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なんか、見学するみたい。

 うだるような暑さは連日続く。

 補給した水分がそのまま汗になって外へ出て行く。

 

 今日一日で何回暑いと言っただろうか。

 窓もなく扇風機しかない仕事場は地獄といっても過言ではない。


 そんな苦痛もあってからか、本来なら面倒でいつも断ってる執行以外の仕事も、今回ばかりはすんなり引き受けた。

  

 この日、僕と殺菜ちゃんの二人はある施設の見学にきていた。

 あちら側がどうしても拷問士の方に見て頂きたいと頼んできたらしい。

 それを受けた執行局は、特級であり歳も若い僕達に要請をよこした。


 僕はこういうのあまり好きじゃないんだけど、さっきも言ったようにあのサウナのような部屋から一時でも涼しい所に避難できればと思い了承したんだ。


「いや~、楽しみっすね~」

「僕は涼しいならなんでもいいけどね」


 ゲストとして呼ばれた施設に昼過ぎには着いた。

 職員に案内されて僕達は中へと。

 殺菜ちゃんは口ではそんな事を言ってたけど目が笑ってない。

 それはしょうが無いかな、殺菜ちゃんの性格上この施設とは相性が悪い。   


 今回、僕達が訪れたのは、犯罪者更生施設。


 最近、新設されたらしく、建物内はとても綺麗だった。

 壁や天井にいたるまで真っ白。

 犯罪者達は果たしてこのようにクリーンになるのだろうか。

 執行に変わる新たな犯罪者の扱い方として一部で期待されているみたい。



「お忙しいところ態々ありがとうございます。私、所長の草生直子と申します。今日はよろしくお願いしますね」

   

 通された部屋でここの所長と挨拶を交わした。

 ふくよかな中年のおばさん。見ただけで大らかそうな人だね。


「よろしくっす~」

「よろしくお願いします」


 所長は僕達をまじまじと下から舐めるように見る。


「聞いてましたけど、随分お若いのね。こんな子達が執行人なんてやってるなんて・・・・・・」


 なんとなく哀れみの目で見られてる気がする。

 僕達は別に強制されてこの仕事をしてる訳じゃない。

 自分でこの道を選んで職についたのだ。

 誇りこそあれ、負い目など微塵もない。 


「まぁ、いいでしょう。この施設の運用が軌道にのれば貴方達が苦労しなくて済む世の中がきっときます。今は一刻も早くこのプログラムの有効性を世に示す時です」


 この後、所長によるこの施設はなにかという説明を受けた。

 ホワイトボードを用いて、その熱弁は1時間は続いた。


 僕達は真面目に聞いていたけど、正直一方的に考えを押しつけられただけなので正直辛かったです、はい。

 殺菜ちゃんは隣で、所長が何かいうたびに、ハハ、ハハって静かに笑ってた。ちょっと怖かったよ。


「さて、充分理解してもらったところで、実際私達のプログラムを見て頂きましょう」


 所長は生き生きとそういうと、僕達の前にモニターを出した。

 そこに映し出されたのは別室の様子だった。


 同時にプリントも渡される。大まかな流れが書いてあった。

 大抵は言い聞かせるタイプだね。説法的な。


 室内には6人の少年の姿があった。

 全員金髪で、目付きが悪い。足を机にのせて態度もすこぶる悪い。


 音声もこの場に届く。罵声が聞こえて来た。


「おらぁぁ、さっさと帰らせろやっ!」

「殺すぞっ! 糞ババァっ!」


 怒声が飛び交う。同室にいた職員は男女二人、彼らは必死に少年達を宥めていた。


「彼らはなにをしたんです?」


 それを見ていた僕は所長に尋ねた。プログラムを受けているって事はなにかやらかしたって事だよね。

 

「・・・・・・彼らは残念ながら人に暴力を振るってしまったのです。中学時代の同級生に暴行を加えました。一緒にいた弟と妹にも危害を加え逮捕されたのです」


 所長は肩を落として悲しそうな顔を見せた。


「それ知ってるっす。その三人の兄弟によってたかってボコボコにしたんすよね。三人は鼻や肋骨を折る重傷っす。弟や妹はまだ幼いのに、お兄ちゃんがやられて止めに入ったんすよ。とても勇気がある行動っす。なのに容赦なくこいつらは殴る蹴るを繰り返したんす」


