黒歌鳥の暗躍――聖受歴1,538年 始耀月1日 本日も晴天なり
少々手間取ったが、何とか予定していた日時に事に当たることが出来た。
他の方面から王都に攻め上っている者達からも、道程は順調との報告を得ている。
……そろそろ、王国守護の精霊結界に接触する頃間。
『王の都』を攻めている我々は、相手から見れば敵以外の何物でもなく。
悪意を持って進軍する集団は、結界に阻まれると先には進めなくなる。
この辺りで、結界を無効化しておく必要があった。
その為に必要な人員……『精霊の騎士』は既に揃えてある。
内の一人は閣下に担ってもらっている。
閣下には、全軍の前で演説を取り行ってもらう予定だ。
「最後まで読みあげたら、皆に見えるように高々と剣を掲げて下さいね」
「なんだ、その有りがちなパフォーマンス」
「お願いします」
「……構いはしないが」
革命の各方面軍には、既に『精霊の騎士』をバラバラに派遣してある。
それぞれに指定したポイントは、結界の基点に被さる位置を選んだ。
全く同じタイミングで、『精霊の騎士』達が力を放出する。
全員の力が同調すれば、目に見える形となって結界の破壊が見て取れるだろう。
光の柱が立てば、作戦は完了だ。
その時、古くから王国を守ってきた結界は我らに対して無力となる。
「――閣下、しっかりお願いしますね」
「ん? お、おう」
閣下を中心に、その剣から迸る光の柱……
視覚効果も、きっとこれまでになく高まることだろう。
事情を知らない者達は、きっと閣下から光の柱が現れたことに明確な理由を欲する。曖昧な謎にしてしまえば得体が知れない、恐ろしいと思ってしまうかもしれない。
だから。
……私が皆の理解しやすく、万民が納得できる『理由』を作って流布せねばなるまい。
光の柱は遠方の者にも見ることが出来るのに、理由は直接耳に吹き込まねば知り様がないのだから。
新しい年の始まりの日に、となれば物語性もそれだけで否応なく高まる。
民衆は美しい物語を求め、何かに意味を欲するものだ。
絵になる光景と符合する事実を重ねて並べ立て、期待を込めて物語に耳を傾ける。
「ふふ。久々に歌の作り甲斐がありますね。わかりやすい英雄叙事詩といきましょうか」
目に見える奇跡は、何よりもの『説得力』となるだろう。
「……いま、なんか不穏な寒気が!」
「風邪ですか、閣下。よる年波には勝てないのかもしれませんが、体調には気を付けてくださいね」




