聖受歴1,538年月耀月5日 晴れ
急ピッチで進められた戴冠式の準備も、何故か抜かりなく進み。
明日は戴冠式だとヨ。HAHAHAHAHA。
……なんかもう疲れた。
明日とかもうどうでも良いから、今はとにかく寝てぇ。
でも寝たら明日がやって来る。
憂鬱だ。
「っつうか、なんで戴冠式とか準備滞りなく進んでんだよ」
俺の陣営は、王家に離反した奴らの集団だ。
元は王宮勤めだった奴らもいるが、そのほとんどは武官だの将軍だの……まあ、脳筋だわな。
当然ながら、王宮の典礼だのなんだのに詳しいやつはあんまいねぇ。
概要は知っていても、実際の準備について何が必要とか何しなきゃなんねえとか知ってる奴は全然いねーはずなんだよ。なんか知らんが最後は自滅したあの前王が即位したのだって、もう十八年も前なんだからよ。
古参の兵やら元将軍やら、俺だって当時の警備状況については覚えている。
けどなー……式典だの儀式の作法だの知らないっての。
なのに何故か、戴冠式の準備は粛々と終わろうとしてやがる。
っつうか、俺らが王都攻め立てる前から、なんか水面下で準備が進んでたっぽい。
エディッセがしれっと差し出してきた「戴冠式用の儀礼服」は、どう見ても俺に誂えたサイズ……オーダーメイドか、おい。こんな無駄に装飾多い格式ばった衣装、特注しねぇと準備できないだろ。俺も服飾にゃ全然詳しくねーし、正確なとこは知らんが……これ、縫い上げるのに数か月余裕でかかるんじゃねーの?
ふと頭に浮かんだのは、あの得体の知れねえ吟遊詩人の顔。
あいつ、自分の命を簡単に投げ出してんじゃねーよって俺が言った時、なんか言ってなかったっけか。
――「……僕の手を離れても綺麗に回るよう、後のことは手配済みですからご安心を」
……うわ。なんか背筋がぞわっとした。
風邪でも引いたか?
やっぱ今日は早く寝ないとな……他の野郎共にも明日に備えて早く寝ろって言われて、俺だけ今日のお勤めから早々と帰されちまったしな。
一応、王のポジションが空位のままだと都合が悪いってんで明日が戴冠式なんだが。
まだ王都の復興も、新しい国づくりの為の整備も全然終わっちゃいない。
法だの決まり事だのの整備に俺が混ざったって意味ねえし、俺は王都復興の方に参加している。
瓦礫の撤去作業も完全に終わった訳じゃねえし。
明日は忙しい式典の、お飾り人形として一日拘束される訳だが。
明後日からはまた楽しい肉体労働だ。
何より、何も考えねぇで頭空っぽにして過ごせるってのが素晴らしい。
戴冠式は考えるだけで胃が痛むが……また楽しい楽しい肉体酷使の日々を心の支えに、なんとか乗り切るか。
ああ、俺、労働者になりてえなぁ……。




