表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SAVERS ―光なき心を救う者たち―  作者: 春坂 雪翔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/37

第十四話【光が産む影】(一)

Q、どうして一ヶ月も更新が無かったのですか?


A、某ゲームのCPに沼った結果、二次創作で短編小説を四つも書いていたからです。

 湖の水面が微かに波打つ。静寂を破るように、ロストが岸辺に佇んでいた。

 巨大な薔薇の花のようで直径一メートルはあろうかという花弁が、血のように深紅に輝いている。高さは人間の背丈をはるかに超え、三メートル近い高さまで聳え立ち、湖面に不気味な影を落としている。

 

 太い茎からは、無数の茨の蔓が這い出していた。細く、しなやかで、まるで生きているかのように蠢いている。時折、蔓同士が絡み合い、解け、また別の方向へと伸びていく。その動きには明確な意志が感じられた。

 花の中心部には、薔薇の花弁が幾重にも重なる奥、本来ならば雄しべや雌しべがあるはずの場所に、食虫植物のような、肉厚で粘液に濡れた口があった。

 ゆっくりと開閉を繰り返すその器官は、まるで呼吸をしているかのようだった。

 

 ぞわり、と誠司の背中に悪寒が走る。

 禍々しいオーラを感じ取ってしまったのか、身体が小刻みに震え始めた。

 ロストなら戦わねばならない。頭では理解しているのに、誠司の身体は硬直したように動けなかった。


「飛渡! 腕を出せ!」


 ロストのオーラに圧倒された誠司を叱責するように、怒号に近い声で自身の名を呼ぶ声が聞こえた。

 ハッとして横を向くと奏が縛られた腕を振りかざし誠司に向けて刀を振り下ろした。誠司の腕を拘束していた茨の蔓が粉々に砕け、腕の圧迫感から解放された。


「お前もギアを出せ! それで俺達のも壊せ!」


 ぜえはあと息を切らしながら奏は刀を持った自身の手を誠司に見せる。奏の拘束も解けていなかったが、誠司と違って前で縛られてたのもあってどうにかギアを発動する事が出来たらしい。

 誠司は我に返ってギアを発動する為腕のバンドのコアに触れた瞬間、ロストから無数の蔓が伸びてくる。それが空美に向かってくると瞬時に身体に巻き付き、空美の身体が宙に浮いた。


「わああああ!?」

「綾瀬!」


 誠司と奏は眉間に皺を寄せ空美を見上げる。腕に巻き付いてた蔓よりも太いそれが空美の身体を縛り上げ、空美の顔が苦しそうに歪んだ。

 奏が舌打ちをしながら刀を構え体制を整えようとするが、地面の下を何かが這うような気配がして警戒する。そして突然誠司の方に身体を向け思い切り誠司の身体を蹴り飛ばした。誠司の身体はすぐ近くの木の幹にぶつかり痛みで顔を歪ませた。

 いきなり何するんだと誠司は文句を言いかけたが、奏の姿を見て言葉を失った。誠司がいた場所から根のような蔓が地面から飛び出し奏の全身に巻き付いていたのだ。


「いいから……早くこれを外せ……っ!」


 奏が自由の効かない手をどうにか動かして拘束から逃れようとしながら誠司を睨みつける。誠司は体制を整え再びコアに手をかざし銃を手に取り、奏の自由を奪う蔓に銃口を向けた。


 しかし、銃口から弾丸は発しない。

 否、銃の引き金にかかった誠司の指は動かなかった。

 それは誠司の手を通じてかたかたと小刻みに震えて、まるで蔓を攻撃するのを拒んでる様だった。

 奏が何してるんだと誠司を睨みつけるが、誠司はそれに気付くこと無く手元を凝視していた。


 動け。動け俺の指。

 早く助けないとこのままじゃ命に関わる。

 今二人を助けるのは俺にしか出来ないんだ。

 頭では理解しているのに手が強ばって言う事を聞かない。

 それはロストに対する恐怖心から来る物なのか、あるいは別の物なのか、誠司には判断が付かなかった。

 しかし、完全には理解してない一つの疑問が、誠司の頭にチラついていた。


 あのロストの正体は誰だ?

