――聖受歴1,538年 始耀月2日 晴れ
俺はまだ、黒歌鳥の野郎を侮っていたようだ……
昨日。
なんかまた何かの演出なんだろうけどな?
どうやったのか全っ然わっかんねぇんだけどよ……。
俺の指揮下っつうことになってる革命軍の奴らの指揮を挙げる為。
それ以外の理由も効果も、俺にゃ検討もつかん。
……が、演出家がやれってもんを無視して逃げるのも無理臭ぇから言われた通り、素直にやったさ。
そしたらなんか。
うん、なんか。
なんか、俺の剣からナニか出た。
俺の口からは「なんか光ってた」としか表現出来ねぇ。
語彙が少ねぇんだ、仕方ねーだろ。
けどさ、剣を握ってた当事者だっつうのにマジでナニがあったのか全然わかんねーんだけど。
有り得ねぇ光景に、鼻水出そうになった。
……駄目だ、耐えろ俺!
こんな衆目真っ只中で無様を曝してみろよ!?
そんなことになったら奴が笑顔で責め立ててくるだろ……!!
いま、俺は困惑している。
いや、混乱してんのかもしれん。
ま、どっちでも同じこったろうけどな……?
これから王都へ向けて改めて進軍っつう時に、一応は指揮官の身でこんだけ動揺しといて良いのか?
ほんと、一体何が起きたんだよ。黒歌鳥さんよ。
俺の剣にどんな仕込みをしやがったのか……いや、何仕掛けたらあんな謎の現象起きるんだよ。
この剣が『伝説の剣に進化した』とか言ってんのは聞いたがな?
一体誰がそれをマジだと思うよ……いや、奴の流布した歌を聴いた奴やら、うちの革命軍の野郎共やらはマジだと思ってたっぽいけどな!
いきなり剣から空にぶっとい光の柱がずどーんっと立ち上がって、腰を抜かすかと思うぐらいに内心びびってた俺がおかしいのかって錯覚するくらいにな!
あいつら、俺の剣が謎の光ぶっ放しても全然びびんねぇんだけど、どうなってんの!?
ただ驚いただけで、次の瞬間には俺の名前讃えながら、めっちゃ大はしゃぎで喜んでんだけど! マジで一体どうなってんの!?
あれか? 洗脳か? 洗脳されたのか!?
それとも俺が波に乗り切れてねぇだけなの!?
俺一人がおかしいのか、それとも周りがおかしいのか……。
でも周りが全員おかしいってんなら、その中で周りの奴らを「おかしい」って思う俺の方が異端になるっつう不思議。
この流れを作り、そして他の奴らを流れに乗せて押し流した奴が誰かは明らかだ。
なんで俺一人が感情面で置いてきぼりにされてんのか謎だけどな。
けど俺自身が当事者だからこそ、自分を奴の歌う通り『腐敗した国を討ち滅ぼし、新たな時代を拓く為に神に選ばれた英雄』なんぞと思い切れるはずもなく。
結局、戸惑い、流れに翻弄されてあっぷあっぷしているしかねえってのか。
マジで得体が知れねえ。
この剣も、黒歌鳥も。
そう思いながらも、俺は無様を晒すことが出来ねぇから。
狼狽えてる素振りが出ねぇように内心の動揺を押し隠し、奴に渡された台本通りに『英雄』を演じるしかなかった。
全部、お前の『予定通り』なんだろう?
……全てが終わったら、いつかあいつをぶん殴りたい。
………………ぶん殴ってみたいな。殴れたら、良いなぁ。
既に一発、前に殴り済みだったが。
それがなんかもう……三十年は前の事のように感じた。
あっれ、おかしいよな?
あいつと出会ってから、まだそんなに経ってねぇはずなのにな……。
なんだか思えば遠いとこまで来たもんだ。
いや、どっちかっつうと来たっつうか戻ってきたっつうか……。
何にせよ、妙に感慨深いような、気付かない内にすげぇ時間が経ってたような気がして。
俺は馬の上で動き出した軍を見ながら、なんか沁々思っちまった。
なんで俺の周辺状況、こんなことになっちまってるんだろうな……と。




