趣味 7
このお話は不定期更新ですが、
なんとなんと本日10/7、月間LF2位を記録しておりましたので、
不定期ですが急遽更新させていただきました。
ドキドキで動悸がときどき止まりません。
本当にありがとうございます。
「やっぱり……そう、でしたか……」
「あぁ……どうやらそうらしい。……こんな話聞かされて、迷惑だと理解してはいるんだが……私は、どうすれば良いんだろうな」
「いえそんな、迷惑だなんて。……頼ってもらえて、嬉しいです」
「………………そうか。……ありがとう」
「んゥ! ありがとう! リサおねえちゃん!」
「………………えへへっ」
スマホとメッセージアプリケーションを駆使した近代的な『待ち合わせ』を経て、先日もお世話になった図書館にて合流を果たした我々。
どうやら魔法少女【星蠍】ことソノダさんは結構な頻度で入り浸っているらしく、今日も今日とて活字に埋もれる予定だったとのこと。
……よほど本が好きらしいな。
発光を伴う『転送』ではなく、全身に『隠蔽』を纏っての自由落下であれば、地表に降りても人々の注目を集めずに済むらしいことに気がついたのは……つい先程のこと。
ひっそりと降下できたことに加え、射殺すような視線で周囲へ牽制してくれているソノダさんのお陰もあるのだろう。
この図書館四階の喫茶コーナーにて、現状こうして紅茶とシフォンケーキを堪能している分には……カメラやら何やらを向けられずに済んでいるようだ。
今しがた届いたばかりの、しっとりフッワフワのケーキ生地。初めて堪能するであろうその欠片を、おっかなびっくり口へと運んだ我が娘は……これまたお目々を真ん丸く見開いて、お口をもぐもぐとさせている。
頭を悩ませる話題の割に、どこかホンワカした雰囲気を維持できているのは……間違いなくこの娘の愛らしさのお陰だろう。
「確かに私達も、スマホとかカメラを向けられることが無いわけじゃありません。魔法少女の中には積極的にファンサービスする子もいますし、政府主導でそういう感じのポータルサイトがあったりとか……ちょっと複雑ですが、戦うアイドル的な感覚なんだと思います」
「まぁ……可愛らしい娘が健気に頑張ってりゃァ、そら応援したくもなるだろうな」
「大丈夫です、アルファさんもディンちゃんも可愛いですから」
「何が大丈夫なのかは全くもって理解できんが……まぁ厄介な事態になってるってのは、よぉく理解った」
私達……というか主に私が、今日彼女に相談しようと持ち込んだものとは、ずばり『私達が魔物駆除に動くことで人々を危険に晒す可能性』についてだ。
先日の『変異種』のケースで見られたように、私やディンの姿を求めて危険地帯へ誘引されるヒトが現れてしまう状況において……私達はどうするのが最良なのか。
多少は同様の経験を味わっているという先輩魔法少女なら、何か良い案を提示してくれるのではないか。
年端も行かぬ少女にそんな期待をしてしまうあたり……だいぶ彼女達に絆され、また随分と心を許してしまっているようだ。
「参考になるかはわかりませんが……とりあえず、執行業務中に遭遇した、敢えてこう言いますが『一般人』に関して。……結論のみを言ってしまいますと、保護や救護はあくまで『努力義務』の域、対災隊救護班のお仕事……ということになっています」
「…………マジか」
「マジです。……いちおう意図としては、私達魔法少女には『魔物の駆除』こそが最も求められている役割だから、逃げ遅れた方を助けたりとかは対災隊の領分……ということですね。……本当に心無い言い方をすると、『避難指示を無視するような部外者を守るよりも、被害の根本を断つことを優先せよ』ということになります」
「あぁー…………なるほど、アラートは別で鳴らされてるわけか」
「はい。……とはいっても、独力で避難することが難しいおばあちゃんとかも居ますので、完全に『自己責任』って切り捨てするのは難しいですが……」
「だとしても、私らの写真なり動画なり撮ろうとした奴が……まぁ最悪巻き添え食らって死んだとしても、私達……というか『魔法少女』達が、特に直接罪に問われるわけじゃ無い。……ってことで合ってるか?」