 殺菜ちゃんの声が後になるほど重くなった。

 モニターを見る目が鋭さを増す。


「犯罪を起こしてしまったのは残念ですが、彼らはまだ若い。家庭環境も影響があります。ほとんどが親に放任されていた傾向もあります。いわば彼らもまた被害者なのですよ」


 僕はとくに何も言わなかった。

 視線を再びモニターに移す、少年達はまだ罵声を浴びせ、時より机を蹴って職員を威嚇していた。


「ボコんぞっ! こらぁあぁ!」

「ふざけんなよ、なんでこんなとこ来なきゃなんねんだぁ、あぁぁ?」


 本来、僕達の所に来るはずの少年達は、試験的な試みのためここに連れてこられた。

 所長としてはここで実績を示したいところだろう。

 でも、これ大丈夫かな。全く制御できてない感じだけど。


「あの、これ警備員とかつけないんですか?」


 あの場の職員は少年達より少ない。男性はまだ体格がよさそうだけど、女性はおどおどしてるだけだ。


「そういうのはつけません。私は彼らを信じていますし、闇雲に刺激するような事はしたくありません。こっちが真摯に話しかければちゃんと話を聞いてくれます」


 どこからその根拠がくるのか分からないけど、所長は自信たっぷりにそういった。


 そんな矢先だった。


「あぁあ、もういい。俺帰るわ、女と会う約束あんだわ」

「俺も、忙しいし」

「んじゃカラオケでもいかね~?」


 一人の少年が立ち上がり、入り口に向かった。

 他も続くように出て行こうとする。


「ちょっ、ちょっと待ちなさいっ!」


 男性職員はそれを止めにはいった。

 割り込むように入り口を立ち塞ぐ。


「あぁぁ? どけっこらぁっ!」


 それを先頭の少年が殴りつけた。続けざまに横の少年も膝蹴りをいれた。

 蹲る職員に追い打ちをかけるように全員が蹴り、踏みつけ始めた。


「貴方達、や、やめなさい」


 びくつきながら小さな声で女性職員も制止を促す。

 が、それは逆効果。

 標的は女性職員にも移り、少年は分散し暴行を加えた。


「痛い、やめて、い、いた、ごめ、ごめんなさい」


「うっせぇ、死ね、この糞ババァっ!」


 顔や横腹を蹴り上げられ、職員達は床に蹲り身を丸くした。



 それを見た所長の顔が青ざめる。


「あ、あ、え、なんで、どう、どうしましょう・・・・・・」


 想定外だったのか、動揺してオロオロしている。


「あ、あ、けいさ、警察を呼ばなきゃ・・・・・・あ、ああ」


 こうしてる間にも職員達の顔から血が流れ、悲鳴と呻きが届く。


「他に職員はっ!?」


 こうなったら総動員して全員で取り押さえるしかない。


「あ、あ、駄目です。女性ばかりで・・・・・・正式に運用してるわけじゃないので、人数も・・・・・・」

 

 あたふたしながら頭を抱えるだけの所長。

 それを見かねたのか隣に座っていた女の子が立ち上がる。


「仕方ないっすね。ちょっと、行ってくるっす。場所どこっすか?」


「・・・・・・大丈夫? 僕もいこうか」


「いや、いいっす。リョナっちが行ったら被害が増すだけっすよ」


 うぅ、言い返せない。情けないけど僕はとても弱い。周りが強すぎるだけってのもあるけど。


 所長に場所を聞くと、殺菜ちゃんは部屋を出た。

 僕はモニターを見てることしかできない。 


 しばらくして、画面に映る室内の扉が開かれた。

 殺菜ちゃんの登場である。


「あぁ、だ、こら、なんだこのアマ」

「おめぇも職員か? ぶっ殺すぞ、あ?」


 突然の来訪者に、少年達の動きも止める。

 だが、それが少女一人だと知ると、また威勢を戻し怒声をあげる。


「なんか文句あんのかぁ!? ここで輪すぞっ、あぁ?」


「ちっ、うっせぇな。ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピー」


「なんだと? こらぁぁっ!」


 少年の一人が、殺菜ちゃんの顔面を殴りつけた。


「いてぇ・・・・・・・・・・・・ぺっ」


 殺菜ちゃんが血の混じった唾を吐く。

 そして、小さく口元を引き上げた。


 一瞬の静寂。殺菜ちゃんが両手を翳すと、その手の中にオレンジ色のペンチが現れた。

 袖から滑るように落ちた二つのペンチ、強く握りしめた殺菜ちゃんはそれで一番近くにいた少年の鼻を掴む。

 

 そして捻る。


「あがぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ」


 続けて、同じ少年の横腹を片方のペンチが挟む。


 そして捻る。


 さらに引っ張る。


「ひぎゃぁぁっぁぁぁぁ」


 力を増し、握力を弱める事はない。


「なにが更正だぁぁぁ! 馬鹿らしいっ! こんな屑共がまともになるわけねぇだろがぁぁぁ」


 別の少年の顔にペンチが向けられる。

 瞬時に瞼を掴む、そして捻って引き千切る。

 耳を挟み、手首を回転させ、引き寄せる。


「そんなに更正させたいなら私がやってやらぁっ! パブロフの犬方式でいいならなぁ。植え付けてやる! 悪い事をしたらどうなるか、その身をもって刻み込んでやんよぉぉっ!」


