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39.罪滅ぼしも兼ねて




 言い終えた後、暫く気は張ってみたが、別段、変わりは無い。

 思惑も含めて記憶に残っているという事は、今回に関しては不発という事なのだろう。


「五十嶋さん?」

「そう、五十嶋桂那さん。申請の名目的にも、誘ってみても良さそうじゃないですか」

「確かにそうかもね!」


 同意をしたのは、二ノ前満月だった。

 困惑した様子の三条さんと吾妻さんに反して、二ノ前満月は俺の提案が大変お気に召したらしい。

 ぱあと表情を明るくさせて、ほのかに頬まで赤らめて、激しく頷き肯定してみせる。



「コタローがそう言うの、なんか意外だな」



 鴎太のその発言はもっともなもので「まあ、苦労してるかもしれないだろ」と、申し訳程度に補足を入れておく。


「田中さんは、優しいですね」

「コタは誰にでも優しいもんね」


 三条さんが不服そうにするのは、何となく理解出来るけれど、吾妻さんまで少し悲しそうな表情をするのは、何故だろうか。

 全てを一纏めにして「(かぐわ)しい……」と恍惚とした表情で、胸の前で指を結う水無月仁美は、見ないものとして。

 取り敢えず、等しく同意は貰えたので、そちらの方向で話を進める事にする。


 五十嶋桂那は、この世界がゲームの中の世界だと認識しているようだった。

 俺が知りたい答えを知っている可能性もある。

 関与している可能性もあるので、積極的に調べにかかるのは危ないが、一纏めにしてしまう分には問題無いだろう。


「それじゃあその方向でいいのかな? 皆名前書いてくれたら、私が牛鬼先生に提出しておくよー!」


 妄想の世界から帰還したらしい水無月仁美が、大人振って指揮を取る。



「あ、部長誰にする?」



 その一言で、一斉に、十個の眼が此方に向けられた。


 ――冗談じゃない。


「じゃんけんにしましょう。負けた人が部長で」

「え、コタローでいいじゃん」

「アタシもコタで良いと思う」

「じゃんけんにしましょう」


 二度言えば、向けられていた眼は散り散りに泳いでいった。

 そんな面倒臭そうな事は断固として拒否したい。


「俺、グー出します」

「え、じゃあオレもグー出す」

「じゃあ、アタシもグー出すね」

「私もグーを出しますね」

「あいこになるよ!?」


 さて、結果はどうなるか。

 割と予想通りのものが出て、笑ってしまった。

 最初はグーのじゃんけんぽんで一斉にグーを出したのは、俺、鴎太、吾妻さんの三人だった。


 残りの二人はチョキを出したのだ。


「コタ! なんでグー出すの!」

「いや、グー出すって言ったでしょう」

「コタなんか嘘つきだからパー出すと思うじゃん! 皆チョキにすると思った!」

「心外ですね」


 吾妻さんが三条さんを前にして嘘を吐くとは考え難い。この流れなら、間違いなくグーを出すだろうに。

 チョキを出すと、負けるか、あいこになるかだ。

 素直にグーを出していれば、最悪でも吾妻さんとの二人負け。上手くいけば、裏を読んでチョキを出したやつを出し抜けるのに。


 俺の事を信じていない三条さんは、咄嗟にチョキを出すだろうなとは思っていたが、二ノ前満月がチョキを出したのは少し予想外だった。

 宣言した時点で困惑していたので、あいこ狙いでチョキを出したのかもしれない。


 同じ考えで居たらしい鴎太は飛び火してこないように目を逸らし、唯一の正直者である吾妻さんは申し訳なさそうにしていた。


「じゃんけんって、こんなのだったんだね……」


 二ノ前満月に関しては、自分のぴょっこり立てた人差し指と中指を、恐ろしいものを見るような目で見詰めて震えている。


「アタシか二ノ前さんなら、絶対二ノ前さんが部長の方がいいよ!」

「三条さん、逃げるんですか?」

「逃げてないし!」


 こうなった三条さんは、面白い。

 グーチョキパーを繰り返し、次に出す手をああでもないこうでもないと、独り言を口の中で噛んでいる。

 表情は混乱を極めていて、目をぐるぐると渦巻きにし、頭の上にピヨピヨと小鳥が回っていそうな勢いだった。


「行くよ! 二ノ前さん!」

「あ、うん……」

「さいしょは、グー! じゃんけん……っ」


 ぽん、と出された両者の手は、グーと、パー。


「――――っ!!」


 声にならない喜びを噛みしめながらガッツポーズをしてみせたのは、三条さんだった。

 二ノ前満月は放心状態であったし、グーから手を変える事が出来なかったのだ。


「二ノ前さん! 部長ね!」


 物凄くやりきった顔で額の汗を拭いながら、三条さんは輝く笑顔で宣言してみせる。

 水無月仁美がけらけらと笑いながら、申請用紙を差し出して、二ノ前満月は目を白黒させたまま、その紙の一番上に名前を記入する。


「じゃあ、副部長は田中くんねー」

「は?」

「まあ言っても、この集まりって田中くん繋がりでしょー?」


 止める間もなく、さらさらと二番目の欄に水無月仁美が俺の名前を書き始める。というか、


「筆跡模写うますぎません?」

「やー、保健室で君の字見たしねー」

「とんでもない特技ですね」

「まあまあ、他の子も書いた書いたー」


 副部長。不本意ではあるが、二ノ前満月がワンマンで暴走する可能性が無いかと言えば、否定は完全には出来ないので、妥当なポジションと言えば、妥当なのかもしれない。


「活動内容はどうする? 君達サボって何してるの?」

「ゲーム?」

「昼寝ですね」


 沈黙が流れる。とても活動内容に出来そうに無い。

 けれどまあ、活動内容はこの面子であれば、決まっていた。


「活動内容は、校内美化と保全活動にします。名前はそのままで良いでしょう」

「へ、意外だねー?」

「まあ、部室が貰えれば何でもいいので」


 全員が驚いた顔をする中、申請用紙の部活動名欄に校内美化保全部と記入する。

 理由は、単純で、吾妻さんのためだった。


 彼女は、ゲーム内では、花壇弄りを趣味にしていた。

 けれど、現状吾妻さんは、それを出来てはいない。

 始めて会った際に花壇で囲まれていた事から、自我が芽生えてそれ自体をやめてしまったという訳では無さそうなので、理由は恐らく、男子生徒に邪魔されてしまうからだ。


 牛鬼公認の部活動ともなれば、邪魔される事も少なくなるだろう。


 色々付き合わせてしまった事へ対しての、罪滅ぼしも兼ねての提案だった。




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