25.やけに統率がとれていた
この学校の教師は、サボりに寛容だ。
A組担任の牛鬼でさえ、俺が授業をサボっていても何も文句を言う事はない。
仮定でしか無いが、この世界での牛鬼の役割は、おそらくこの世界の調整役でしか無く、男子生徒が女子生徒を取り囲む等、進行の妨害に当たるものに関してのみ反応するんだろう。
A組の生徒は女子生徒であっても授業中は寝ている事が多いが、牛鬼はそれを咎めたりもしない。
これは、A組の女子生徒が主に運動部に所属している女子で構成されている部分を考慮されているのだろうが、何にせよ、牛鬼はこの騒動を止めようとはしていないようだったし、他の教師に関しても同じくだ。
外部からの助けは望めない。
そうなると、俺のするべき事はひとつ。家へ帰る事に尽きる。
「田中くん。ちらーっと見てきたけど、門のところは見張りがいるっぽいよ」
「ありがとうございます、水無月さん」
やけに統率がとれていた。
本校舎一階の窓から脱出した俺と水無月仁美は、現在、本校舎裏にある南館の更に奥に建つ、図書館内に、隠れている。
更に南に向かえば裏門があるのだが、どうやらそこには見張りがいるらしい。
偵察から帰って来た水無月仁美は、窓を乗り越えて中へ入って来た。
「しばらくは安心じゃない?」
「しばらくは、……そうですね」
窓を背に身を屈めて座り、そう話す水無月仁美。
確かに、吾妻さんは、まず第一に本校舎内を捜索するだろう。ただ、それが済んでしまえば、本校舎を封鎖して、別の場所を探し始めるに違いない。
電話を掛けたのは、悪手にも思えるが、俺が校内に居るかどうかの確証が無かった為致し方無かったに違いない。
「普通にその辺の壁越えちゃえば?」
「流石に、そんな運動能力持ち合わせてませんよ」
梯子を使えば上りは何とかなるだろうが、飛び降りれば足を折る。捨身になってまで逃げようとは思っていないので、それは却下だ。
多分、それを踏まえた上で人を配置しているらしく、来る道すがら、外壁を見張る者はいなかった。
「考えられる方法としては、本校舎の見回りを済ませた、その後ですね」
「その後?」
「はい。恐らく、本校舎を隔てて表門裏門どちらか側から潰してくるでしょう」
「うん、確かにね」
「だから、本校舎を全て確認し終えた頃合いを見計らって、本校舎に戻ります」
吾妻さんの勢力は、多く見積もっても二十人程だろう。
本校舎を調べ終わったら、二、三人の見張りだけを残してそこから離れるはずだ。
そこへ忍び込んで、片側の捜索が終わるまで待つ。片側の捜索が終われば、次はもう片側だ。そうなる頃合いに、また、捜索が終わった箇所へ忍び込む。
場合によっては、そちらの門の見張りを解いている可能性もあるので、それが一番ベストな気がした。
「わかりましたか?」
「オッケーオッケー! 大丈夫」
水無月仁美が頷いて、懐の猫もぶなあと頷く。
なんか、仲良くなってないか?
「水無月さんは、定期的に本校舎の捜索の進行度の確認に向かってください。用務員室へ出入りする振りをしながら。俺は動けないので、お願いしますね」
「わかった。任せてちょーだい」
胸を張る水無月仁美。
欠伸をするブサ猫。
頼りになるんだか、ならないんだか、測りかねる一人と一匹だ。
「じゃあ早速偵察に行って来るね!」
ぴしりと敬礼をした水無月仁美は、窓を再び乗り越えて、本校舎の方へ走って行く。
少し遠くの方から「やー! 何してんの」「今忙しいので話しかけないで下さい」みたいな会話が聞こえて来て、いざとなっても気を逸らす役には立たなさそうだなと、頭を抱えながら、俺は窓を閉めた。




