55.本当に暇人ですよね
「五十嶋さんってクラス何処でしたっけ」
「E組ですね。隣のはずですけど、見掛けた事はありません」
「最悪、登校してない可能性も有り得ますからね」
ゲーム内設定をガン無視した出で立ちといえど、彼女もまた攻略対象キャラクターだ。
肉壁には囲まれているだろう。
入学式の日に牛鬼が話していた、校門付近の人集りは、五十嶋桂那が絡んでいると思われる。
裏門と花壇に、三条さんと、吾妻さん。
B組に二ノ前満月。
水無月仁美が囲まれる事は考え難いので、残る五十嶋桂那に違い無い。
そこでショックを受けていれば、普段登校していないという可能性も視野に入れなければならない。
「なになになにー? 面白い話い?」
聞き慣れたくもないのに聞き慣れた声が聞こえて、横を見れば、そこには水無月仁美が立っている。
近付いて来たことに、全く気付かなかった。
「本当に暇人ですよね」
「こらこら、お仕事お仕事」
「こんにちは、水無月さん」
「こんにちはー、吾妻さん」
俺越しに挨拶をする二人は、えらく素敵な笑顔を浮かべている。吾妻さんのそれは、他所行きのそれなのだろうけれど、知った上で見ると感心してしまう程に、自然に内気な女子生徒の笑顔だ。
「何の話してたの?」
「五十嶋さんを部活に誘うのに、何処にいるのかなって。コタローさんと話してたんです」
「あー、私知ってるよ?」
周知の事実だとでも言いたげに、あまりにも当たり前のように言ってのけるので、俺も吾妻さんも揃って素直に驚いた顔をしてしまった。
そんな俺たちを見た水無月仁美は、途端に得意げな顔をする。
「旧校舎の三階に旧図書室があるんだけどね。蔵書も全部新築の図書館に移されたから、本に関してはすっからかんなんだけど、そこにいつもいるよ」
「サボり、容認されてるんですか?」
「んー、保健室登校みたいなもんだよね。一応放課後は自習室として解放されてるから、机なんかも一式残ったままだし」
途中までは饒舌に語っていたものの、そこに居る理由となれば、少し言い難そうに、水無月仁美は説明する。
人差し指を立てた右手をふりふりと揺らしながら説明を終えると「まあ、君たちなら会ってくれるんじゃないかな」と、言葉を締める。
「人に囲まれる事は、恐ろしいですよね……」
「そういう事だね」
恐ろしい、という言葉を吐いた吾妻さんは、自分の身に起きた出来事を思い出したのか、身震いをする。
彼女もまた、一部の男子生徒が怖いのだろう。
俺と吾妻さんだけだと威圧する可能性もあるので、マスコット代わりに三条さんにもついて来て貰うかなと考えていると、横から肘鉄が飛んでくる。
言うまでもなく、吾妻さんだ。
「良からぬ事、考えてません?」
「ほんと、どうして分かるんですか?」
「コタローさん、自分が思ってるより顔に出てますよ」
「いやあ、仲良いねえ! 御馳走様!」
おっさんみたいな言葉を残して、へらへらと笑いながら、水無月仁美は去って行く。
――基本的に、物事が拗れる時って水無月仁美が絡んでいるんだよな……。
鬼ごっこの際にしても、部活にしても、二ノ前満月と吾妻さんの会話を聞いた際にしても、転換期には水無月仁美が関わっている事が、割合多い。
お助けキャラというゲーム内設定を引き継いでの事なのか、本人の意思なのか、その辺りに関しては良く分からないが、今回も面倒な事にならなければ良いんだが……。
心の中で、小さく溜息を吐きながら、俺は再び、モブ子探しの為に、女子生徒たちの観察を再開した。




