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34.よろしくお願いします






 クイックロード。

 クイックセーブという簡易セーブ機能を用いてセーブした地点までロードする機能。

 ギャルゲーに採用されている事が多く、主な使い方としては、選択肢前や、パラメーター上げの前にクイックセーブをしておいて、結果が気に入らなければクイックロードをする、といった感じだろうか。


 五十嶋桂那は、その言葉を口にした。


 ゲーム内の自分の設定を無視するようなその出で立ちを含めて、五十嶋桂那はこの世界がゲームの世界だと感づいているのかもしれない。

 それを、プレイヤーである、俺に示した? 何の為に?

 どうして俺に? 或いは、全員に言って回っている?


「何? いまの」


 三条さんが俺の後ろからひょっこり身を出し、五十嶋桂那の後ろ姿を眺めながら首を傾げる。


 疑問ばかりが頭に残るが、これ以上、女子生徒と絡むべきではない。

 今から五十嶋桂那を追えば、三条さんは不自然に思うだろうし、わざわざ関わるにはデメリットが多すぎる。


「気にしなくて、良いんじゃないかな」


「ふうん」


 腑に落ちないといった様子ではあったが、三条さんはくるりと前へ向き直り、A組の教室へ向かって歩き始める。

 特別何も話さず、三条さんは、明るく振る舞ってはいたけれど、それでも気まずさはあるのだろう。

 後ろも向かず前を歩く彼女の後ろ姿は、追われている何かから逃げているみたいだ。


 じりじりと、うなじの辺りを擽ぐる焦燥感は確かにあるのに、その根底が、どうにもかすみにとって食われているようで、釈然としない気持ちになりながら、俺は三条さんの後ろを歩く。


「ねえ、アタシさ。変わりたいな」


 後ろも向かずに発せられた言葉は、きっと、多分、独り言の類なのだろう。

 本のページをなぞるみたいに、頭の中で組み立てた台詞をそらんじるみたいに、三条さんは、言葉を続ける。


「それをさ、見ててくれると嬉しい」


 そんな小さな願いにも、俺は是とも非とも答えられない。

 返事をしないまま、生温い空気の中で、三条さんは笑っているようだった。



「本当に、それだけなんだ」



 三条さんの事が、どうにも気になる理由を知りたい。

 俺の中から消えてしまった、何かを知りたい。

 取り戻さなくては、いけない気がする。


 この世界の主なイレギュラーは、二ノ前満月と、鳳凰鴎太だ。

 五十嶋桂那の呟いた言葉も、気にはなる。


 その三人を調べれば、俺の中から掠め取られた何かに関しても、わかるかもしれない。


 ――そのためには、


「三条さん」


「なに?」


「良いですよ。俺、見てますね」


 少しずるいけれど、三条さんと友達になろう。


 あの違和感は、どちらも三条さんと居る時に起こった。

 今後も側に居れば起きるかもしれない。


 リスクは、勿論、伴うことで、これは結局三条さんの事を利用していることになるのかもしれない。


 それでも、俺は、――或いは、何か理由をつけて、三条さんを側で見ていたくなったのかもしれない。


 不器用な女の子が、幸せになれるように、手助けしてあげたいと、思ってしまった。


 自分の流されやすさにほとほと呆れてしまう。

 けれどこれは、天使に繋がる道な気もするから。


 驚いた顔をして此方を振り向いた三条さんに、心を痛めながら。

 俺は笑って「よろしくお願いします」と、伝えてみせた。






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