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27.吾妻さんの事、甘くみてました





「おーー! なんとか辿り着いたねえ」

「水無月さんのおかげです。ありがとうございます」


 本校舎一階、昇降口近くにある用務員室。

 窓に鍵を締め、カーテンは引いた。

 入り口のドアにも鍵を締め、籠城に関して言えば、完璧だ。


「んなごぉ」

「猫丸も、ありがとな」


 頭を擦り付けてくる猫丸。わしわしと身体を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細める。

 ブサイクである事に変わりはないのに、こうも尽力してもらえると、愛着が湧いてくるので不思議なものだ。


「私はまた、見回りに行ったらいいかな」

「そうですね、お願いします」


 此処まで来れば、次のステップはどちらかの捜索が終わり、片側に移るのを見計らって、移動する事になる。

 このまま下校時刻まで籠城するのも、ひとつの手ではあるが、校内にある部屋の鍵は、職員室で手に入る。

 此処もあまり、堅牢とは言えない以上、多少強引にでも校外へ出てしまう事が望ましい。


 水無月仁美には、再び捜索の進行度確認に向かってもらう必要がある。

 ひとりでは不安な面も多いが、有能な一匹がいるので、問題は無いだろう。

 日頃から、水無月仁美は色々な場所をうろうろしているという、プレイヤーの認知があるので、そこかしこに居たところで怪しまれる事もない。



「それじゃ、行ってくるね!」



 そうして、水無月仁美を見送ってから、十分後。

 唐突に、用務員室の扉が開く。


 一応ソファーの後ろに隠れては居るが、鍵を持ち歩いているのは、水無月仁美ひとりだ。

 普段開いている場所の鍵を、確認も無しにわざわざ職員室まで借りに行くヤツもいないだろうし、入って来たのは水無月仁美だろう。

 ソファーの陰から顔を出せば、そこには水無月仁美が立っていた。

 ただし、とても慌てた様子で、走って帰ってきたようだ。

 肩で息をしながら、水無月仁美は「大変……っ」と、言葉を詰まらせる。


「どうかしましたか?」

「一年生の男の子、本校舎に戻って来てるよ!」

「――本当ですか?」

「うん、本校舎囲んでる。包囲固めてるみたい」


 後ろ手で鍵を締めながら、水無月仁美は手をぶんぶんと振り回す。

 大変だ、と伝えたいらしい。


「……少し、考えます」


 一言断りを入れてから、状況を整理する。

 本校舎の捜索を終えたのに、本校舎に戻ってくる。


 それは、つまり、吾妻さんが逃げ手側であったとしたら、そう行動する、という事なのかもしれない。


 吾妻さんの勢力は多く見積もっても二十人。

 包囲網を作るには、人数面で心許(こころもと)ない。

 そうなれば、その隙間を縫って、俺が安全地帯に侵入すると読んでいたのかもしれない。


 鴎太が電話口で、フェアじゃないからと俺に追いかけている事を伝えた所から、既に作戦の内だったのだろう。


 追われているとなれば、当然逃げる為に策を巡らせる。


 追われていると知らなければ、俺がやたらめったらに移動する可能性がある。

 そうなれば、人数の少ない吾妻さんたちの目の届かないうちに探し終えた場所に入り込むかもしれない。


 けれど、逃げるとなれば、場所を選んで行動する。

 その分、でたらめな場所に居られるよりも、居場所を読み易くなる。


 一度に多くの人数と通話する手段が無い以上、始めに居る場所で捕まらない事は計算済みだったのだろう。

 狙いは、その場所に戻って来る頃合いを見計らい、捕まえる事だったのだ。


「吾妻さんの事、甘くみてました」

「どうするの?」

「脱出は、出来そうでしたか?」

「無理そうだったよ」

「そうなると、隠れて、此処に戻って来ていないと判断させてやり過ごすしかありませんね」


 作戦を変えるのは得策では無い。

 此処から逃げる事が出来ない以上、此処で遣り過ごすしかない。

 無謀な賭けではあるが、成功すれば、吾妻さんは随分動き難くなるはずだ。


「この場所に隠れたまま、遣り過ごします。水無月さんには、捜索の手がここまで及んだ際に誤魔化してもらう必要があるんですけど――」

「わかったよ! 大丈夫! 任せて!」


 ――この人を頼りにして、本当に大丈夫なのだろうか。


 不安しかない。

 けれど、この人を頼りにする他無い。


 そこからは、一切の会話もせず、ソファーの後ろで息を殺した。


 落ち着かない様子でソファーに座る水無月仁美。

 俺の傍で眠る猫丸。


 そうして、その時が来る。


 ――コン、コン、コン。


 静かな用務員室に、ノックの音がこだまする。


 出なければ、後は無い。


 鍵を借りて来て扉を開けられてしまった際、水無月仁美が中に居る状況こそ、一番不自然だ。


 ごくりと生唾を飲み下した水無月仁美は「はーい」と返事をする。


 その声は、不自然に、裏返っていた。





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