――聖受歴1,537年 土耀月20日 晴れ
俺が自分の間の悪さを呪ったあの日から、三月経った。
その間、黒歌鳥から変った様子は見られねえ。
俺に変な態度で接してくることもなく、どうやら盗み聞きしちまった件はバレてねー……とは断言できねえ状況だ。
様子に変わったとこがねえなら、俺が聞いちまったともバレてねえ筈だって普通なら思うんだけどよ。
けどな……態度に変なとこがなくっても、野郎なら顔色一つ変えず涼しい表情で素知らぬふりくらいすんだろ。
バレてるのか、バレてねえのか。この三ヶ月で、確かめる手段はなかった。
逆に俺の方が挙動不審で、野郎に絶対ぇおかしいって思われてる筈だ。
下手踏んじまったぜ……軍人時代は、今よりもうちっとはポーカーフェイス張れてたってのによ。
俺が一人挙動不審でいる間も、黒歌鳥の野郎は何も言わねえ。
何の反応も、疑問の声すらないことが不気味だ。
どうやら奴は自分から俺に話を向けるつもりはないらしい。俺一人で自分の心に決着付けろってことか?
もしかしたら野郎は、俺が動揺している理由を黒歌鳥以外のナニかに見出しているのかも知れねえ。
他の理由で、心の整理が追い付かないものと……だから自分で見つめろって? 心ってヤツをさ。
黒歌鳥の俺個人の動揺に対する干渉はないと確信が持てたのは、ここ一、二週間のことだ。
それがわかると俺自身に害はないってわかっちまったせいか、ますます余計なことが気になっちまって仕方ねえ。
あの胡散臭い吟遊詩人が、黒歌鳥の野郎が……今は亡き王太子殿下の息子?
それが嘘か本当か、俺に判断はつかねえ。
だがもしもそれが本当だとしたら……
俺はどうあっても黒歌鳥を気にせずにはいられねぇらしい。
本当なんだろうかと疑問の声が何度も頭の中で上がるのは、その答えに期待を見出しているからだ。
ついつい、奴のことを王太子殿下を通した目で見そうになる。
似てるか? 似てない、か……?
色の濃い眼鏡がかかってるんだろう。何から何までこじつけてしまいそうだ。
前とは違う目で奴のことを見ている俺がいる。
気になって、前は気にしていなかったあれこれが目につく。
視界の端に姿を見つけると、過去を追うように目が向いた。
そうすると、今まで気付かなかった些細なあれこれが見えてくる。
……ん? あれ、おい?
なんかお前、俺の娘らと異様に仲良くねぇ……?
うっかり、いらんことまで気になった。
きゃっきゃうふふと笑う娘らの笑顔が繊細な親父のハートに突き刺さる。見るな、俺。見ちゃいけない。
俺はなんにも気付かなかった……!




