54.バレていたらしい
「咲ちゃん! コタ! 見てた? 次決勝だよ!」
ジャージ姿の三条さんが、にこにこ笑顔を振りまきながら俺の元へ駆け寄ってくる。
例の、球技大会だ。
四月に球技大会があるのはオリエンテーション的な意味合いがあるのだろう。ゲーム内では存在しなかったイベントのはずのそれを、三条さんはここぞとばかりに楽しんでいた。
俺はそもそも参加する気なんてなかったが「せめて見に行くくらいはしなければ悲しみますよ」と言う吾妻さんに連行され、大人しく隅の方で吾妻さんと並んで座っていた。
三条さんの運動能力は、桁が違うと言っても過言ではない。
彼女の放ったボールをバレー部所属の女子生徒が受けたところ、腕を蹴散らし、青痣が出来たらしい。
その後は最早、ドッジボールの様相だ。
そもそもA組は女子に関しては体育会系の詰め合わせの様なものなので、どの球技に関しても女子は粗方勝ち進んでいる。
「聞いてる?」
「聞いてますよ。流石に強いですね」
「スポーツなら任せてよ」
胸を張り誇らしげな顔で笑ってみせるそれは、まるで、取ってこいを成功させた犬のようだ。
「コタローさん、失礼な事考えていませんか?」
横槍が飛んでくる。
察しの良い吾妻さんは、どこを取ってそう判断したのかは分からないが、目敏く非難するように、じっとりとした視線を投げ掛けて来た。
「そんな事無いですよ」
「本当ですか?」
「二人とも仲良しだね」
三条さんが、はにかんだように、笑うので、俺たち二人は顔を見合わせる。
ここのところの三条さんはずっと上機嫌だ。
彼女以外が俺たちを見て仲良しと言ったのであれば、俺たちはそれを嫌味だと受け取るだろうけれど、三条さんのそれは、心から嬉しがっている様な発言で、毒気を抜かれてしまう。
「それじゃ、アタシは助っ人に行ってくるね」
「ご苦労様ですね、頑張ってください」
「応援していますね、遂叶ちゃん」
「う……うん! 頑張るよ!」
ぽっと頬を赤らめて、駆けて行く三条さんの後ろ姿に、千切れんばかりに左右に振れる、尻尾の幻覚を見た。
ヒナちゃんに対しては名前で呼ぶ事を拒否していたが、吾妻さんに呼ばれるのは嬉しいらしい。
隣に座る吾妻さんを盗み見れば、此方は此方で、幸せそうに笑っている。
なかなかどうして、上手くいっているんじゃなかろうか。
「ところで、今日のコタローさんはどうして女の子をそんなにジロジロ眺めているんですか?」
唐突にとんでもない言い掛かりをつけられて――、いや、言い掛かりでは無い。現に俺は女の子たちをジロジロと眺めていたけれど、言い様というものがあるだろうに。
「探し人が居るんですよ。これだけ一年生が集まっているなら好都合だと思いまして」
ヒナちゃんの協力の下、モブ子を探すという計画は頓挫している。
あの騒動で、ヒナちゃんは吾妻さんに謝罪する事も叶わないまま先に帰ってしまったからだ。
三条さんが、俺の電話番号を教えたらしく、後からショートメールで『また行くね』とだけ届いていたが、機会があるなら自分でも探してみるに越した事は無いだろう。
そう思って、球技に明け暮れる女子生徒たちを観察していた訳だが、吾妻さんにはしっかりとバレていたらしい。
「五十嶋桂那さんですか?」
「ん……、ああ。部活、誘わなきゃいけませんからね」
「どうやらサボりみたいですね。コタローさんが探しているみたいだったので、私も探してはみたんですけど……」
都合の良い勘違いをしてくれていたので、それに乗っかっておく。
ただ、言われてみれば確かにそうだ。
五十嶋桂那も、探し出して部活に誘わなければならない。




