解析 6
たぶんどうやらインフルのようです
ワクチンだか予防接種だか打ってると発熱症状が出ないケースもあるみたいです
へー(白目)
普通のヒトにしてみれば、突然『未確認生命体とのコミュニケーションを画策している』だなどと切り出されれば……恐らく『随分と夢見がちな子だ』という印象を抱かれるだけだろう。
およそ一世紀も前、西洋のとある島国で『水棲系未確認生物』の目撃証言が上がってからというもの、世界各地で多種多様な『未確認生物』が発見されてきた。
しかし科学技術や生物工学、そして調査機器が発達したことにより、それら不確かで神秘を帯びたベールは引き剥がされていき……これまでに発見されてきた多くの未確認生物、そのほぼ全てが『見間違い』や『気のせい』であると判じられてきたのだ。
そこへ来て、西暦も二千を超えて久しい現代にもなって、性懲りもなく『未確認生物』と来たものだ。
今更何をと嘲笑われることをも覚悟していた私だったが……しかしユシア課長の反応は、全くいい意味で予想外のものだった。
「常日頃、我々は『災魔』などという意味不明な敵と事を構えているわけです。魔素研究が確立する以前の物質科学至上時代ならともかく……近年の情勢を鑑みれば、充分『あり得る話』だとは思います」
「…………だがしかし、私達が接触を図ろうとしているのは、災魔……魔物とは出自からして明らかに異なるモノだ……です。…………あくまでもまだ仮説の域を出ないが、私達は『太古の昔から存在している生物』だと考えています」
「な、っ!? ………………長命種……或いは古代種の類が? …………いえ、そんなまさか……この世界に……」
「…………ユシア課長?」
「っ、…………失礼致しました」
顎に手を当て、眉根に皺を寄せ、暫しの熟考に沈むユシア課長。
やがて意を決したように一つ頷き、居住まいを正し、私達三人の異分子を真正面から見据え。
「……そのお話……長命たる未確認生物のことを、詳しく聞かせて頂きたいのですが……差し当たってもう一人、同席の許可を頂けますでしょうか?」
「こんな荒唐無稽な話を信じて……いえ、一考に値すると判断してくれる方なんですか?」
「勿論です。我々の誰よりも超常の現象に詳しく、魔素や魔法に精通した人物です。……我々の擁する切り札、といったところですかね」
「それは…………光栄です。是非お願いします」
「ありがとうございます」
そこからユシア課長は、件の人物を呼び出すのかと思っていたのだが……しかし内線に手を伸ばすわけでもなく、通信機器を手に取るでもなく。
ただ瞼を閉じ、再び眉根に皺を寄せ、眉間を揉み解すように手を伸ばし硬直すること……ほんの十数秒。
「……お待たせ致しました。連絡が付きましたので、間もなくこちらに合流できるかと」
「えっ? ……あ、ありがとうございます。……それで、どんな方なのでしょう? お恥ずかしながら詳しく存じ上げず」
「……そう、ですね…………そういえば私のことは、【宝瓶】さんからは、何と?」
「…………えぇと……『伝説の勇者』さん、と」
「……はははっ。相変わらずですね、あの子は。…………そうですね、では折角ですし……こう答えましょうか」
『んゥ、かあさま』
『艦長ニグ。高次元の空間歪曲反応を検知致しました』
「…………ほう?」
さほど広くはない応接室……私達の対面にてソファに腰掛けるユシア課長の、その背後。
真っ先に反応したディンと、次いで報告を発したスー、観測と分析に秀でた二人の見つめる先。
不自然に空間を捻じ曲げ、まるで強引に抉じ開けるように……しかしほんの瞬きの間に、只ならぬ容姿の人物が姿を表す。
役目を終えて散る直前、ひときわ鮮やかに色付く木の葉のような、赤々とした長い髪。
整った顔つきと綺麗な目鼻立ち、日本人離れしたその容姿に、どこか楽しそうな微笑を湛え。
眼前のユシア課長がおもむろに立ち上がり……仕事上での上下関係以上の敬意をもって出迎える、その人物。
……ひと目見て、理解した。こいつの中身は『人間』じゃない。
ヒトの形に押し留められた、固形化しそうな程に濃密な魔力の気配……こんなヒトの理を逸脱したモノが、ヒトであって良い筈が無い。
「ご紹介します。こちら、日本国が擁する魔法技術の第一人者……人呼んで『魔開の魔王』、魔素技術開発局局長の――」
「プリミシア・セルフュロス、というモノだ。お会い出来て光栄だよ、魔法少女【イノセント・アルファ】……否、外つ世界からの来訪者よ」
「……ッ!!」
『機装展開――』『対地収束熱線砲照準――』
(待て待て待て待て待て待て馬鹿待て!!)
