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――聖受歴1,537年星耀月10日 晴れ

今日も安定の「閣下かわいそう」



 俺が率いる(ってことになってる)革命軍『ベルフロウ』が王国の北方を掌握してから、実に一月近く経った。

 時が経つのは早ぇなー……あはははは(乾)

 ……俺、何もしてねぇけどな?

 知らねぇ内に、気付いたら俺が掌握したことになってたけどな?

 それでも責任者の名前に俺が掲げられたことには不本意ながら違いなく。

 あれから、一か月弱……めっちゃ激務だった。

 なにしろセキニンシャですから……気付いたら朝?みてぇな毎日が続き、日々の睡眠時間はスケジュールの合間合間に設けられた一時間仮眠の連続で細切れ状態。

 おい、てめぇら? 俺の年齢(とし)言ってみろ……!!

 俺、もう、よんじゅうはっさい(48)!

 五十路目前なの、わかる!?

 俺も元軍人だし、戦時の慌ただしさやら何やらにゃまだ耐性がある。そっちの方は、まだ慣れてる分マシだ。

 けどな、けーどーなー?

 書類仕事を中心としたデスクワークだの、北方各都市の運営に関する政治的・経済的な会議だの視察だーのー……


 ……やってられっかぁぁああああああっ!


 そりゃな? そりゃ、軍人時代だってデスクワークの類はあった。

 経理に計算ミス指摘されまくって、死にそうな思いしながら算盤弾いたことだってあっさ。

 それに較べりゃ、今は書類だの何だのは頭の良い奴らが体裁から内容から全部整えてくれてよ、俺はサインするだけで良いぜって言われたし……その時点じゃ、前よりは楽かと思ったさ。


 ただの気のせいだったがな!


 サインする前にゃ、内容確認して把握しろって無茶言う鬼がいた。

 こんな小難しい書類、読めるか!

 読んでも理解できるか阿呆!?

 一枚まともに読み込むのに三時間かかるわ!!(平均時間)

 しかもサインするだけって……書類が山と積まれちゃサインだけでも手が腱鞘炎になるわっ! 全部で何枚あんだよ、この書類!?


 おまけに、書類の間々によ……息子と黒歌鳥が共謀してトラップ仕込んでやがった。

 内容をちゃんと読み込まねぇで読み飛ばしまくってたら、俺が痛い目見る様にな……!

 うっかりサインしたら俺のハードスケジュールが加速するような書類を、こっちの気が緩む様な絶妙の位置で差し込んでくるとか。

 お前、なんなの?

 ホントなんなの、お前……。

 俺のこと過労死させる気か、おい?

 あ? 死なせる気はねえ?

 この国が美しく生まれ変わる光景を是が非でも拝ませてやる?

 それまでは絶対に死なないよう、俺の延命に努m……お前ら十代の無邪気さで俺に何を迫ってるのか、もう一度よく考えろ。


 この魂の磨り減るような毎日に、俺は言いたい。 

 ――五十路手前に今更慣れねぇハードスケジュールで無理させてんじゃねええええええっ(魂の叫び)

 不慣れな仕事に体がったがただわーっ!

 ……これなら戦ってる方がずっとマシだ。いや、マジで。

 せめて体くらい動かしたくなってくる。

 森林浴とかめっちゃやりたい。

 日光浴でもいい。

 日向ぼっこしてよ、膝に猫とか乗っけてよ……そんでゆっくりお茶をすするのとか、マジ夢みてぇな幸せだよな。

 うん、寝言は寝て言えって言われた。

 HAHAHA……俺の処理能力が追い付いてねぇから(書類関係)、実務が予定の三分の一しか進んでねぇんだとさ。

 おい、その予定ってのは誰基準で設定されたヤツか言ってみろ。

 間違っても、黒歌鳥だのエディッセだの、ウィルギリスクだの基準じゃ……ってお前ら馬鹿か。馬鹿なのか。

 頭良い奴らと脳筋48歳を同列に並べてんじゃねぇえええええええっ!


 体中バッキバキで、もうホント、辛いの……。

 デスクワークから遠ざけてくれるんなら、今なら何だって言うこと聞けるz…………


「出張に行きます」

「あ?」

「ええ、ですから。出張に行きますよ」

「あ゛―……もう良い。秘密主義のお前に何処に行くのか、何しに行くのか一々問うても答えはないんだろ。もう好きにどこにでも行って来い」

「それは了承ということですよね? では、行きましょう」

「……ってちょっと待て。何故、俺の腕を掴む」

「ですから、言いましたよね? 出張に行きますよ、と……僕と、貴方とで」

「はっ? 俺も、だと……!?」


 前言撤回。

 だれかたすけて。


 俺の目の前には、常と変らぬにこやかな微笑の黒歌鳥。

 最近、こいつの全く変化が出ねぇ笑顔が怖くて仕方ねえ。

 その、黒歌鳥が。

 なんでだか俺を出張に連れて行くらしい。

 待て、何故そうなった。

 外に出たいとは思っていたが、此奴と一緒にとか誰も頼んでねえから。

 むしろ黒歌鳥と出張? それぐらいなら部屋に缶詰だってまだマシだ。

 ……止めろ! 体を押すな! 旅行鞄を手に持たせるな!