「その通りです。……実際、ときどき居るそうですし。私達の制止を無視して…………その、亡くなる方は」
「………………それって……」
避難指示を無視した挙げ句、自己責任で命を落とすのは……まぁ、仕方ないとして。
その場合最悪なのは……肉体的にも精神的にも未だ幼い少女に、一生消えない心の傷を残すことだ。
たとえ『自己責任だ』『あいつが悪い』『あなたは悪くない』などと労られたところで……そもそもが『魔法少女となって人々のために戦う』ことを決意してしまう程に、責任感あふれる良い子なのだ。
自分の目の前で、すぐ手の届きそうな距離で、しかし自分は助けることが出来ず、無惨な死体と成り果てる様を見せ付けられる。
……最悪だ。ただ命を落とすだけならまだしも……前途有望な少女の心を道連れにするなど、到底許されることでは無いだろうに。
「…………被害、って……出てるのか?」
「無断撮影でしたら……まぁ、撲滅は厳しいですね。一応、私達にも法務部の方々が付いてくれては居ますけど……黙認してしまってるのが現状です」
「…………だよなぁ」
幸いだったのは、避難指示に従わない一般人に対する立場を明確にできたこと。
私達は魔物への対処のみに集中すれば良く、何かしらの不慮の事故や不幸な事態が生じたとしても、責を感じる必要は無いということだ。
しかしながら……私が抱えていた懸念に関しては解決策を見出すどころか、彼女達も同じ苦労を味わっていたという事実。
とはいえ魔法少女達の間であっても、それに対するリアクションは大きく二分されているらしい。
注目を浴びることを快く思わない子が居る一方で、寄せられる『ファン』の声を励みにしている子も居るといい……一概に『良い』『悪い』と切って捨てることができないのだと。
ともあれそれでも、確かなことはあるだろう。
たとえば……彼女たちの目の前で、一般人の被害が生じること。少なくともこればかりは、誰を幸せにすることも無いと断言できる。
……なるほど。であれば。
私に出来ること、私だから出来ることも、あるのかもしれない。
それは、たとえば。
「例えば……魔物の対処、基本的にそっちに頼ったり、って……迷惑じゃないか?」
「えっ? あ、いえ……むしろ、いつも通りといいますか」
「…………そういやそうか。……いや、作戦ってわけでも無いんだが……」
私が持ち掛けようとしていたこととは……魔物の対処を魔法少女達に振ることを前提とした、一種の分業提案である。
私達は彼女達の探知網を拝借し、『魔物出現』の報を受けたら、上空3万メートルにて待機。
当直の魔法少女達に直接の対処を一任し、何事もなければそれで万々歳。彼女達の手柄を掻っ攫うこともなく、私達目当ての観覧者を危険に晒すことも無い。
一方で、揚星艇あるいは我々の遠隔視覚による有視界俯瞰により、周辺一般人に被害が生じそうだと判断した場合。
もしくは……魔法少女達の戦況をモニタリングしているであろう、先方の指揮者から何らかの要請があった場合。
……そうなれば、もう派手に光ることは承知の上で、我々が直ちに参戦する。
異星文明の侵略技術を駆使する私達であれば……待機地点である揚星艇から地表まで、ほんの一秒と掛けずに割り込むことさえ可能なのだ。
「……っ、…………それ、は……はっきり言って、とても助かると言いますか……心強いです」
「まぁ……根本的な解決が出来てないのが難だが、色々と被害抑制は出来ると思う。検討してみてほしい」
「はいっ。…………必ず、伝えます」
「感謝する」
「なにをおっしゃいます。…………こちらこそ、心から感謝します。アルファさん」
そう感謝の言葉を述べ、真っ直ぐに微笑みを向けてくる少女の顔に、こちらまで顔が緩んでくるのを自覚するが……仕方ない。
私の直ぐ側では、生クリームたっぷりのシフォンケーキを満喫している、可愛い我が娘のニコニコ笑顔が咲き誇っているのだ。これでは顔が緩まないほうがおかしいだろう。
つまり……魔法少女達との更なる協働の可能性が出たことなど、年端も行かぬ少女達と仲良くなることなど、私は別に嬉しくはない。
嬉しいわけではないが……まぁ、取り立てて嫌悪する程でもない。
そういうことだ。
…………そういうことにしておこう。




