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6・澄佳の友達。守るには十分な理由だ


 音を立てぬよう気をつけながら、障害物となっているゾンビを斬った。

 一人、二人、三人。いや、「人」ではなく「体」か「個」と数えたくなる。かつては人だろうと、ゾンビを人として見たくはない。生き物ではない。脳みそを求めて徘徊する物体だ。

 そう自分に言い聞かせるが、元は人間である事実は変わりない。ゾンビを斬る感触は慣れそうにないし、慣れたくもなかった。

 これが快感になったら、俺は辻斬りを趣味にする浪人のようなもので、人殺しの素質を持っているということだ。

 細い路地を曲がった。

 ポリバケツを蹴飛ばし、中身のゴミを散らかした。破れたビニールから出てきたリンゴの芯を踏みつぶす。

「あら残念。転ばなかったわ」

「コントじゃねぇよ」

「きゃっ」

 美桜は、生ゴミの入ったビニール袋で足を滑らしていた。転びはしなかったが、俺が振り向いているのに気付くと、両足を真っ直ぐにする。

「冗談よ」

 うそつけ。

 ガラスが割れる音がした。ビルの上からゾンビが飛び下り、頭から落ちてきた。生身の人間のにおいに誘惑されての自殺か。俺たちが足を止めてなければ、下敷きになるところだった。

 俺の足首を掴むべく、手が伸びてきたので、割れた頭を日本刀で突き刺した。抜くと動かなくなった。

 自動車の物陰で、犬の死体を貪るゾンビがいた。そいつも、においをかぎつけたのだろう。のろりと立ち上がった。

「のうみぞだぁぁぁ!」

「静かにしろ」

 イッヤーソンに聞かれるだろうが。全力疾走し、奴の大好物である脳みそを破壊する。ビルとビルの間の、小さな隙間から、ゾンビが顔を出した。銃で撃った。ガクンと頭が落ちて、動かなくなった。

「びっくりして、使っちまったじゃないか」

 通路を渡った先にある大通りから、ゾンビが数人、こちらへ近付いてくる。

「ちっ、次から次へと」

 銃を放つが、三人倒した所で、弾切れとなった。

「二人残ってる」

「分かってる!」

 銃を投げた。ストライク。ゾンビの頭を直撃した。顔が上向き、後ろへと倒れようとする瞬間に首を斬り、勢いのまま残ったゾンビも斬った。

 ビルの壁に寄りかかって、口で息をした。

 呼吸が苦しかった。

 体が重く、眩暈がする。スタミナが切れてしまい、立つのもやっとの状態になっていた。

 ここまで体が持ってくれたのを褒めたいぐらいだが、ここで倒れちゃ俺も美桜も死ぬ。限界を超えようとも、まだ動かなくてはいけない。

「無事か?」

「あなたよりは」

 ちゃんと付いてきていた。

 美桜は、なにを考えているのか分からないほど、表情の変化はない。そもそもこいつは何者だ。胸のふくらみは貧相だが、美少女として何一つ欠点のないパーフェクトな顔立ちをしていて、それに相応しいように謎だらけだった。

「代わってくれ」

「私、お箸より重いもの持てないの」

「魔法を使えるんだろ?」

「残念ながら、私は闇の力を失っているわ。無力な存在よ」

「じゃあ、篠崎の屋敷でのあれはなんだ?」

「誰にでもできることよ」

「俺にもか?」

「方法さえ知っていれば」

「なにか教えてくれ」

「修行が必要よ」

「五秒で修行する」

「無茶いわないで。毎日十二時間以上修行しても、最低三年はかかるわ。それでも、お尻から火を出す程度のものにしかならないでしょうね」

「最高だ。姫さん、ぜひ見せてくれ」

「それよりも、身体能力を三倍にする術のほうがいいんじゃない?」

「できるのか?」

「可能よ」

「やってくれ」

「ただし、三分も持たないわ」

「構わん。すぐに頼む」

 その前に、イッヤーソンを倒せばいいだけだ。

「後で怒られそうだから、前もって言っておくけど、身体能力が三倍になるということは、効果が切れたときの負担は三倍来るということでもあるわ。いまのあなたが耐えられるものじゃない」

