竜王祭カウントダウン 8
「なに? 『女捕虜の檻』でクレームが?」
俺の下に一本の連絡が入る。
どうやら理想郷5番街にあるイメクラ『女捕虜の檻』で、「サービスが最低だったから、金を払わない」と言う客のクレーム事案が発生したらしい。
「わかった、組の者を向かわせる…… 5分で着くからそれまでに監視映像で事実関係を洗っておいてくれ」
全店舗に設置してある「監視システム」には、その店舗内で行われている「行為」の全てが録画してあるのだ。
それを見れば、どちらに落ち度があったかは一目瞭然だ。
本当に店のサービスに非があれば、誠心誠意の謝罪をする。
そこで横暴すると、ただでさえ悪いイメージが付きまとう風俗業界の敷居が、さらに上がってしまうから。
客に必要以上に危険な印象を持たせちゃいけない。
だって主な利用客は、臆病な一般人なのだから。
だけど……
もしそのクレームが、向こう側に非があるのだとしたら。
ただの理由ない難癖なのだとしたら……
「ん、サブか…… 67に『ワイン』を届けに行ってきて」
もし、兄貴の店に文句をつけているのだとしたら、その時は……
「そう、『白』だったら丁寧にあつかって…… もし『赤』だったら、いつも通り『ワインセラー』に入れておいて、うん、任せた」
その時は、容赦しない。
まぁどうせ、今回もむこうが悪いのだと思う…………
なにせ、理想郷の遊女は兄貴の教育が行き届いている。
ほとんどの場合、こっちに非は無いのだ。
因みにクレームをつけた奴は大概『ワインセラー』に送られて、最終的にはうちの組員になる。
今回も、多分その流れだろう。
「こんなもんかな………… さて、この後はどうしよう?」
まだまだ、仕事は沢山ある。
兄貴から任された大事な仕事が沢山あるのだ。
兄貴に命じて貰った以上、完璧に仕事をこなしたい。
だって、兄貴に喜んでほしいから……
「よし、まずは6番街の見回りをして、兄貴に言われてた点検事項の確認を…………………… ん?」
あれは…………?
あれは!?
あの後ろ姿は……… 間違いない!!
「あにっ…………………………… お兄ちゃん!!」
「うぉっ!?」
俺は兄貴の背中に思い切り抱き付いてみる。
ちなみに「お兄ちゃん」って言うのは、兄貴がそう呼ぶと嬉しそうにするから、そう言う様にしてる。
女の子口調も、すると兄貴が嬉しそうだからそうしてる。
兄貴が望むのだったら、俺はなんだってしてやりたい。
「…………なんだ、緋色か」
「へへ……! そうだよお兄ちゃん」
俺が兄貴に向かって笑いかけると、兄貴は俺にそう言って微笑み返してくれる。
兄貴が微笑んでくれると、俺はそれだけで凄く嬉しい。
兄貴がこうして毎日俺に微笑んでくれるなら、俺はどんなことだってすると決めてる。
だって、兄貴は……
俺の身内になってくれた唯一人の人間で…… 俺の大事なお兄ちゃんなのだから。
「お兄ちゃんなにしてるの? 視察?」
「ああ、そうだよ」
俺が、兄貴の腰元に抱き付きながらそう言うと、兄貴が俺の背中をポンポンと優しく叩いてくれる。
うぅ…… なんだろう。
背中をたたいてくれている…… ただ、それだけの事なのに、なんだかとっても嬉しい。
兄貴が触れてる所と、俺の心が…… なんだかムズムズする。
「そっか! じゃあ視察終わったあと、緋色とお昼しない?」
一人称が自分の名前なのも、兄貴の好みだ。
ちょっと恥ずかしいけど、それで兄貴がよろこんでくれるなら、それでいい。
兄貴の喜びが、俺の喜びだ。
「あ~…… ごめん、昼飯時には別の予定がある」
すると、兄貴が少し申し訳なさそうな顔でそう言う。
「ぅあっ!? いいよいいよ!! だいじょぶだよお兄ちゃん!! そんな顔しないで?」
うぅ……
しまった、兄貴を困らせてしまった。
俺の馬鹿、兄貴は今うちで一番忙しい人なんだから、そんな事は想定できたはずなのに……
くそ、久しぶりに兄貴にあったから浮かれてしまった。
兄貴とご飯を食べれないのは悲しいけど、兄貴を困らせるのは俺の本位じゃない。
俺は兄貴と一緒に楽しく過ごしたいだけで、兄貴の迷惑には成りたくないのだ。
「えへへ…… その代わり今度でいいから暇なとき一緒にお昼しようね!」
でも、やっぱり兄貴とご飯したいから、また今度に機会を作ってもらおう。
そのくらいは…… いいよね?
「じゃあ緋色はそろそ行くよ、お兄ちゃん」
もっと甘えたいけど、兄貴は忙しいんだ。
じゃましちゃあいけない。
このままだと兄貴から離れたくなくなっちゃうから、もうお別れしよう。
「またあとで会おうね! バイバイ!!」
名残おしいけど…… しょうがない。
しょうがないよね。
「……………………ちょっとまて緋色」
「ぅえ!? な、なに?」
俺が行こうとすると、兄貴が俺を引き留めてくれる。
なんだろう、どうしよう、この時点で嬉しい。
「お昼は一緒できないけど、せめてそこまでは一緒に歩こう…… な?」
すると兄貴は、俺にそんな嬉しくて優しい事を言ってくれるのだった。
「……………………ふへへへへへ、願ってもないよお兄ちゃん!! 喜んで!!」
俺はそう言って、兄貴の手を握り、そして一緒に歩き出す。
兄貴の手は、なんだかあたかかくて安心が出来る気がする。
うん…… すごくいい。
すごく幸せだ。
あぁ、しばらく仕事の通信切っとこ。
今は兄貴との会話だけに集中したい。
「じゃあ行こうか」
「うん!!」
ああ、困ったなぁ。
今が楽しすぎて…… 兄貴と別れるのが、もう嫌すぎる。
凄く困った…… 幸せすぎるな、これ。
はぁ……
ブラコンが重傷の御宮緋色君のお話でした。
彼にとって、星屑は、親友であり親であり兄であり犬にとっての飼い主なのです。




