表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/102

――聖受歴1,537年火耀月23日 晴れ



 どうしてこんなことになっちまったんだろうな……。

 うららかな春の訪れに、花がほころぶ原っぱは色とりどりだ。

 生命の賛歌を、紋白蝶がひらひら飛んで告げている訳だが。

 そんなのどかで平和な光景が、物凄く羨ましい俺がいる。

 ああ、こんな日に。

 のんびり日向ぼっこでもしながら茶ぁしばけりゃ幸せなんだろうなぁ。


 俺はいま、絶賛馬の人だけどな。

 ははははは……もう13時間くらい馬上にいんぜ?


 誰かの描いたシナリオに逆らう道を模索する隙すら見つける術もなく。

 いま俺は、怒濤の如き勢いで状況に流されていた。

 誰かこの激流から掬いあげてー……!

 思いつつも、マジで完璧に抜け道が見つからねえ!!

 不本意なことだが。

 俺は王国に引導を渡すべく、『主戦力』を率いて南下の途にあった。


 王国への反乱組織『ベルフロウ』の、盟主として。


 っつうか組織の名前に俺の苗字つけた奴だれだ!!

 名前からして、俺の関与をバリバリに主張しやがる……!

 これで俺が逃走しようもんなら……つうか、逃走しても組織名が『ベルフロウ』なんて名乗ってる限り、対外的にゃどう考えても俺の仕業ってことになるんだろ!?

 俺が消えても、消えたら、そしたら今度は俺のガキが祭り上げられる未来しか見えねえ……っ

 ガキの未来を守るには、俺が矢面に立つしかねぇえええっ

 マジで逃げ道が欠片もねえってどういうこった!?


 腹をくくったというか、くくらせられたというか。

 それで言うなら完璧に後者なわけだが。

 ……俺の知らねえ間に、方々に周到に手を回してたっぽい『あの野郎』の抜け目なさだの計画的犯行だのに胆の冷えまくりな昨今。

 空恐ろしいどころか、いっそダイレクトにうっすら恐怖も覚え出した今日この頃。


 けどなー……誰が思うかよ。

 まさか……な。

 まさか、な?

 まさかだろ。

 近頃マジで魔物なんじゃねぇだろうかと疑惑を募らせてるあの野郎が、あの『決起集会』に合わせて王国全土の各地に『檄文』だの『密使』だのを送りまくって、共闘を約させてたとかさあ……。

 お前はどこの黒幕さんですか、ええ?

 しかも手紙を受け取った各地の有力者やの権力者やの著名人やのが悉く迷う素振りすらなく……むしろ連絡待ってましたとばかりにタイミングを合わせて一斉蜂起した現実が恐ろしくってならねぇ。

 お前、一体いつの間に手を回して……?

 どう考えても、北方にいたんじゃ手の回しようがねえ下準備の気配がぷんぷんすんだが、気のせいじゃねえよな?


 手紙を受け取った誰もが王国に離反し、国に報告すらしてねぇ。

 どうやって国への反感やら義憤やら募らせてる方々を狙い過たず洗い出されたんですかー……?

 国に目ぇつけられねえよう、誰もが内心は胸に抱えて隠してたんじゃねーかと思うんだがよ。

 俺みてぇにわかりやすい、国との遺恨が残ってる奴以外の、上手いこと立ち回ってた方々とかよー……。

 そいつらを遠方にいながら勢力下に引き入れた手腕がマジ怖い。

 恐ろしさに、時々敬語を使いそうになる俺がいる。

 流石にそれは俺にもメンツってヤツがある。自分のガキ並に歳の離れた若造相手だ。そんな野郎に敬語なんぞ使ってられねぇがな。

 ま、これでこいつがお偉いさん……それこそ王族かなんかだったらそんなことはいってられやしねぇが。

 ……が、こいつが生まれつき権力を握っていたらと考えると恐ろしくてならねえ。

 あの野郎が……『黒歌鳥』が王族の子とかじゃなかったことだけは世の幸いだな。


 あ゛~……それにしても。

 慣れてるっつっても、こんだけ長いこと馬上にいっと流石にケツが痛ぇ。

 行軍なんてのはいつだって胸糞悪ぃ。

 今回はあの腐った王国上層部が相手かと思や、ちっとはマシだがな。

 それも全部が全部、『誰か』の掌の上かと思うと……

 やるせない気持ちで目が死にそうになんのは仕方ねえよな!?

 だから人目のあるところではキリッとしてろとか、無茶言うのは止めろ。

 お前の立てたスケジュールが無茶すぎんだよ、黒歌鳥。

 3日で隣領の街を制圧して当面の拠点(あしがかり)にするとか、準備も時間も足りねえんだよ! お前、馬鹿じゃねえの!?

 13時間馬走らせっぱなしだってのに、けろたんとしてるお前にゃわかんねえのかもしれないがな!? 普通はこんだけ長時間馬上にいちゃ、そんじょそこらの兵は使い物にならなくなんだよ!! っつうかマジでお前何者なんだよ、なんでお前そんな平然とした顔してんだよ! お前が休憩取らせてくんねえから、歩兵が完全置いてきぼりじゃねーかっ!

 良いか、とにかく準備と時間だ!

 それが足りない戦は、どんだけ数や兵の錬度で有利だろうと負け戦に……って、なんだって?

 は!? そんなもの、自分が何とかする?

 仕込みは済んでる……って な に や っ た 。

 時間の不足も別のところで補うー……ってマジで何やる気ですか勘弁しろよこん畜生っ!!

 それこそ時間との勝負って、勝負のしどころ絶対に間違えてんだろー!?







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