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37.賄賂でも渡したんですか?





 女の子同士の会話といえば、ほのぼのしていてお花が飛んでいそうだなというのが、俺の中のイメージだった。

 ロクに女友達なんていなかったもんで、そんな幻想を抱いているわけだけど、三条さんと吾妻さんの会話というものは、予想に反して、割と見応えのあるものだった。


 俺の隣に座るでも無く、椅子を出して来るでも無く、ただただ突っ立っている三条さんは、後ろで組んだ手をもじもじさせて、視線をうろうろさせている。何か話さなくてはと、焦っているんだろう。

 対して、吾妻さんはというと、俯きがちに視線を膝先へ落とし、腿の上でちょこんと重ねた手をもじもじさせている。此方も、何か話さなくてはと頭を悩ませているんだろう。


「きょ……、今日もいい天気だね」


 三条さんから、様子見のジャブ。


「そ……そうですね。今日は一日晴天だそうですよ」


「そうなんだ。傘はいらないね」


「そうですね」


 沈黙。会話が終わってしまったらしい。

 この気持ちは――何に例えよう。たとえば、初めて対面する犬と猫をケージ越しに向き合わさせて、仲良く出来るかどうか見守る飼い主の心境とでも言おうか。

 手に汗握るものがある。


「あ……飴いる?」

「ありがとうございます……!」


 一応、毎度三条さんから話しかけようとは試みるらしい。

 自分の鞄を漁って、可愛らしいポーチから飴を取り出して、吾妻さんの元へ駆け寄る三条さん。そうして飴を手渡した彼女は、大層満足そうに笑っている。なんなら、俺にドヤ顔を見せてくる。

 それは、何がどう成功なのだろうか。会話は全く出来ていないぞ?


 こうなって来ると、昨日彼女たちはファミレスで何を話していたのかが少し気になってしまう。

 お通夜みたいな顔をして、ひたすら、ドリンクバーから汲んで来たジュースを啜っていたのだろうか。


 沈黙の中、飴玉を舌先でころころ転がす彼女たちは二人して満足そうなので、もしかすると女の子って、こういう生き物なのかもしれない。

 ――いや、そんな訳ないか。


 くだらない事を考えていると、扉がガコンと音を立てる。


「わ、大集合じゃん」


 そちらへ視線を向けると、立て付けの悪い扉を開いたのは、鴎太だった。

 俺たちを見て、珍しいものを見たとばかりに目をくりくりさせている。


「おはようございます、鳳凰さん」

「おはよう、鳳凰」

「おはよう、吾妻さんと三条さん」


 人の名前が飛び交う挨拶を済ませて、鴎太はみいみいと床を踏み鳴らしながら俺の隣へやって来る。


「机の上に手紙置かれててすげービビったわ」

「手紙?」

「これ」


 鴎太が差し出したそれは、えらく可愛らしいデザインの封筒だった。

 差出人の記名欄には可愛らしい丸文字で、田中太郎と書かれている。


「……三条さん?」

「いや、だってほら! アタシの名前だと来てくんないかもじゃん!」

「ははは、告られるんかと思ってびっくりした」

「気色悪いからやめてくれ」


 封筒を開いて中の便箋を取り出せば、そこには同じような丸文字で、此処で待っている旨が書かれている。


「お前、良くこれで来たな」

「受けて立とうと思ってさ」

「受けて立つなよ、バカか?」

「なんて返事すれば面白い感じになるかなーってめっちゃ考えた。発表する?」

「いらねえよ。黙ってろ」


 告白するつもりも無いやつに、振られる台詞を発表される上に、相手が野郎だなんて、鳥肌がデフォルトの肌になってしまう可能性があるので、勘弁願いたい。


 それでも鴎太がしきりに発表したがるもんで、帰ってやろうかと考えていると、開いたままの扉から、ひょっこり顔が生えてくる。


「おー! みんなそろってんね!」


 水無月仁美だ。サボりはダメだと宣っていたくせに、一限目をサボる気満々のこの集団の注意はしないらしい。


「おはよー諸君! これを見よ!」


 相変わらずの得意げな顔で、水無月仁美は一枚の紙切れを掲げてみせる。

 新規部活動申請書類、と書かれたその紙には、承認者の欄に牛鬼の名前が書かれている。

 部活動の内容も、面子も記入されていないにも関わらず、だ。


「賄賂でも渡したんですか?」

「んやんや、お姉さんこれでも頭が良くってね」


 カランと音の鳴りそうな自身の頭を人差し指でトントン叩き、水無月仁美は八重歯を見せてニッカリ笑う。


「新入生女子生徒の中に、男子生徒に囲まれる子たちが居て、その子たちが心安らげる場所が無いから、校内に安心出来る場所が欲しいですって説得したよ」


 思ったよりも頭を使った台詞が転がり出て来て、一体誰が絵図を描いたのだろうかと勘繰ってしまう。


「大会優勝とか実績出さないと活動費とかは出ないけど、部室は一室あてがって貰えるから」


 感心した様子でぱちぱちと拍手までする三条さんと吾妻さんは、水無月仁美の事を、頼りになる大人を見る目で見ていた。


「という訳で、あとは名前を書くだけなので! 五人目のメンバーを紹介します!」


 水無月仁美のテンションは最高潮だ。

 特別話を理解していないはずの、鴎太までもがごくりと息を飲む。



「それでは、カモン! ミツキちゃん!」






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