 周囲が光った。

 大通りを、黒い光が走った。一瞬だけ時間が止まり、その後に爆発音。

「ひめさまはどごですかぁぁぁーーーっ! あかさわくぅぅぅぅーーんの、のぉぉぉみそがくいたぃぃぃぃぃーーーっ!」

 イッヤーソンの声だ。ドシン!ドシン!とのっしりとした巨大な足音も聞こえてくる。その音が段々と大きくなっていた。

「ゾンビ使いがゾンビに食われたってところね」

 俺が現れない限り、町を荒らし続けることだろう。このまま逃げ続けているわけにはいかない。

 なんとかしなければ。

「早く頼む」

「本当にいいの?」

「やってくれ。そうしなければ、俺は姫さんを守ることができない」

「そこまでする理由が、あなたにはあるわけ? 私のことはほっといて、逃げていいのよ」

 美桜を見る。美桜も俺のことを見る。瞬きせずにじっと。

「小麦美桜。あんたのことは、妹からよく聞いている」

「あなたの手紙を、読んだことがあるわ」

 やはりそうだ。澄佳と一緒に行方不明になっている少女。

「澄佳の友達だろ?」

 なにも言わない。

「違うのか?」

「友達だった。最高の、大切な友達だった。でも私は……」俯いて、憂い顔を見せる。彼女が表情を出したのはこれが初めてだ。「澄佳を裏切ってしまった。私たちは、出会ってはいけなかった」

「姫さんがなにをしたのか知らないが、澄佳は許すだろう」

 兄だからこそ分かる。澄佳は、人を恨むことを知らない。

「あの子は優しすぎるのよ」

「そうだな」

 ヤクザになった兄を、あっさりと許したぐらいだ。

「澄佳の友達。守るには十分な理由だ」

 イッヤーソンの足音が止まった。自分が蟻になって人間を眺めるような、巨大な足があった。

 奴の顔がこっちを向いた。俺たちがいる路地の倍以上もある、ばかでかい頭だった。両側のビルを邪魔そうにしながら、片方の目をのぞき込んで、真っ白な瞳孔を拡げた。

「みぃぃぃぃつけたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 生温かい息が顔にかかる。即座にゾンビになりそうな激臭だった。イッヤーソンは、嬉々として、最大限まで開いた口の奥に、黒々とした光を吸収していく。

 まずい。ここで光線をだされたらひとたまりもない。

「術をかけろ! 今すぐ!」

「後悔しないわね?」

「死んだら後悔できないだろ」

「ならば、生きて後悔させてあげるわ」

 細かな文字が書かれた縦長の札を俺の背中に貼った。そこを中心にして、模様のついた光の円が浮かび上がっていく。

「アレス、ダーレット、レーシュ……」

 俺の背中にある魔法円に向けて、指を素早く動かし、何かを描きながら、まじないを唱えていく。人間の言語ではないのか、所々の発音が聞き取れなかった。

 ふぅと、ろうそくの火を消すように、美桜は息を吐いた。

「ヤクザ」

「それは俺のことか?」

「初恋の女の名前を叫びなさい」

 迷いもなく、一人の女が浮かんだ。失恋の傷。酸っぱい感情が湧いた。

「あおいひびかぁぁぁぁぁぁぁーーっ!」

 発した途端、全身から青白いオーラが出てきて、宙に浮きそうなほどに体が軽くなった。

 両手に持つ日本刀が、スポンジのように軽くなった。片手で持つ。開いた方の手で、美桜を持ち上げた。これも赤ん坊を担ぐように軽かった。

 イッヤーソンがチャージしていた光が停止した。嵐の前の静けさ。発射する前兆。

 突進した。光のように速い。自分の足が、この速度に追いつけないのではと不安になるぐらいだ。

 イッヤーソンが光線を発した時には、俺は奴の下にいた。ジャンプ。真上にあるイッヤーソンの顎を目掛けて蹴り上げた。

「ぐあげあがぎゃぁぁぁぁぁぁーーっ!」

 光線は、口の中で暴発した。イッヤーソンは言葉にならない絶叫をあげる。聴覚も三倍になっているようで、鼓膜が破れそうになる。ゾンビでも痛みがあるのか、イッヤーソンは、上体を上げて、自爆した顎を両手で押さえて、悶えている。ボロボロと、腐った肉の塊が泥のように落ちてくる。

