第十六話【命の対価】(四)
思った以上に話数使うなあ。
多分あと2エピソードかかると思います。
終わったら迎えに来るとだけ言って、修一は二人を降ろして車を走らせる。車が小さくなるまで見届ける事なく、美琴と和真は修一に礼を言って大きな日本家屋の中に入っていった。
流石ここら辺では名が知れている神社を運営してる家だけあって、建物も古き良き日本家屋でそれなりに立派である。
なるべく失礼がないようにと周囲を見回したい欲を抑え、和真は美琴の後を着いて行った。
「今日はお母さんも用事があって、この時間はお手伝いさんも買い物行ってて暫くは帰ってこないはずだから、そんなに気を遣わなくて良いよ」
美琴はそう言いながら庭に面する廊下を早足で歩きながら和真の方に振り返った。
風通しが良いのか、綺麗に整備された中庭から涼しい風が僅かに開けた窓から入ってくる。
居心地の良い廊下の突き当たりに木の扉があり、美琴がそこで足を止めた。
少し力を入れて引き戸を開けると薄暗い室内が現れ、少し埃っぽい空気が流れてきた。
「この間虫干ししたんだけど、そんなに出入りしないから埃っぽいな……。ちょっとここで待ってて。洗面所からマスク取ってくる」
顔だけ中に入れて書庫を確認した美琴が口元を手で覆いながら扉を閉め、ぱたぱたと来た廊下を小走りで戻って行った。
手持ち無沙汰になった和真がふと木の扉の隣にある襖に目を向けると、少し隙間が空いてる事に気付いた。僅かに漂う線香の匂いが鼻腔をくすぐり、和真の好奇心も一緒にくすぐられる。その好奇心が少しだけ勝ってしまい、和真はなるべく音を立てない様に注意深く襖を開けて中を覗いた。
そこは広めの和室であり、奥に仏壇があった。
線香からは細々とした煙が立ち、その前に小さな女の子の写真が飾ってあった。
おそらく美琴が話していた双子の姉の写真だろう。遠くからでも分かるぐらい、写真の中の少女は笑顔だった。
それに胸が少し痛みを感じた時、後ろから美琴の軽い足音が聞こえてきたので和真は慌てて襖を閉じた。
「おまたせ! はいこれ、埃っぽいから気を付けて」
「あ、ああ分かった、ありがとう」
和真は悟られないよう平常心を装いながら、美琴から渡された白い清潔なマスクを受け取る。それを顔に付け、美琴を先頭に二人は書庫の中に入って行った。
七畳ほどの広さだが本棚が密集していて少し狭さを感じる。私はあっちから調べるねと美琴が奥に入っていったので、和真は手前の棚から調べ始めた。
書物を丁寧に出し入れし、和真は書物の表紙を確認していく。古い物が多いので破かないように注意して調べていると、一冊だけ大きな冊子があることに気付く。手に取って確認すると、それはアルバムのようだった。
明らかに奏の手がかりになる物では無い。それは理解していたのだが、和真はどうしても気になってしまい、その場に座りページをめくり始めた。
小さな二人の赤子の写真が数枚貼られてるページの先に、幼稚園生ぐらいの少女が二人、仲良く手を繋いだ写真があった。
長い髪を高い位置で結んだポニーテールの少女と、肩の位置で切り揃えられた所謂ボブという髪型の少女。長い髪の少女が美琴で、短い髪の少女が姉。パッと見そうだと思ったのだが、和真はその写真にどこか引っかかる違和感があった。
「似てないでしょ、私とお姉ちゃん」
不意に頭上から美琴の声がして和真はびくりと顔を上げると、美琴が少しだけ笑みを浮かべて和真を見下ろしていた。
「あっ、わ、悪い」
「ううん大丈夫。向こうはそれらしい物が無かったから、私もこっちを調べるね」
和真の行動をさほど気にした様子も無く、少し離れた所の棚から本を出し入れしながら、美琴が話し始めた。
「二卵性の双子だったの。私はお母さん似で、お姉ちゃんはお父さん似。……もし一卵性だったら、私もお父さんの力を受け継げたのかな」
小さく呟いた美琴の本音を聞いて、和真はやるせない気持ちになる。しかし和真が口を開く前に美琴は苦笑いしながら、その考えを消すように首を左右に振った。
