125.一人目の協力者
「それは――」
「信じろって方が、無理な話だよね」
一から、十まで。
この世界がゲームを模して作られた世界であること。
吾妻さんが、そのゲームのキャラクターであること。
俺がこの世界に来た日から、今までの事。
全てを説明した。
「いえ、信じますよ」
吾妻さんは、それを全て聞いた上で、そう言った。
「私の認識している常識と、この学校の常識は、少し外れていますから」
「……例えば?」
「これだけサボりに明け暮れているコタローさんや遂叶ちゃんに、学校側は何もしませんし。人垣が出来るくらい特定の生徒に遠慮も無く男子生徒が群がるなんて、おかしいです」
ごもっともなんだけれど、それはゲーム補正されたりしていないんだなあ。
逆に驚いてしまった俺を見て、吾妻さんは笑っていた。
クイックロードの兆しも、無い。
「さて、どうするのが良いんでしょうね」
吾妻さんは、口元へ自身の指を運び、悩むような仕草を見せる。
問題は、山積みだ。
まず、社を壊した所で、二ノ前満月は時間を巻き戻すだろう。
後出しでじゃんけん出来るようなものだから、対策を練って、邪魔しに来るに違いない。
そうなった時に、俺と吾妻さんの二人では、手が足りない可能性がある。
「他にも、協力してもらえないか、声を掛けようと思ってる……」
「コタローさんは、普段人に頼ったりしないので、きっと頼られた人は喜びますね」
「俺は頼ってばっかりだよ」
モブ子を探した時も、そうだ。
それなのに、吾妻さんは人を頼らないと言う。
距離を感じさせているのかもしれない。
「全然ですよ。でも、理由が分かったので、仕方の無い事だなと思います」
目を伏せて、彼女は少し悲しそうな口調でそう言った。
それから、思い出し笑いでもするみたいに、小さく笑う。
「……どうかした?」
「ごめんなさい。ダメですね、私、楽しいんです」
「楽しい?」
「あの時の、鬼ごっこみたいじゃないですか」
――三条さん発案の、俺を追いかける鬼ごっこ。
あの時の吾妻さんも、随分と楽しんでいた。
「性格、悪いんでしょうね」
目蓋を押し上げて、大きな瞳で俺を見た吾妻さんは、心からの笑みを浮かべてみせる。
セリフとまったくチグハグなそれは、どこか、吹っ切れたみたいな。
開き直りのようにも感じられて、申し訳ない気持ちになる。
彼女にそんなセリフを言わせているのは、俺だから。
「策を練りましょう。そうして、今度は私が勝ちますよ」
自信満々に言ってのけた彼女は、もう、すっかり楽しむつもりでいるようだった。
何よりも心強い味方。
おまけに、彼女自身が『記憶喪失』になってもいいと明言している。
けれど、出来る事なら、犠牲は出したくない。
鬼ごっこだなんて、言い得て妙で、これは二ノ前満月を何処まで追い詰められるかの勝負になるだろう。
疲弊させて、疲弊させて、力を枯渇させてしまえれば、俺たちの勝ち。
二ノ前満月の力を、捌き切る事が出来なければ、俺たちの負け。
――協力を頼めそうな人。全員、頼めば引き受けてくれそうではあるだけに、酷く迷う。
「……俺の案を、言ってもいいかな」
「どうぞ。お願いします」
「――まず、決行は夏休みが始まる前までに」
「随分と期間を多く見積もりますね。すぐの方が良くないですか?」
「勿論、二ノ前満月の様子を見て決行を早める必要も出てくるかもしれないけど、出来れば準備期間は欲しい」
「なるほど。わかりました」
「それじゃあまず、一人目の協力者――」
俺が言葉を続けると、吾妻さんの目付きが途端に鋭くなる。
それだけは無いと、思っていたのかもしれない。
吾妻さんが、俺に協力してくれる理由に反する事になりかねないから。
けれど、その役目を担えるのは、彼女の他に居ないから。
そうして、これは、彼女の安全のためでもある。
「三条さんに、協力してもらおう」