 俺は、二本の足を斬った。さすがは三倍の力だ。大木のような足が、スパっと切れた。

支えを失った巨大な体が、ゆっくりと横に倒れていく。六車線の大通りを渡った先にあるビルが、イッヤーソンの体に押しつぶされていった。

「ここで待ってろよ」

 大通りに来ると、かついでいた美桜を下ろした。

「なにをする気?」

「粗大ゴミを焼却しにいくのさ」

 斜め向かいの交差点前のガソリンスタンドに、タンクローリーが止まってあった。運転席のドアは開かれたままだ。

 運転席に乗り込む。虎柄の毛皮で覆われた派手なシートだ。座りにくかった。ダッシュボードの上は、 銀色をしたドクロやエイリアンの置物が飾ってある。ホラー系が好きな運転手のようだ。

 キーはかかっていた。持ち主はゾンビを見て、慌てめいて逃げ出し、ゾンビの仲間入りか、イッヤーソンに食われたりかしたのだろう。

 キーを回し、エンジンをかける。エンジンがうなりをあげるが、吠えてはくれない。焦る気持ちを押さえながら、俺は何度もキーを回し続ける。

 大通りの中心で転倒しているイッヤーソンの顔があがった。顔の下半分が欠けている。土色をした肉塊から、喉の骨が見え、排気ガスのような息を「シューッ」と吐き出していた。あの息を吸ったなら肺が黒くなりそうだ。

 両足は回復しているようだが、立ちあがれるまでに至っていなかった。ずるずると匍匐しながら、こちらへと近づいてくる。

 エンジンがかかった。タンクローリーはうなりをあげる。それと同時に、ロックミュージックが大音量で鳴った。ギンギンと頭を響かせ、気が狂いそうになってくる。俺は音量を下げた。テンションをあげるのに良さそうだったので、音楽はかかったままにする。

 ギアを入れ、アクセルを踏む。タンクローリーはゆっくりと動いていった。踏む力を強め、速度が上がっていくのを確認してから、俺は限界まで踏んづける。

 フルスピード。上下にガタガタと揺れていく。車内にある飾り物は、パーティーの始まりを歓迎するように、あっちこっちに飛び跳ねていく。

 イッヤーソンとの距離が百メートルほどに迫ったところで、俺はタンクローリーから飛び降りた。肩で受け身を取り、亀裂だらけのアスファルトを転がっていった。

 ズボンに差し込んだニューナンブM60を取り出した。

 おやっさんの形見だ。

「あばよ。楽しいデートをありがとな」

 銃を撃った。一発。タンクに穴を開け、ガソリンが漏れた。さらに一発。ガソリンの導火線を狙ったが外れた。もう一発。当たった。さらに一発。

 爆発した。

 爆風に、俺は吹き飛ばされた。

 炎は、ビルのてっぺんまであがっていった。タンクローリーのキャブが飛んできて、俺が倒れている場所のスレスレに落ちて来る。後ろへ何バウンドかすると、電柱にぶつかって、止まった。真っ黒に焦げる中から、ロックミュージックが聞こえてくるが、暫くするとそれも消えた。

 燃え上がる炎のメラメラとした音。猛煙が黒々とあがっていた。イッヤーソンがどうなったか確認できないが、あれだけの大爆発を食らったんだ、生きてはいないだろう。

 さてと、美桜はどこにいる。安全な場所に避難しているといいのだが、爆発に巻き込まれてはいないだろうか。

 刹那、ズン!と体が重くなった。何百キロもの重みに押しつぶされたかのようだ。目を開いているのに、電球のない夜更けのように、辺りが見えなくなった。全身に激しい痛みが襲い、顔を少し動かすだけでも苦痛だった。