 普段は考えないロストの正体を知りたがっている自分に誠司は戸惑っていた。

 正体が誰であれ、ロストは戦って救出しなければならない。それは分かってる。

 だが、もしあのロストの正体が。


 ──明日香だとしたら?


 一番考えたくない仮説が誠司の頭を支配する。

 この場にいない明日香がどこにいるのかという疑問はロストの出現によって薄れたはずなのに、それも合わせて誠司の思考を妨げる。

 明日香だとしたら尚更助けるために引き金を引かねばならない。そうしなければ奏と空美も助からない。

 手の震えが誠司の奥歯に伝わりカタカタと音を鳴らし始めたその時、甲高い叫び声が響いた。


「和真ー! はよ来てー!」


 空美の必死の叫び声が湖畔に響き渡る。

 その声に答えるかのように、突如誠司の背後から炎の奔流が真っ直ぐに吹き出した。

 炎は一直線に空美を縛り上げた蔓に向かって伸び、ロストが悲鳴に似た雄叫びをあげる。徐々に蔓が燃えていきそれが完全に燃え尽きると、支えを失った空美がそのまま落下していく。地面に叩きつけられる直前、一つの大きな人影が空美の身体を受け止めた。


「か……かず、ま……?」

「もう大丈夫だ、頑張ったな」


 誠司と奏の目が和真の姿を捉えた直後、鋭い風の音が響き奏に巻き付いていた根と手を拘束してた蔓がバラバラと崩れ落ちる。

 拘束が解かれ体制を崩した奏の身体を新たな影が受け止めた。


「美琴……」

「間に合って良かったわ」


 重力に逆らえずそのまま地面にへたり込む奏をゆっくりと降ろし、美琴は二丁の鉄扇を構える。

 ザッザッと地面を力強く踏みながらこちらに向かってくる足音が近くなり、振り向くと杏がバズーカのギアを肩に担いでその場にいた。


「和真、一旦引いて空美を美琴の後ろに。そのまま私とロストを救出する。美琴、そのまま三人の盾になって私と和真の援護を頼む」

「「了解」」


 凛とした透き通る声が的確な指示を告げる。

 その指示に従い和真はすぐさまロストから距離を取り美琴の傍に空美を降ろすと直ぐにギアを構えてロストに向かっていく。


「美琴、どうしてここが分かった?」

「いきなりロストの反応が近くに出たから向かってたのよ。でも大まかなエリアしか分からなくて、文字通り探し回ってた時に」


 美琴が空美の方をちらりと見て口角を上げる。


「突然皆の無線機に付いてた発信機が反応して、直後に空美ちゃんの叫び声が聞こえて。それで杏姉さんがギアを放って、その方向に走っていったら貴方たちがいたの」

「え、無線機って使えへんかったはずやのに……それにうちは何もしてへ……あっ」


 ぺたりと座り込んでた空美がジャケットのポケットをゴソゴソと探して無線機を取り出すと、無線機は電源が付いておりピカピカと赤い点滅を放っていた。


「なんで電源ついてんの? あそこで使えへんかったから切っとったのに……」

「きっと何かの拍子で付いたのかもしれないわねっと……」


 美琴がにこやかに微笑んだ時、ロストから無数の黒いトゲが放たれ一同に降りかかる。それを美琴がギアを大きくさせて二つを重ね、大きな円の盾を作り防いだ。

 とにかく皆が無事で良かった。そう美琴が軽く安堵する傍で奏が誠司を横目で見る。


「誰かさんが動ければ、美琴たちの手を借りなくて済んだかもしれないけどな」


 言い捨てるような鋭い指摘の声が誠司の耳に入り、誠司は俯く。奏に言い返す言葉はない。この場で自分は何一つ役に立ってないからだ。奏は勿論、空美もこの状況をどうにかしようとしていたのに、自分だけ何も出来なかった無力さに誠司は腹を立てていた。


