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SAVERS ―光なき心を救う者たち―  作者: 春坂 雪翔


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第十四話【光が産む影】(二)

続きは来週金曜日更新予定です。

 DSI東京本部に着いた誠司達は真っ先に章吾のいるブリーフィングルームに向かう。明日香が何故東京本部の現地対策班では無く中央の人間達に連れて行かれたのか、誠司は章吾から納得出来る理由を聞かないと気が済まなかった。

 ブリーフィングルームの自動ドアが開くなり章吾を見つけると誠司はつかつかと章吾に近付き開口一番に口を開く。


「父さんどういう事だ! 何で明日香が連れて行かれたんだよ!?」


 誠司は章吾の服を掴んで怒鳴るが、章吾は眉間に皺を寄せて口を噤んだままだった。

 中央機関はDSIがロストの出動や研究に必要な資金を提供している為、何かあったら口や手を出してくるというのは分かっていた。だがその対応は誠司達セイバーがすることでは無く章吾達、つまり上に立つ大人の役割だと聞かされていた。

 しかし今回まだ事情を説明してないにも関わらず明日香は連れて行かれた。まるで明日香に責任を取らせるような無機質な対応で、誠司はそれが理解出来なかったのだ。


「ロストになっただけで何で明日香を中央に連れてく必要があるんだ!? だったら何であの時俺は連れてかれなかったんだよ!」


 先日東京にロストが七体出現した時の事を誠司は話す。あの時自分は現地対策班によって東京本部の救護室に運ばれたのだ。今回もそうならなければおかしい。誠司はその事を主張していた。

 興奮が収まらない誠司に章吾が黙ったままでいると、横から白衣を着た職員が誠司の腕を掴む。


「飛渡本部長の代わりに私が説明します。皆さんも宜しいですか?」


 タブレットを片手に冷静に話す。誠司や章吾との温度差に違和感を感じつつも、和真を筆頭に他のセイバー達は職員に続きを促した。


「飛渡さん、雨宮さん、綾瀬さん達が件の閉鎖病院に入る前、情報操作班所属の結城夏歩のタブレットからあるエネルギーが検知されました。先日皆さんに見せた監視カメラの映像から確認されたのと同じ部類のです」


 職員がタブレットにプロジェクターを繋ぎ、ホワイトボードを使って簡易的なモニターを作る。

 熱エネルギーらしき反応が閉鎖病院周辺で確認されたらしい画像が映し出された。


「結城本人に問い詰めた所白崎さんの可能性がありまして、急遽白崎さんが映ってる他の映像のデータも調べさせて頂きました。すると先日の皆さんが集まった会議室の監視カメラの映像から、同じ反応が検出されました」

「ちょ、ちょっと待ってや。話がややこしてよう分からんねんけど、その反応って何なん?」


 職員の説明に空美が困惑して口を挟むと、職員はふう、と軽く息を吐いて誠司達に向き直る。

 その目は淡々としていて余計な感情が入っていない目だった。


「先日飛渡本部長があなた達に説明したロストを生み出してる可能性のある存在、ロストファクター達と同じエネルギー反応です」

「……!」


 職員の言葉に空美は息を飲む。

 奏の表情は変わらず、和真と美琴は眉を顰めていたが驚いてる素振りはない。

 誠司は静かに口を開いた。


「……んだよそれ。明日香がロストを創り出してるとでも言いてえのか?」


 下を向き絞り出すように放たれたその声は、怒気が滲み出ていた。今まで共にロストを救出する為に戦ってきた明日香が、そのロストを生み出してる可能性があるとか冗談でも言っていい事じゃない。

 気付けば誠司は怒りに任せて職員の胸ぐらを掴みあげていた。


「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ! 明日香がそんな事する訳ないだろ!? 寝言は寝て言えって!」

「誠司やめなさい!」

「おい落ち着けって!」


 美琴と空美が悲鳴をあげ、章吾と和真が職員から誠司を引き離そうとする。怒りに任せて職員に掴みかかる誠司の力は普段より強く、二人がかりでようやく引き離せた。

 和真が誠司を羽交い締めにして職員から距離をとると、軽く咳き込みながら職員は佇まいを直す。突然掴みかかられたにも関わらず、まるでこうなる事が予測出来ていたかのような冷静さだった。


「これだけではありません。彼女の事について少し気になる事があり、秘密裏に調べていた事で分かったことがあります」

「……なんだよ秘密裏って。明日香の事コソコソ嗅ぎ回ってたのか!?」

 

 納得がいかない誠司が和真に羽交い締めにされたまま叫ぶと、職員は再びタブレットを操作し、モニターにある言葉が映し出された。


「『光の子と六つの石』、古くから伝わる伝承なのですが、聞いた事はありますか?」


 職員の言葉に、美琴が何か心当たりがあるのか小さく声を上げた。


「聞いた事あるというか……私の家、神社なんですけど、書庫の中にそのようなタイトルの本があったのを見た覚えがあります。あと、親に読み聞かせして貰った事も」

「内容は覚えてますか?」

「いえ、昔のことなので、そこまでは……」


 美琴の言葉に職員がそうですかと軽く呟いた後、再び誠司達に向き直る。そしてモニターに巻物の画像を映し出すと、そこに書いてあるであろう文章を読み始めた。


 

 “むかしむかし、あるところにひとりの女がおった。

 女は天より遣わされた神と契りを交わし、一人の子を授かった。

 その子どもは赤子のうちから不思議な力を持っていたが、その力はやがて“影”を生み、人の心を曇らせていった。

 影は黒く濁り、人の形を奪い、怪物と化して人々を襲った。


「この子が怪物を産んでいる──」

 