 柔らかい肌に、鉄が食い込む。

 まるで牙、食いちぎるように皮は肉ごと引き剥がされる。


 拷問士が正規な手順を踏まずに、このような事前執行を行った場合、その後の正式な執行時は引き続き同じ拷問士が担当しなければならない。

 つまり、この少年達は後の執行も殺菜ちゃんになるってことだ。

 それはとても恐ろしい事。

 

「てめぇぇぇっ! よくも理来徒リライトをっ!」

極楽エデンになにしてくれてんだぁ、こらっ!」


 仲間がやられて加勢に入る、ルビがないと読めない名前の少年達。


「あぁ、なんだその名前っ!? てめぇらの親は、我が子をペット感覚かっ!? その点だけは同情してやんよぉぉ。じいさんになっても病院でその名前呼ばれるんだからなぁぁっ!」

  

 殺菜ころなちゃんってのも大概だけど、ここは突っこまないでおこう。


 閉じたペンチが男の眼球に突き刺さる。

 金属部分で頭部を叩き付け、両頬を掴むと手を広げ肉をはぎ取る。

 皮が渦を巻き、服ごと肉片を引き離す。


「屑がぁぁっ! 黙って執行受けりゃいいんだっ! 馬鹿には頭じゃなくて体で覚えさせなきゃ駄目なんだよ! 他人の痛みは、自身の痛みで知れや、糞がっ!」


 握る、捻る、引っ張るの三コンボで殺菜ちゃんは少年達を制圧していく。


「おらぁぁあ、舌だせ、舌ぁぁっ! 汚い言葉を垂れ流すその舌引き抜いてやんぞぉぉぉっ!」 

「歯だっ! ヤニまみれのその歯、抜歯してやるっ! フガフガ言ってろ、この欠陥品共がぁががあっ!」


 引き千切られた肉が床に溜まっていく。

 

「マイナス過ぎなんだよなぁっ! どんだけプラスに振れば真人間になるってんだっ! 日々普通に暮らしてる人が馬鹿らしいだろがっ! こんな虫以下にいくら金かける気だ、糞がっ」

 

 たしかにこの施設は、この猛暑にもめげず汗水流して働いてる人達の血税で作られてるからね。その人達の生活がよくなるために使うならいいけど、なんで世の中を乱す犯罪者のためにお金を出す必要があるのか。


「てめらには執行とは別にちゃんと被害者に賠償させっからなっ! 無い袖は振れねぇなんて言わせねぇっ! 遊ぶ金も良い物食う金もお前らには必要ねぇっ! ただひたすら払い続けろっ!」


 裁判で賠償命令がでても、実際払わない人が多い。

 未成年の場合、支払い義務は親に移る。払わないと債務は残るが、親が死んでも相続放棄すれば当事者には義務が無くなるのだ。   

 たしかに無い物は無いかもしれない。でも、一生かけてでも少しでも僅かだろうが払い続けるのがせめてもの償いになるのではないだろうか。 

   

「今日中に病院に謝りに行け。外でいいわ。被害者はお前らの顔なんて見たくねぇ、この炎天下でずっと病室に向かって土下座してろ。そしたら、本執行は多少手抜いてやってもいいぜぇえ」


 激痛で蹲る少年の頭を踏みつけながら殺菜ちゃんはそう吐き捨てる。

 いっても、この子達は痛みでそれどころじゃないだろう。

 涙を流し、痛い痛いと蹲っている。

 それにどうせ手を抜くなんて嘘だ。


「けっ、くだらねぇ。とんだ茶番だったわ。人をよってたかってボコボコにするような奴が心入れ替えるのか。なんだ、人を傷つけたらいけないよって言うのか、相手を思いやりなさいって教えるのか、はっ、そんなのこいつらとっくに分かってんだよ、分かってやってるからこいつらは屑なんだろうが。痛がるから殴るんだ、嫌がるからやるんだ、それを今更なにを論理語って教えるっていうんだっ」


 これはもう所長さんに向けて言ってるね。

 殺菜ちゃんにしてみれば、犯罪者はタガが外れた欠陥品だと思ってるからこの施設の存在自体が考えと反してるんだ。修復にも限度がある。


 その後、連絡を受けた警察が少年達を連行した。ほとんどは警察ではなく病院に直行したけど。


「ただいまっす~」

「おかえり」


 笑顔で殺菜ちゃんが戻ってきた。


「それにしてもただでさえ、殺菜ちゃん仕事多いのにまた一気に六人増やしちゃったね」

「あぁ、大丈夫っすよ。あれじゃ全然足りないっすからね。あいつらみたいなのは、再犯させない、じゃなくて、再犯できない、ようにしなきゃ駄目なんすよ」


 手に持つ、柄はオレンジだけど先端が赤くなったペンチをパカパカしながら殺菜ちゃんは微笑んだ。

 

 今日の映像をプログラムに使えばいいんじゃないかな。

 これを見れば少なくとも執行を受けたくないと思うよ。

 思いとどまる要因にはなりそう。


 外は暑いけど、今日は背筋が凍るような光景を見たよ。

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