三条さんは一番星を見つけた子供みたいに笑うのだから、毒気が抜かれて、困ってしまう。

 これ以上この話に付き合っていると、次は名前で呼んでくれとでも言い出しかねないので、話を逸らした方が良いのかもしれない。


 五十嶋桂那をどう誘うか、考えた方が幾分も建設的だろう。


「それとね、コタ。名前――」

「ところで、五十嶋桂那さんの事なんだけど、」


 それ見たことか。

 食い気味に言葉を重ねれば、三条さんは視線を泳がせる。

 出鼻を挫いてやったので、暫くは話題に出す事はないだろう。

 俺はもう一度、こっそり溜息を吐いてから、話題を逸らす為に、五十嶋桂那の勧誘案について、三条さんに意見を求めた。




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