「それだとどっちも力を受け継がなかったかもしれないし、仮にそうだったとしても……それは私じゃない、別の誰かだよね」
自嘲気味に笑う美琴の顔が見れずに、和真はアルバムを閉じて元あった本棚に押し込む。勢いよく入れたその時、本棚が僅かに揺れ、ぐらりと傾いた。
やっべと和真が咄嗟に本棚を抑えたが少し間に合わず、上の棚に入っていた本が数冊和真の上から降ってきた。バサバサと音を立てて本の雨が和真に降りかかり、水飛沫の代わりに埃が舞い、和真は思わず咳き込んだ。
「ちょ、和真君大丈夫!?」
驚いた美琴が手を止め和真に駆け寄る。埃が目に入り若干涙目になりながら和真は謝罪した。
「わ、悪い美琴、散らかしちまって」
「気にしないで。それより怪我は無い?」
「ああそれは大丈……」
降りかかった本を丁寧に重ねながら和真がそう言いかけた時、ある物が目に入った。年季の入った箱のふたが外れ、中に入っていた一冊の本が顔を出す。
その表紙が気になった和真は、その本を手に取った。
「美琴、これ……」
和真が手に取った本の表紙を、美琴も一緒に覗き込んだ。
「作物と雨乞いの関係……?」
「確か大昔の飢饉が原因で、美琴の家系は力を得たんだろ? もしかしたら何か関係あるんじゃないか?」
和真の推測に、美琴はハッとする。
残りの本を軽く積み片付けてから、二人はその本を開いた。
達筆な字だけのページが何ページも続く中、挿絵の様な絵が描かれたページを見つける。
それは一匹の龍が空に浮かび、村人らしき人間がひれ伏してる絵だった。
「これが、龍神様……?」
続きをめくると本の一番最後のページに地図の様な物が描かれており、山と鳥居が描かれていた。
山の名前も書いてあるが、達筆過ぎて読めなかった。
「もしかして、この山にその龍神様がいるって事なのか……? でも肝心な場所が分からないし……」
和真が眉を寄せて地図を睨みつけながらぼやくと、美琴が「ここって……」と小さく呟いた。
「多分、うちの近くにある山かもしれない」
「まじ? 場所は分かるのか?」
「うん、ここからそう遠くないから自転車でも行けるはず……」
美琴がスマートフォンを取り出し地図にレンズを向ける。パシャッとシャッター音が鳴って画面を確認してパッと立ち上がった。
「和真君、行こう」
「あ、ああそれじゃ城戸支部長に連絡して」
「ううん、城戸さん待つより自転車で行った方が早い」
美琴が引き戸に手をかけガラリと開けると、眩しい陽の光が和真達を照らし出す。
「ちょっと険しい場所だから、車より小回りの効く自転車で行った方が早く着くと思う。うちに自転車あるし」
美琴の言葉に、和真は頷いて美琴の後に続いた。
家の裏手に行くと確かに自転車はあったが、一台だけだった。
「そっか……買い物で使ってるんだ……」
美琴の顔にはしまったという表情が浮かび上がっている。おそらくここに来た時に美琴が話してた、買い物に行ってるというお手伝いさんだろう。普段は二台あるはずの自転車が、今は美琴の自転車一台だけになっていた。
和真は仕方ねえなと呟きながら自転車に手をかけた。
「美琴、鍵あるか? 俺が運転するから、お前は後ろに乗って道案内してくれ」
「え、それってニケツって言うんじゃないの? 見つかったら怒られるんじゃ……」
美琴が戸惑いの声をあげるが、和真は気にした素振りはない。
「緊急事態だ。見つかんないように行けば良いだろ」
そう決断する和真の声にどこか安心感を覚え、美琴の胸の内が温かくなる。
美琴は頷き、自転車の鍵を和真に渡した。
美琴が会話の主導権持ってて和真が歯切れの悪い返答が続きましたが、その分後半でかっこよさを取り戻せたと思います。
そういえばこの最後のシーン、この小説を書き始める前にAIが明日香と誠司がこれをしてる描写を試しに書いてくれたんですよね。
個人的に好きなので今回使わせて貰いました。
この話はフィクションです。危ないので良い子の皆さんは真似しないで下さいね。
美琴が一卵性だったら〜って言った後のそれは私じゃないよねという台詞は、境遇は違いますが自分の心理体験を落とし込んだ台詞なので個人的に気に入ってます。