 三分が切れたようだ。

 地響きがした。ズシン!ズシン!とアスファルトが生き物のように動いている。

 これはまさか。

 悪化した視力で目を凝らす。炎上のカーテンから、人型の巨大なシルエットが浮かんだ。

 上空の煙が薄れていき、イッヤーソンの顔が覗いた。

 俺のことを見ていた。顔半分は潰れたままだったが、ニタニタとした笑いを感じ取れた。

「くそっ、せっかくの決めぜりふが台無しじゃないか」

 最悪な状況だ。

 ゆっくりと、イッヤーソンは歩いてくる。処刑人を前にした囚人になった気分だ。

「何してるのよ。早く逃げるわよ」

 美桜の声がした。俺のスーツを掴み、肩を引っ張っていく。

「姫さん、いるのか?」

「いなきゃ、引っ張っているのは誰よ?」

 グイグイと俺を動かそうとするが弱い力だ。一ミリも動かない。

「よく見えないんだ。メガネ持ってないか?」

「目のいい私には、不要のアイテムよ」

「ちっ、メガネっ娘の姫さんを見てみたかったぜ」

「ここを生き延びたら、それぐらいのサービスしてあげるわよ」

「服はゴスロリで頼む。頭はネコミミカチューシャを付けてくれ」

「変な趣味してるわね」

「どSな姫さんに似合いそうに思ったんだ」

「ムチで、あなたを叩いてあげようかしら?」

「そんなご褒美を与えるよりも、早く逃げろ」

「あなたを置いて?」

「そうだ」

 日本刀を持とうとしたが、指に力が入らなかった。握ることすらできない。

「死ぬわよ」

「負け犬は死ぬまでだ。足止めぐらいはなってやるさ」

「今のヤクザじゃ、十秒も持たないわ」

「じゃあ、十秒で逃げろ」

「……三秒もないわね」

 目の前。イッヤーソンの足があった。

 イッヤーソンは立ち上がったまま、人形のような俺たちを見下ろす。

「かっかっか、ごっ、ごあん、ごあんしん……」汚い声を発する。「くださぁぁぁい、あささ、さわくんは、ころぉぉしは、しま、しませぇぇんよぅぅぅぅ」

 俺たちを包囲するように、両手を地面に付け、顔を近づけてきた。

「あか、あかあか、あかさわくん、くんは、わたしの、体になるのですからぁぁぁぁぁ」

「姫さん。日本刀で俺を斬ってくれ」

 体を取られるぐらいなら、死んだ方がマシだ。

「箸も持てない私に、なんて残酷な命令をするのかしら」

「銃でもいいぜ」

「私がそんなことしたら、澄佳になんて言えばいいのよ」

「私の愛するあなたのお兄さまは、かっこよく死んだと伝えてくれ」

「できるわけないでしょ」

 イッヤーソンの手が開かれた。動く壁で押しつぶすように、こっちに向かってくる。分かっていても、避けようがなかった。テレビの映像をみているかのようだ。ぺしゃんこにはしなかったが、俺の体をとらえると、ぎゅっと握った。