口元はニヤリと笑みを浮かべつつも、しかし目許は冷ややかな色を崩さない。
威圧感を隠そうともせずに地球外からの来訪者を睥睨する、赤々とした髪の少女。
私の聴覚素子が狂っていなければ……ユシア課長は彼女を示し、確かに『マカイのマオウ』と言った筈だ。
前半分の『マカイ』のほう、これは容易に理解出来る。その後に続けられた紹介にあった『魔素技術開発局』……そこの所属であることを表しているのだろうが。
しかしながら……もう一方の『マオウ』に関しては、ユシア課長の件とは訳が違う。今しがた紹介された名前の響きは、『マオウ』と似ても似つかない。
人物を紹介するにあたって、わざわざそんな剣呑な音を用いる理由とは……全くもって訳が分からない。
「…………マカイは良いにしても、魔王とはな。……まさか名前そのものを示している訳でもあるまい、渾名にしては随分な響きだな」
「くくく…………気分を害してしまったのなら謝ろう。【アルファ】女史は兎も角、そちらのお二人さんには随分と警戒されてしまったようだ」
「物騒極まりない意志を秘めた『人の形をしたヒトでないモノ』に、いきなり『余所者の人外』呼ばわりされりゃァ警戒して当然だろう。…………何者だ、お前は」
「……おや、君達はどうやら『鏡』というモノを見たことが無いようだね。……くくく……お近付きの印に進呈しようか? 私はこれでもヒトの世には、各方面それなりに伝手があってね。霊験あらたかな奉納品を手配させようじゃないか」
「……必要無い。私達は我が身など顧みない」
「ほう……それは、それは。…………して、私の気の所為で無ければ『何者か』と問われたように見受けるが……くくく、ユシアの言葉が聞こえなかったかな? 最初からきちんと名乗って差し上げてア痛ァーーー!?」
さも楽しそうに、悪そうに喉を鳴らしていたプリミシア局長が、突如額を押さえて蹲る。
何事かと身構えた私の眼前、ユシア課長は相変わらずの雰囲気のまま、しかし『やれやれ』と言わんばかりに肩をすくめて見せる。
……どうやら彼が何かしたようだが、しかし私には全く感知できなかった。
『んゥー………ワタシは知覚しました、極限まで省力化された空間干渉の一種であると推測します』
『…………現象的には、分類『魔法少女』によって励起されるモノ……『魔法』とカテゴライズされるものであると判断致します』
……嘘、私の観測能力……低すぎ?
色々な理由から唖然とする私をよそに、事態は思わぬ方向へと進んでいく。
何らかの手段をもって、上司の額へ一撃加えただけでは飽き足らず……ユシア課長の唇からは、冷静な声色で淡々と叱咤の言葉が紡がれていく。
「ふ、ぐ…………何をする【不壊】の! 局内で空間干渉魔法など赦されると思っているのか!?」
「貴女様が胡散臭い物言いで煙に巻こうとするからですよ、魔王様。初対面のお客様とお伝えしたではありませんか、何故そんな誤解されるような雰囲気をわざわざ――」
「だ、だってだね! 私のことをよく知らぬ子なのだろう? ならばこそ第一印象が大切ではないか、私の絶大なるカリスマ性というものを最初によーく印象付けてやらねば――」
「カリスマ性とは胡散臭さのことではありません。あまりお客様を誂うなと【天幻】殿にも釘を刺されているでしょうに……私の口から報告を上げても良いのですよ?」
「そ、それは困る。わかった。謝ろう。悪ノリが過ぎたようだ、全面的に私に非がある。……申し訳ない【アルファ】殿。この通りだ」
「えっ? あ、は…………えっ?」
先程までの上下関係とは、まるで打って変わった様子の両者。
腕を組み呆れたように溜息を溢すユシア課長へ、ぺこぺこと頭を下げて愛想笑いを浮かべるプリミシア局長。
「……先程は失礼した。改めまして、私は『プリミシア・セルフュロス』という。この国に広まる『魔法』関連技術の多くを手掛け、君達のよく知る『魔法少女』……対特定害獣用多目的戦術パッケージを創り上げ、恐らくこの国どころか世界で最も……もとい、三本の指に入る程度には『魔法』の扱いに秀でた…………外つ世界からの亡命者」
「とつ、せか………………っ、はぁ!?」
得体の知れないナニカから、そこはかとない小物臭さえ漂わせる程にまで、急転直下の変貌を遂げ。
目を瞬かせる私達の前、威圧感の一切を取り払った赤い少女は……とんでもない爆弾発言と共に、にこやかに右手を差し出す。
「全盛期より多少は零れ落ち、今となっては研究者のほうが板についてきた自覚はあるのだが……とはいえコレでも正真正銘、由緒正しき『魔王』の一柱だ。よろしく頼む」
「……………………えっ、と…………はい」
私達は……単に『意思の疎通』を行える魔法を求めて来たのだが。
この国の魔法技術の礎を築いたという『魔王』……まさか魔法少女達の背後に、こんな大物が潜んでいようとは。
恥ずかしながら……全くもって、予想だにしていなかった。
このお話は不定期更新です




