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20.アタシ、何でも出来るんだ






「アタシ、何でも出来るんだ。勉強も、運動も。やろうと思えば努力なんてしなくても、なんでも。バスケだってそう、特別な事何にもしてないのに、エースになった」


 それは、才能を持ち得ない人が聞けば、嫌味に聞こえる様な台詞だった。

 三条遂叶は、それを自分でも理解しているらしい。

 言い終えてから、自嘲するみたいに笑って、こう続けた。


「でも、人と話すのだけは苦手でさ。考え込んじゃうんだよね、何て言えばいいんだろって、黙っちゃって。小学生の頃のあだ名、口無しだった」


 無粋かもしれないけれど、攻略キャラクターにも、小学生の頃――なんてあるんだなぁと、当たり前の事だが驚きがある。


 彼女たちは、この世界で生きている。


 目の前の三条遂叶は、ゲームの中の三条遂叶では無く、人間として年を重ねる、ただの女の子の、三条さんなのだろう。


「近所のお姉ちゃんだけが遊んでくれてて、そのお姉ちゃんの真似するようになった。髪型や服装も、喋り方も、バスケも」


 相槌だって、していないのに。

 壊れたプレイヤーが、延々ビデオを再生するみたいに、三条さんは止まらない。

 俺は、ただその話を、黙って聞いている。


「そうしたら、お姉ちゃんよりバスケ上手くなっちゃってね。すごいねって言われて、何か答えなきゃって、簡単だったよって言ったら、遊んでくれなくなっちゃったよね」


 自分が可愛がっていた子に足を掬われたのだ。

 そのお姉さんを責める事は出来なくて、三条さんも、それを分かっている様だった。

 その言葉には、ただ後悔だけが詰められている様に、感じた。


「思った事、そのまま言ったら嫌われるって分かってるのに、口無しに戻るのが怖くて。結局焦ってそのまま言っちゃう。そんで嫌われるのの、繰り返し」


 不器用な女の子の、鼻を啜る音が聞こえた。

 ゲームの中の、スチル一枚で涙を流す女の子では、矢張り無いのだ。

 鼻を啜り、時々言葉を詰まらせながら。壊れ物でも扱うように、慎重に言葉を選びながら、彼女は続ける。


「一生懸命になれるものなんて何にも無い。大事なもんなんて、ひとつもない。一度壊しちゃったし、作るのが怖い。なのに、アンタも、吾妻さんも。一生懸命で、羨ましい」


 例えば、彼女からするベリー系の、あの香りは、本当の彼女なのだろう。

 誰かの真似で無くて、何気無く自分で選んだものだ。



 けれど、きっと誰も、気付く事は無い。



 ぶっきらぼうに吐き出される言葉の裏に隠された、彼女なりの悩みだって。

 誰も、他人の事になんてそこまで興味が無いから。


 ――俺は、そんな女の子を、他にも知ってる気がした。


 引っ込み思案で、自分に自信が無くて、誰にも理解されなくて――。



 ――駄目だ、思い出せない。

 記憶の奥で笑う女の子。確かに、存在するはずなのに、朧げで、まるでパズルのピースが抜け落ちているみたいに、はっきりとしない。




 身体を起こして、三条さんを見れば、びくりと大袈裟に身を揺らす。

 聞き流しているだけで、何も感じてなんて居ないと思っていたのかもしれない。


 だからこそ、彼女は自分の言葉で語る事が出来たのかもしれないけれど。


 髪をがしがしと掻いて、乱暴に癖を治して、それから、俺は、自分はえらく情に流されやすいたちなのかもしれないと、嫌になった。

 吾妻さんの時、然りだ。

 大切なのは、名無しのモブ子、天使ひとりのはずなのに。


「ねえ、三条さん」


 この女の子に対して、お節介を焼かずにはいられなく、なっていた。



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