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111/151

111.その駅で降車した




 金曜日の放課後。

 四月はあんなにも長く感じたのに、もう五月も半ばだ。

 何もしていなかった訳ではないけれど、自分の立ち位置が確定してしまってからは、あっという間に時間が過ぎて行く。

 大型連休を挟んでいたりした事も、要因ではあるけれど。


「よお、コタロー!」

「……お前、何処行くつもりだ?」

「神社だけど?」

「その格好で登校して来たのか?」

「当たり前だろ?」


 鴎太は、まず学校指定の鞄ではなくリュックを背負っていた。洞窟にでも入るつもりなのか、頭にライトの付いたヘルメットを被り、何だかゴツい靴を履いている。


「緊張感とか、ねえの?」

「形だけでも楽しんでなきゃ、弱腰になりそうでさ」


 ああ、不安のあらわれなのか。

 ただただふざけているのかと思ったのは申し訳無いが、そう思われても仕方が無い格好だ。


「猫丸迎えに行くぞ」

「何処に居んの?」

「大概、中庭か花壇のところだな。頭良いから、呼べばくるかもしれないぞ」

「え? マジ? ネコマルーー!!」


 本当に叫びやがった。

 俺と鴎太が待ち合わせた……というか、普通に最終授業の終わった鴎太を迎えに来たので、今居る場所は教室だ。

 来るわけが無いだろう、そう思っていたのだが足元から「ぶなあ」と声がする。


「うわっ、ホントに来た!」


 流石としか言いようが無い。

 騒いでいる俺と鴎太を、他のクラスメイトは遠巻きに眺めていた。三条さんが此処に居れば、臆する事も無く話し掛けてくるのだろうけど、彼女は俺と一緒につい先程まで部室で授業をサボっていたので、此処には居ない。


「じゃあ、五十嶋さん迎えに行こうか」


 何処かから、舌打ちが聞こえる。

 よく思われていないというのは、どうやら本当の様だ。

 突き刺さる視線を今更気にしても仕方が無いので、俺は猫丸を抱き上げ、教室を後にする。

 旧校舎三階の旧図書室に五十嶋さんは居るだろう。

 迎えに行って合流すれば、いよいよ、神社に向けて出発だ。


 世界の核心に触れている気がして、落ち着かない。


 鴎太の格好は、馬鹿にはしたが、見ると確かに気は紛れる気がした。


「んなあご」


 廊下に響く猫丸の声が、何を意味して発されている言葉なのかは分からないが、敵では無いはずだ。


 長い様な短い様な道のりを経て、たどり着いた旧図書室の扉を、鴎太がノックする。


 こん、こん、こん。


 三回のノックで扉が開かれ、金色の髪が揺れていた。

 この五十嶋さんが五十嶋さんで無い可能性は低い。

 本物の五十嶋さんはいつも旧図書室に居るのだし、二ノ前満月の事を警戒している上、記憶操作の効かない彼女を此処から遠ざける事は不可能に近いだろう。

 だからこそ、何処かで待ち合わせでは無く、迎えに行くという選択肢を取った。

 猫丸に関しては、呼んだら来たのでグレーに近いが。


「行こうか」

「うん」

「駅まで歩いて、そこから二駅。そう遠くは無いと思う」


 鴎太がそう説明して、五十嶋さんが旧図書室から一歩足を踏み出した。

 あまり無い組み合わせだけれど、これが正解のはず。


 五十嶋さんが両手を差し出すので、抱えていた猫丸を、彼女に差し出す。

 猫丸は大人しく、五十嶋さんに抱かれていた。




 ―――




「特徴は、金髪。俺が遊んでいた頃は巫女さんみたいな服着てた」


 電車に並んで座りながら、鴎太は『女の子』の説明をする。

 ちなみに猫丸は鴎太のリュックに収まり、五十嶋さんが抱えていた。

 きちんと動物用の料金を支払って、そこそこの人が立つ電車に揺られる。


 ただ、その人――主に高校生たちは、穂畑の駅で吸い寄せられるように降りて行く。

 学生の溜まり場だと言っていたヒナちゃんの言葉を思い出した。

 立つ人が居なくなった車内で、俺たちは特に会話も交わさず、座っている。


 五十嶋さんはさて置き、俺と鴎太は怖いのだ。


 神と、直面するためにソコヘ向かっているのに、神に会うかもしれないという事が。


 アナウンスが『森ヶ縁』への到着を告げる。


 立ち上がった俺たちは、言葉も無く、その駅で降車した――。





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