――聖受歴1,537年月耀月15日 暴風雪
すっかり弱り切ってた男も、最近やっと寝台の上で起きられるようになってきた。
あれだな。
うちの娘の献身的な介護と、真心こもった料理が効いたんだろ。
弱々しい優男ぶりに、心の底から案じてたもんなぁ?
日頃から元兵士やら元騎士やらの、肉体の完成した屈強な野郎ばっか見てきた弊害か、細身で女と変わんねぇような外見の男が物珍しいらしい。
……物珍しいっつうか、周囲の野郎と勝手が違うから心配になんだとよ。
なんつうの? 繊細っつうの?
ガラス細工かっての。
殴っても死なねぇ、壊れねぇような野郎とは違う細っこさに、野郎共と比較して余計心配になるんだとよぉ!
吹けば飛んで落とせば砕け散るような野郎なんざ辺境にお呼びじゃねーんだよ! なんでこんな北方まで来たんだよ、お前。
吟遊詩人って、こうさ……もっと情報の流通賑やかで華やかな場所を飛び回ってるもんじゃねーの?
それをこんな田舎くんだりまで来るから遭難すんだよ。
お前のせいで娘らがお前にかかりきりじゃねぇか。
そりゃ相手は病人なんだから、心配して間違いじゃねぇんだけどよ……。
母性本能は結婚して子供が出来るまで封じておけや、おい。
それは間違っても年頃の、若い男に向けちゃいけないヤツだ。
結婚適齢期の娘(しかも美人)を2人も持つと胃が痛くて仕方ねぇ。
今まで一緒に住んでる野郎共が怪我しようが病気になろうが笑って流してたじゃねえか、お前ら!
微笑みながら「貴方達は体がしっかりしてるから、きっとすぐ元気になれるわ」なーんて平然としてんのに、ちょっと基礎体力やら体格が違うってだけでそんな親身になるのかよ……。
そのせいでお前らに憧れてる若い野郎共が、目付きヤバいんだけど。
物陰から吟遊詩人のこと、物凄ぇ恨みがましげに見てんだけどな……?
吟遊詩人の滋養強壮の為に摘んだ薬草を娘らに届けつつ、血の涙でも流しそうな凄ぇ面してんだけど。
あいつら、その内なんか変なことしやしねぇだろうな?
……碌でもねぇことにならなきゃ良いんだが。
元将軍……あなたはなんてフラグを立てるんだ。