 畜生、いつもだったら間違っても力負けなんぞしねぇのに。

 寝不足ふらふらで、力が入ら・ね・えええええええええええええっ

 押すな、だから押すなって! 俺をどこに連れて行く気だ!? 

「お前……っこの書類の山はどうする気だ! サインしろって言ったのはお前らだろう!」

「そちらは既に調整しました。解決策として、秘密兵器を用意しましたから」

「……秘密兵器?」

「『ルーゼント・ベルフロウ閣下の署名』を型に作った印章を制作済みです」

「それあったらそもそも俺がサインする必要ないだろ!?」

「ですが本来であれば、総責任者である貴方が情報を統括し、より多く内容を把握している必要があります。これは窮余の策ですので、あしからず。掌握済みの北方領土に関する内政は、エディッセさんに任せてあります。そして、閣下には此方を」

「……なんだ、この分厚い冊子は。百科事典か」

「出張の間、閣下が目を通す筈だった書類の概要を、それぞれ一ページ毎に纏めたものを作ってみました。サインは結構ですので、此方の内容を頭に入れて下さい。いえ、僕が頭に入れて差し上げます」

「は、はあ!? おま、ちょ……っ」

「ちゃんと懇切丁寧に解説してあげますから。一日に二十ページも消化すれば、帰って来るまでに全部把握できる計算です」

「お前、俺を殺す気か!?」


 誰か、誰かこいつを止めてくれる救世主はいねーのか!

 そんな思いで周囲を見回すが……

 こんな時に限って、誰もいねえ、だと……っ!?

 拠点にしている街の砦から、街門まで。

 通り道の大通にゃ、いつもは市場やら何やらあってそれなりの往来が……ある筈、なんだが。


 なぜ誰もいない。


 時刻はまさに昼前、市場も賑わう頃の筈なんだけどなー……

 ……人っ子一人いねえって逆に凄まじく不自然だろ!?

 背筋がうすら寒くなんだけど……!?


 街をぐるりと取り囲む外壁に、大きく開いた門の外。

 そこに居並ぶ、見送り数名。

 おい、息子。何故ににこにこ笑ってお父さんに手を振ってるのかなー……?

 ヴィンセント、てめぇ帰って来たら覚えてろよ!

 娘らも「お父さん、いってらっしゃい」じゃ、ねえええええっ!?

 なあ、ウェルメニア(長女)……? 俺のこの腕にがっちり食い込む黒歌鳥の手と、俺がぐいぐい引っ張られる様子が目に入ってねえのか?

 ティファリーゼ(次女)? 「これ上手に焼けたんです、旅先で召し上がってください」……って、なんで父親(おれ)じゃなくって黒歌鳥に食料らしきもん渡してんの? そこは遠方に連行される俺に渡すとこじゃねえの?

 え、なんで誰もがにこやか見送りムード!?

 俺の心ん中じゃ、今まさに奈落に引きずり込まれる心象風景繰り広げられてんだけど!

「おい黒歌鳥、てめぇ……あいつらになんて説明しやがった」

「説明ですか? 僕はただ、他地方の『革命軍』の方々と協調を強める為の会議に、盟主の立場であるベルフロウ閣下をご案内する……と嘘偽りなく説明しただけですけど」

「俺、初耳なんだけど!? ってか、なんでお前が案内役!」

「僭越ながら、『ベルフロウ』に所属する者の中で最も王国内の放浪に慣れ、街道・裏道・獣道問わず種々様々なルートに明るい僕が……ということです。大丈夫ですよ、もう少し行けば先に手配しておいた護衛達と合流出来ますから」

「お前いつの間にそんな手ぇ回しやがっ…………た、って……あ?」


 あ? う…………なん、だ?

 目、が、かす……む。

 意識が、とお、く………………


「王国側の目を掻い潜る為に、秘密の道を通ります。目が覚めたら西方ですよ」

「おま、え……」

「それでは、おやすみなさい。閣下、良い夢を」



 お前、一服盛やがったな。


 

 


 どうやら三十分前に飲んだお茶に異物(睡眠薬)が混入していた模様。

 脳筋閣下(48)の出張旅行の行方や如何に……!?


元将軍の今更な子供紹介

 長女ウェルメニアちゃん、19歳

 長男ヴィンセント(ヴィンス)、18歳

 次女ティファリーゼちゃん、15歳

 年齢は作中時間準拠、ちなみに黒歌鳥は現時点で17歳。

 上の二人はママン似の金髪で、次女のティファリーゼちゃんだけ親父似の黒髪。

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