第十五話 結納の日
嫉妬という醜い感情に益々支配されておる己の底知れぬ心の闇が、恐ろしゅうてなりませぬ。もしも和哉様の仰る通りに、嫌なものは嫌だと、もう会いに行かないで欲しいと申し上げられたなら、私の心に巣食うこの闇を晴らす事が出来たのでしょうか?
知らずにいたかった衝撃の事実を青馬様から告白されたのは、選りにも選って、私と青馬様の結納のお席での事にございました・・・。
◇◇◇◇
それからの毎日、私の不安は増すばかりでございました。
昼間外出なされておられる間のお二人のご様子が、これ迄以上に気になって気になって、お二人の関係の変化は、私を更に追い詰めてゆきました。
その上、私は見てしまうたのです。青馬様が大切に胸元に掛けていらした黄金の指輪の首飾りから、指輪が一つ無くなっているのを。今、青馬様の胸元を飾っておる指輪は一つだけ。
それはつまり、もう一つの指輪は、珠姫様に差し上げたという事に他なりませぬ・・・。
あの指輪を初めて見付けたその時から、私にくださるお品ではないと頭では解っておりました、解ってはいたのです。それでも私の心は、やはり夢見てしまうたのです。あの指輪を珠姫様に未だにお渡しになられておられぬのは、あの指輪だけは、将来の妻たる私の為にお持ちくだされておられるのだと、心のどこかで僅かばかりの期待をしてしまうたのです。もしかしたら、翌翌週に予定されている私達の結納の日に、私の指にはめてくださるのではないかという愚かで淡い期待を。
そしてその期待は裏切られるどころか、私を待っておりましたのは、更に私を打ちのめす、情け容赦の無い、青馬様からの告白でございました。
◇◇◇◇
結納の日・・・、私は己の目を疑いました。青馬様の指には、キラキラまばゆい黄金の指輪が、燦然と煌めいていたのですから。
私が青馬様の指に目が釘付けとなり、茫然としておりますと、
「青馬!!」
お母様が、叱責と悲しみが入り混じったような鋭い声で、青馬様の御名を呼ばれました。
その場におられる誰よりも、その指輪の意味するところをご存知でいらっしゃる筈のお母様は、それ以上は何も仰る事無く、ただ青馬様を哀しげに見つめていらしゃいました。
すると青馬様は姿勢を正され、真っ直ぐにお父様、お母様、そして私と、順に視線を向けられて、
「儀式の前に皆様にご報告させて戴きたき事がございます。」
緊張など全く感じられぬ、どこ迄も穏やかなその口調は、逆に私を恐怖に陥れました。
「私は先月、珠と婚儀を行い、夫婦となりました。」




