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――聖受歴1,538年 雪耀月3日 雪(3)



 

 誰もついて来ないから、仕方なく一人で行くことにした。

 責任者が単独で追うなや、とかそんな声がどっからともなく聞こえたような気がしなくもない。

 ……仕方ねぇんだ。仕方ねぇんだよ。

 だって見逃す訳にゃいかねーだろ? 相手、総大将だぜ?

 奴の首を抑えるまで、この革命っつう名前の内乱は終わっちゃくれねぇんだ。

 ここでもたもたして、みすみす逃がしちまうことこそ愚の骨頂ってもんだろ?

 なんか常識ぶっ飛ばしたような奥の手か伏兵でも潜んでねぇ限り、相手は数十年に渡って碌な鍛錬もせずに遊興の限りを尽くしてきたおっさん一人。

 王冠っつうご立派なお宝の、いわば生きた台座にしか過ぎねぇんだ。

 そんな野郎、まだ現役(強制)の俺一人でも何とかならぁ。

 ……おかしいよなぁ? 俺、引退した筈じゃなかったか……?


 

 地の底までも続くような、延々延々暗い道。

 どこまで続くんだ、この隠し通路。

 俺もうんざりしてきた頃、道はいきなり広く開けた場所に出た。

 今までの暗さに慣れた目が、眩む。

 そこは煌々と明るく……玉座の間を照らしていたシャンデリアなんざ目じゃねえってくらいに明るい。

 お陰で視界が真っ白だ!

 地下に潜っていたはずなのに、この不自然な明るさはなんだっつの!?

 未知の技術としか思えない照明の光量が、目を直撃した。地味にダメージでけぇ!?

 刺すように痛む目から、勝手に涙が出ちゃう。だって年(疲れ目)だもん。


 咄嗟に思ったのは、こんなに無防備じゃやべぇって事だった。

 木偶の坊よろしく棒立ちで視界も利かずじゃ、動かねぇ的も同じじゃねーか。

 殺られる……!

 相手が動きの鈍重なおっさんでも、俺がこんなじゃ殺られちまう!

 俺は即座に数歩後退し、隠し通路の影に潜んだ。

 明るい場所と暗い場所の真ん中みてぇなところで、息を殺して目が慣れるのを待つ。早く回復しろ、視力。最近なんとなく老眼……?って感じになってきてんだ。無理に酷使させんな。



 誰も俺のことを狙ってねぇか?

 目が利かねぇと、頼りは耳と直感力に限定される。

 耳を澄まして、殺気を探った。


 そしたらなんか、鈍い打撃音と国王(おっさん)の潰れた呻き声が聞こえてきたんだが。

 

 え、何事?

 なんか、国王(おっさん)の短い悲鳴が聞こえてきたような……。


 より一層、俺は耳の神経を意識して研ぎ澄ませる。

 そうしたら、なんか。

 なんかな?



 ――なんか聞き慣れた若い男の、くすくす笑う声が聞こえてきたんだが。



 絶対、今の俺は妙な顔をしている。確信を持って断言できた。

 ついでに、あの声を別の誰かと聞き間違えることもねぇって断言できる。

 あの野郎の声、めちゃくちゃ独特って訳じゃねーのに耳に妙に残るんだよな。

 しかも男の俺でも「あ、美声」って思うような良い声してやがる。他とは絶対に間違えねえ。




 お前、ここで何してんだよ。黒歌鳥。




 絶対にいる筈のない場所で。

 王城の中でも、多分国王くらいしか知らねーんじゃねえの?って隠し通路の奥も奥で。

 お前、こんなところに潜り込んで何やってやがんだよ。もう城攻め始まってんぞ。

 どうしてこんなところに、とか。どうやって入り込んだのかとか。

 色々気になることはあるが、それも今更なような気がするのはなんでかね。

 っつうか俺の目が見えねーって時にお前、何笑ってんだよ?


 ようやっと慣れてきた目を、無理に開いて。

 掌で視覚に直撃してくる光を遮りながら、俺は状況を確認する為に声の聞こえる方へと目を向けた。






 ――黒歌鳥が、地べたに這いつくばった国王の(ドタマ)踏みつけてくすくす笑っていた。

 とっても愉快そうだった。



 うん。


 お前マジでなにやってんの黒歌鳥さぁん!?






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