「こういう役目は金髪美女だろ」

「わたぁぁぁしは、お、おんなぁぁぁよりも、あかさわくぅぅぅんの、ほおおおがぁぁぁぁ、こふぶぅぅぅつなんでぇぇぇす」

「ホモは帰ってくれ」

「こ、ここここんなじょうきょぉぉぉでも、じょぉぉだん、いぇぇぇぇる、あかさわくぅぅぅんが、わたぁぁぁしは好きでぇぇぇすねぇぇぇぇ」

「口よりも、体が回るようになりたいぜ」

「わたしの、ものぉぉぉぉになればぁぁぁ、か、かんたぁぁぁんに、強よよぉぉくなれまぁぁぁすよぉぉ」

 イッヤーソンの俺を掴んだ手が動いた。体を持ち上げようとする。

「ヤクザ」

 奴の手があがろうとするとき、姫さんは両手をあげてジャンプし、イッヤーソンの手の上に乗った。

「馬鹿野郎。逃げろ」

「できるわけないわ」

 俺を助けるべく、堅く握られた手を開かせようとする。少女の力だ。ぴくりとも動かない。

 美桜は顔を上げ、イッヤーソンを見る。「イッヤーソン。今すぐ離しなさい」

「お、おややややや。姫ささささ、さまはあかさぁぁわくんを、助けたいの、でしょうかねぇぇ。感動のあまり、なみ、涙が、でま、でま、でまま、ませんねぇぇぇ、ゾンビのからだじゃぁぁ」

「闇の王ガディスの娘である私の命令よ」

「がでぃすさまぁぁぁ、なつかしぃぃぃ、なま、なまええええを、きいたぁぁものでええすねぇぇぇ。もはや、あのおかたがぁぁぁ、存在しなぁぁぁい、いまぁぁは、あなたさまのぉぉ地位はぁぁガタおちぃぃぃ、命令なんぞ、無効果でありまぁぁすねぇぇぇぇ」

「そうね……でも」

 なにかに気付いたのか、彼女の口が僅かに笑った。

「お父様を倒した奴ならいるじゃない」

 空から隕石のような光の物体が降ってきた。肉眼で確認できないほどのスピード。イッヤーソンの額に直撃する。パァァァァァーン!と激しい衝撃音。土粘土のような頭蓋骨が割れて、中から輝かしい光を放っていく。

「おまえはぁぁぁぁっ! おまえはぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 光の物体は、頭部に打撃を与えた足を引っ込めると、くるりと一回転して、勢いを付けてさらに蹴った。

 イッヤーソンの巨大な体が剛速球に飛んだ。

 何百メートル先まで吹っ飛び、高架鉄道の上に墜落する。

 イッヤーソンの手から抜け出た俺は、高々と宙にあがった。五階ほどの高さから、アスファルトの硬い地面を目掛けて頭から落下していく。このままでは死ぬと分かっていたが、体が言うことを聞いてくれない。ただ待つのみだ。走馬燈のように俺の二十四年間の人生が回想されていく。ろくな人生じゃなかった。強くなろうと決心し、どんなに体を鍛えても、俺の理想とする強さにはなれずに苛立ってばかりだった。結局、俺は弱っちいままで、あの人に守られる存在でしかなかった。

 あの人? 誰だ?

 いや、もう、考えるまでもない。

 十年以上前。似たようなことがあった。イッヤーソンのような巨大な怪物に捕まって、俺はこのように高いところから放り投げられた。

 それを人間離れした女が飛んできて、俺のことをキャッチし、間一髪のところを助けてくれた。

 体が軽くなった。

 クッションのような柔らかいものが背中に触れる。誰かが、俺の体を両手でがっちりと支えてくれていた。男のものじゃない。細くて、柔らかい女の体。それでいて、懐かしかった。

 ぼやけた視界からは、一人の女の姿が見えた。

 あの頃と同じ光景を俺に見せていた。

「姉ちゃん」

 結局俺は、姉ちゃんに守られる存在でしかないんだ。

 着地する。光のオーラをまとった姉は、いたわるように、そっと俺の体を地面に下ろす。

 そして、イッヤーソンの方を向いた。

 背中。尻の割れ目まである真っ赤な髪に、白と黒の、派手で肌の露出の高いドレス姿。

 姉ちゃんの戦闘用衣装だ。かつてはこの格好で、どんな敵とも戦っていた。

 命がけで。俺を守るために。


――鏡明はあたしが守る。


 記憶のなかの姉ちゃんの姿と重なった。十代前半の少女じゃない。二十代半ばの大人の女性。

 だが同じだ。

 十年前に見たはずの、失われた記憶、そのままだった。

「夢じゃなかったんだな……」

 畜生。姉ちゃん、ええケツしてるぜ。 



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