48.コタローくんの事好きなのかな?
吾妻さんが姿を見せないままに昼休みが終わりそうだったので、三条さんとヒナちゃんを部室へ残し、一人吾妻さんを探すために部室を後にする。
何だかんだ、あの二人は相性が良さそうなので、三条さんの友達を作るといった意味でも、良いだろう。
ヒナちゃんとは、俺に対してモノを言うように会話が出来ている。
年下であるし、あの性格だ。強く当たった所で応えない相手なので、吾妻さんと話すよりも幾分か楽なのだろう。
さて、吾妻さんが居るとすれば何処だろうか。
当ても特に無いので、取り敢えず一階を目指して歩いていると、此方へ上ってくる水無月仁美と出会した。
「おー! 田中くん! 昨日振り!」
「今日も元気ですね、水無月さん」
「元気元気! あ、猫丸見なかった?」
「朝見掛けましたけど」
「見掛けた時点で報告してくれーーーー!!」
まだ追いかけっこしてんのか、この人。
若干引いた目で見てしまったが、まあ、こういったものも、彼女の計算の内なのだろう。
猫に遊ばれる残念な大人。
その気になれば捕獲器でもなんでも仕掛けられるのに、強硬手段に出ていないあたり、見つかればいいな程度の事なのかもしれない。
「それより、吾妻さん見ませんでした?」
「ん? あー見たよ! さっきミツキちゃんと歩いてた!」
「流石、うろうろしてるだけありますね」
「暇人みたいに言うね? 一応お姉さんお仕事してるんだよ?」
思った事が口から溢れ出てしまった。
持つべきものは暇な用務員の知り合いといった所だろうか。
「何処で見ましたか?」
「一階の例の鍵の壊れた教室ー。ほんっと自由に出入りしてくれちゃうよねー。鍵直るまでだし良いんだけどさぁ」
水無月仁美の独り言は置いておいて。
二ノ前姉と吾妻さんなんて珍しい組み合わせがあったもんだ。
少し嫌な予感がして「それじゃあ、俺は行きますね」と水無月仁美に別れを告げた、つもりだった。
「くんくん」
人のにおいを嗅ぎながらふざけた擬音を口にする大人は、果たして大人と言えるのだろうか。
水無月仁美は自慢の八重歯をにいと見せて「いい匂いがするねえ、田中くん」と笑ってみせる。
この人に声を掛けたのは、失敗だったかもしれない。
「私もついて行こうじゃないか」
「仕事してるんじゃなかったんですか?」
「そんなの後回しよ!」
「ふざけてますね」
置いて行った所で、目的地を知られている以上、逃げ道がない。
なす術も無く、俺は、水無月仁美に後をつけられながら、一階のサボり場へ足を向けた。
―――
「待って」
目的地に辿り着くと、途中から先行して歩いていた水無月仁美は、小さな声で、そう言った。
それから身を屈めて、扉にぴったり耳を当てる。
不審者、此処に極まれり。
他人の振りをしたくなったので、意に介さず扉へ手を掛けたが、水無月仁美は、俺の手を引いた。
それから、身振り手振りで、耳を当てるように指示をする。
悪趣味だ。指示に従わず、ただただ床に座っていたが、そんな事をせずとも、中の会話は漏れ聞こえていた。
扉でもしばいてやろうかと思ったが、それを察した水無月仁美は俺を羽交い締めにしようとしてくる。
俺の口を手で塞ぎ、身を寄せてくるのだ。
そうなればもう、おっぱいの危機だ。
ずりずりと、教室から遠ざける様に廊下の反対側へ引き摺られ、何とか乳に触れられないように抵抗する俺は、それ以外の行動を許されなかった。
「ごめんね、無理やり連れて来て」
「……構いませんよ」
「うん。……見てられなかったしね」
えらく沈んだ調子で話す二人の声だけが、廊下に響く。
「ねえ、サキちゃんってさ。コタローくんの事好きなのかな?」




