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121.社を壊す






「水無月さん……!」


 保健室横の水無月仁美が私物化している一室の扉を勢いよく開く。

 目をまん丸にさせた水無月仁美が、ソファーに座ったままぽかんと口を開けて此方を見ていたが、気を使っている暇も無いので、俺はそのまま水無月仁美に駆け寄った。


「五十嶋さんが可笑しいんで、ちょっと呼び出して貰えませんか」

「ちょ……、話が見えないよ?」

「説明は後からするんで。緊急なんです」

「わ……わかったわかった。それじゃあ職員室行ってくるから。田中くんはちょっと此処で待っててよ。ソファー座ってて」


 慌てて走って出て行った数分後に、校内放送が鳴る。


『えー、一年E組の五十嶋桂那さん。五十嶋桂那さん。至急カウンセラー室まで来てください』


 声は、牛鬼のものだった。

 用務員である水無月仁美が直接呼び出すのは不自然だという事で頼んだんだろうが、ナイスな人選だ。これで、男子生徒は邪魔する事が出来ない。


 自然と、膝が揺れる。

 貧乏ゆすり。普段はそんな事しないのに、焦りが身体を駆け巡っているみたいだった。




 ―――




「失礼します」


 ノックが三回。

 一足先に戻って来た水無月仁美が「どうぞー」と入室を促す。


「五十嶋さん、久しぶり。その後、どうかな」


 水無月仁美が五十嶋桂那に問い掛ける。

 二人が会ったのは、猫丸の小屋を作った日が最後だろう。なので水無月仁美は世間話を振った訳だが、五十嶋桂那はそれに対して首を傾げた。


「何のことでしょうか」

「え、あの、猫丸の小屋作ってもらったときから!」

「……そんなもの、作った覚え、ありません」


 顔を顰める五十嶋桂那を見て、水無月仁美は自身の顎を摩る。

 異常事態と、判断したようだ。

 他の攻略対象の記憶の改竄を行う事も出来ただろうに。

 そうしないのは、多分脅しだ。

 他の攻略対象が俺たちに加担している場合、これは脅しとして凄まじく効果があるだろう。

 自我を失ってしまった五十嶋桂那。

 自分もそうなる可能性がある。

 協力者が居たとすれば、これ以上何も出来なくなってしまう。


「五十嶋さん。暫くカウンセラー室に登校しようか」

「……どうしてですか?」

「五十嶋さんのご両親からそうして欲しいって連絡があってね。だから、お願い」


 口から出まかせだ。

 水無月仁美は根っからの馬鹿では無いし、生徒思いだ。だからこそ『五十嶋さん』のために、協力してくれた。


「……わかりました」


 少し納得いかなそうではあったけれど、五十嶋桂那はそれを渋々了承した。

 これで、取り敢えずは大丈夫だろう。


 水無月仁美は、攻略対象の中でも特別な存在だ。

 髪の色こそ異なるけれど、夢の中で猫丸が口にしていた人物と重なる点がある。

 だからこそ猫丸は水無月仁美の事を気に入っているし、男子生徒が水無月仁美に対して素っ気ないのも恐らく一枚噛んでいるんじゃないだろうか。


「貴方は、誰?」


 五十嶋桂那が俺を見て、また首を傾げる。

 幼い子供みたいな挙動だった。


「田中太郎。俺も……カウンセラー室に登校してるんだ」


 三条さんが心配ではあるけど、しばらくは側で様子を見るべきだろう。

 俺の言葉に対して五十嶋桂那は「そう」と特別興味も無さそうに返事をする。


 ――取り戻す事が出来るのだろうか。


 取り戻す事が正解なのかも分からない。

 こうなってしまった今、短期勝負で早々に世界を壊す為に動くべきなんじゃないだろうか。


 社を壊す。


 まずそれで二ノ前満月の力を多少抑える事が出来るはず。

 これ以上、誰かの記憶を消される前に。

 早々に、力の供給源を断つ必要がある。





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