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聖受歴1,538年月耀月6日 晴れ



 今日は戴冠式だ、青空が目に痛い。

 あ゛ー……鳥になりてぇ。


 俺の戴冠式とかいう、特に俺の意思確認もなく決まった陽気な祭典当日。

 なんか、晴れた。

 まだまだ冬真っ盛り。

 昨日、今日は晴れたが……例年なら、雪や雨でもおかしくねぇんだけどなぁ。なんで晴れたよ。

 黒歌鳥がにこやかに「閣下、いえ陛下(・・)の前途を天が祝福しているのでしょう」とかなんとかほざいて、戴冠式をテーマにした新曲を歌いにどっか行きやがった。

 けど俺は知っている。

 ヤツが戴冠式の日にちを指定する時、関係者に「月曜月の6日ならば晴れます。例年ならば日照の不足気味な時期に晴れ間は貴重ですが、二日間晴れ続ける予定です。この好機を逃す手はありません。民衆には『天に祝福された新王』として印象付けましょう」って言ってやがったことをな……!

 お陰様でてめぇの言葉通りの晴天だ。預言者か、ヤツは。

 約一か月先の天気を正確に当ててんじゃねーよ!

 

 俺は天と黒歌鳥に内心でつらつらと恨み言を述べながら、戴冠式に臨んだ。

 他の国だと戴冠式にゃ『教主国』からお偉い聖職者様とやらを派遣してもらって儀式もなんも進めるらしいが、俺らの国は教主国と全く関係ねーしな。

 戴冠式はこの国独特の作法で進む、らしい。

 でも戴冠式の作法なんぞ自分の国のモノもよく知らねえのに、他国のなんざ知るかよ。

 よくわからんまま、儀式の進行役に言われるがままに式典は進んだ。

 俺がやらされた儀式一つ一つの意味が不明だ。

 ……実行者がこんなんで、良いのかこの戴冠式。

 ついでに元々儀礼作法に詳しくねえんで、絶対に型破りなこととか掟破りなことを無意識にやらかしてる気がする。

 儀式の進行係は、前は王宮の典礼に関する部署で働いてたっつう元文官のにーちゃんだ。

 誰よりも儀式やら作法やらに詳しいってんで黒歌鳥が抜擢した。

 上司を差し置いて自分がですか!? って元文官は仰天してたが、諦めろ。

 黒歌鳥が指名したからには、お前が一番適任ってことだ。

 お陰で誰からも(元文官の元上司以外)疑問を差し挟まれることなく、まだまだ形になってない新しい国の儀礼作法担当は元文官のにーちゃんに暫定的に決定した。今後も多分、儀式関係じゃ引っ張りだこになるこったろう。『新しい国』の制度やら人事やら、まだ本決まりじゃないにしても、典礼関係の責任者にはきっちり元文官のにーちゃんの名前が刻まれていた。本人、まだ知らないけどな! 承諾取ってからリストに記入しろよ人事担当者!

 まあ、とにかく。

 黒歌鳥に指名されるくらい、典礼に詳しいにーちゃんが儀式進行役としてところどころ礼法知らずの俺を介助してくれている。

 時々にーちゃんが難しい顔してるんで、やっぱ気付かず俺はやらかしてんだろう。


 だが、俺の型破りなんぞまだまだ序の口だった。


 全ての儀式が滞りつつも、なんとか終了し。

 斬新な戴冠式でしたわ、なんてひそひそ言われながらも……何故か俺が即位確定。

 って、そういやどうして俺が戴冠式に臨んでんだ……?

 え? 俺、これで王様になっちまったの? ←今更

 そんな感じで戸惑いと不安と疑念と諦めで、頭を抱えたくなった時。


 突如。

 王宮が爆発した。


 っつうか、火を噴いた。

 天に噴き上がる、巨大な火柱だ。

 あ、AHAHAHAHA、でっけぇ花火だな~(棒)

 ……何が起きた。

 

 本来、戴冠式っつうと王宮の中の儀式専用の広間で行うのが普通だ。

 けどなぁ、王宮は一か月前の城攻めでがったがた。

 すぐにも崩壊が始まりそうな危険物件と化してたし、補修もままならねぇまま手つかずだった。

 戴冠式も、民衆の中の戴冠式で!って企画が立って王都のど真ん中の広場でやった。

 今だって戴冠式を実行した俺らの周囲は民衆が取り囲んでいる状態だ。

 ……今はいきなり爆発した王宮に、不安の声が上がってざわざわしてるがな。

 何が起きたのか、頭がいてぇ。

 事実確認の為に兵士が走ってって……そして戻ってきた。

 犯人はすぐに知れた。


 黒歌鳥だった。


 陛下の戴冠を盛大に祝う、特大の花火ですよ★って頭大丈夫か。正気ですか、おい。

 エンターテイナーにも程があるだろ、なあ。

 だが、竪琴を掻き鳴らしながらヤツが盛大に歌い出すと、あら不思議。

 おい……さっきまで皆さん不安がってませんでした?

 なんでみんな「特大花火」に納得して踊りだすの……???

 黒歌鳥の歌声に、奏でる曲に合わせて皆さん一斉に踊りだす。

 打ち合わせでもしてたのか?????

 広場を囲み、大きな輪となって、盛大なお祭り騒ぎが始まった。

 口々に燃える王宮を眺める民衆から前王やら貴族やらに対する恨みつらみの叫びが上がるあたり、わかってたことだが前王どもは恨まれてたんだなぁと沁々思った。

 ……ああはなるまい。

 燃え盛る王宮を肴にどんちゃん騒ぎを繰り広げる民衆を、直に目にして。

 俺は強く心に刻み込んだ。


 煙が目に沁みやがるぜ……

 嗚呼、胃が痛い。



ちなみにこの時、黒歌鳥が披露した新曲が「灰になれ祖国」と「祖国滅亡」。

(閣下の即位を祝福する、戴冠式をテーマにした新曲とは別口。)

その歌声は、明らかに祝いの歌より活き活きとしたものだったとかなんとか……

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