 ロストが唸り声を上げ、無数の触手が鞭のように杏と和真に襲いかかる。

 和真は地を蹴り、横に跳ぶ。触手が通り過ぎた直後、彼は槍を振り抜く。一閃して三本の触手が断ち切られ、紫色の体液を撒き散らして落ちた。二人の背後から風の刃も飛んできて、ロストを攻撃していく。

 だがロストは怯まず、今度は無数の棘を弾丸のように射出してきた。

 

「和真、伏せろ!」

 

 杏の叫びと同時に、バズーカの砲口から火炎が噴き出した。炎の壁が棘の雨を焼き払い、熱波が周囲の空気を歪ませる。

 和真は炎の隙間を縫うように突進した。ロストが新たな触手を振り上げる。その根元めがけて、彼は槍を突き込んだ。

 ぐちゅり、と肉を裂く音。ロストが苦悶の声を上げ、花冠が大きく揺れる。

 

「杏姉、あったぜ!」

 

 和真が指差したのは、薔薇の根元に深々と突き刺さったニードルだった。それはうごうごとロストとは別の細い触手が伸び、ロストを支配している。

 

「和真、避けろ!」

 

 杏の声に合わせて和真が飛び退く。次の瞬間、轟音と共に炎の奔流がニードルを飲み込んだ。

 高熱に晒されたニードルが、炎の中で燃え尽きる。

 ずしりと音を立てロストが倒れると、ロストは黒いモヤに包まれる。

 黒いモヤが晴れた時、そこには湖畔の水辺に身体を半身沈めた明日香が横たわっていた。


「明日香!」

「明日香さん!?」


 誠司と空美が同時に叫ぶ。

 しかし立ち上がり明日香の元に向かおうとした二人を美琴が止めた。


「おい、なんなんだよ……?」


 誠司が自身の前で腕を広げ行く手を阻む美琴を見て眉を顰める。空美も同様で不安げに美琴を見た。


「ごめん、誠司君……」


 美琴が絞り出す様に謝罪の言葉を述べた直後、どこに隠れてたのか分からないが黒いスーツの大人が数人明日香の元へ行く。そして手際よく用意したタンカーに明日香を乗せると、杏に指示を仰いだ。


「この子を例の場所に連れてくように」

「分かりました」


 杏の指示に従い黒いスーツの大人達は淡々と明日香を運んで行く。

 よく見るとその大人達は誠司の知る現地対策班では無い。しかし黒いスーツには見覚えがある。本部の上に存在する中央の偉い大人を取り囲むようにしていた大人達が着ていた物と同じだった。


「おい、なんだよあれ、何で現地対策班じゃなくて中央の大人がいるんだよ」


 誠司が唖然とした様子でその光景を見るが、すぐに我に返り明日香の方へ向かおうとする。しかしすでに戻っていた和真に肩を強く捕まれ阻止されてしまった。


「おい、何だよ離せよ! 明日香をどこに連れてくんだよ!?」

「悪い、上からの命令なんだ。今は従ってくれ」

「どういう事だよそれ、説明になってねえよ!!」


 誠司は暴れて和真の腕から逃れようとするが、それよりも上回る強さで和真が誠司を抑え込む。

 とうとう地面に身体を押し付けられてしまい、誠司は顔だけ辛うじてあげて明日香に向かって叫んだ。


「くそっ! 明日香! 目を覚ませ明日香! 明日香ー!!」


 誠司の叫びも虚しく、明日香はタンカーに乗せられたまま黒いスーツの大人達に運ばれて行く。

 その後ろを杏が後ろを振り向きもせず、静かに着いて行った。

これから毎週金曜日に更新していけたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