 そう気づいた女は、嘆き悲しんだ。

 だがその時、空よりひとつの光る石が降りてきた。

 女がその石を掲げると、怪物たちは苦しみ始めたが、黒い瘴気は晴れて、人々の姿へと戻っていった。

 だが、怪物の数は増すばかり。

 女は石を六つに分けると、自らと同じく石に選ばれた六人の戦士たちを集め、石を分け与えた。

 六つの石の光は、やがて子どもを包み込み、そして跡形もなく消し去った。

 その後、影は消え、世界に再び光が戻ったという──”



「……なんか、ハッピーエンドなんかバッドエンドなんか分からん話やな」

 

 職員の話に静かに耳を傾けていた空美が何とも言い難い表情で感想を述べる。和真たちも空美と同じ表情で頷くが、美琴は何かに気付いた様子で顔を上げた。


「怪物と石に選ばれた戦士って……まるで私たちみたいじゃない?」


 全員が目を見開いた。

 怪物がロスト、石がコア、それに選ばれた戦士がセイバー。たまたま伝承と似てるだけのこじつけかもしれないが、その説が正しいのではないかと錯覚するぐらいしっくりき過ぎていた。


「偶然かもしれないんだけど、それにしては辻褄が合いすぎる気がして……」

「てことは、その人間を怪物にした子どもってのが、ロストファクターってこと?」

「いや、違う。それよりもっと大元の存在を意味してる気がすると、俺は思う」


 美琴、空美、和真の推測を聞きながら誠司も思考を巡らせる。しかし立て続けに色んな情報を叩き込まれて頭が上手く動かない。


「ロストファクターをマスターと呼んでた集団の親玉が、その伝承の子どもに当たるとは考えられないか?」


 それまで誠司たちの様子を黙って傍観していた奏の突然の言葉に、空美がはっとして奏を見る。


「それって、アリダって呼ばれとったあの女のこと?」


 奏がそれに頷いた時、和真と美琴がアリダという初めて聞く言葉に眉をひそめた。その時和真の力が僅かに緩んだのだろう。誠司は隙をついて和真の拘束から抜け出し、感情的にならず平常心を保ちながら奏の方を向いた。


「ちょっと待てよ。確かにあいつは明日香に似てたけど、仮にその伝承の子どもがそいつだとして、その子どもを生んだ女ってのが、明日香だって言いてえのか?」

「……さあな」

「それこそおかしいじゃねえか! 神でもねえ明日香が人一人創り出すなんて出来るわけが無い!」


 人を生み出すのは男と女が奇跡を起こして出来る事だ。それを一人で、しかも赤子ではない成人した人間を創り出すというのは非現実的にも程がある。

 しかしその誠司の反論に職員が再び反応した。


「雨宮さんの仮説は概ね合ってると言えるでしょう」

「はあ!? 何言ってんだよ!」


 誠司が呆れた顔で職員を睨みつけるが、それを気にすることなく職員が端末を操作すると、端末から音声が流れ出す。


『私、あなたから生まれたのよ、ママ』


 ぞくりと、誠司たちの背に悪寒が走る。

 女性特有の少し高く、そして聞いた人間に嫌悪感を与えるような鼻につく声がブリーフィングルームに響いた。


「今のは……」

「白崎明日香の所持してたボイスレコーダーの記録です。貴方たちが外に出たであろうタイミングでこちらにデータが送られてきました。もう少し解析する必要はありますが、これで彼女がロストに、いや、ロストを裏で操っている黒幕と何らかの関わりがある事は確かだと言えるでしょう」


 職員が淡々と説明をする。

 三人が縛られていたあの時途中から明日香とアリダの会話が聞こえなくなったが、明日香が持ってたボイスレコーダーが録音出来る音量だったらしい。

 ボイスレコーダーの存在は閉鎖病院に入る前誠司たちも付けていたので知ってはいた。研究開発班の職員たちも盗聴をするつもりなどは無く、あくまで中で何が起きてるのか知る必要があったから備え付けたのだということは分かる。

 しかし明日香が連れてかれた事によって正常な判断が出来ない今の誠司は、それも明日香を追い詰める手段にしか見えなかった。


「それで……中央の大人は明日香から何を聞き出すつもりなんだ。明日香だって何も分からないかもしれないだろう」

「そこまではこちらも管轄外で把握は出来かねます。ですがこれらの情報は確定ではありませんが、私は事実を言ったまでです。いずれにせよ彼女から色々聞き出す必要があります」

「ふざけるな! 散々色々話しといてあとは上のやることだとか無責任だろ! それが大人のやる事かよ!?」


 頭に血が上った誠司が職員に殴りかかろうとしたのを章吾が止める。ぎりっと誠司の肩を押さえる右手が、小刻みに震えていた。


「和真くん、美琴さん、すまないが誠司たちを会議室に連れてってくれないか」

「は!? ちょっと父さん何言って」

「それが良いと思います。これ以上手を上げるのでしたら私も上に報告しなければならなくなりますので」

「……っ! 了解です」

「分かりました」


 章吾から誠司を受け取り、和真は誠司を抱えるようにして出口に向かう。

 それに美琴が続き、奏が後を追い、空美が戸惑いながらも一緒にブリーフィングルームから出て行った。


ここの伏線が読み返して弱かったので12話【ロストファクター】を少し加筆修正しました。ご興味がありましたら読んでみてください。

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