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なんか、テレビに出るみたい。

 所々、テレビ用にリョナ子らしかぬ行動があります。

 心を殺して、法の下、刑罰を与える者。

 

 この日、いつものように出勤してくる女性がいた。

  

 R子さん。見た目は年相応の女の子と相違がない。(都合によりモザイク処理が施してあります)

 しかし、纏う雰囲気は一般人のそれとはまるで異なる。


 世間から忌み嫌われ、業務は過酷、しかし、それでも彼女達はこの仕事を全うする。

 刑罰執行人、それは誰かがやらなければならない仕事。

 なぜ、彼女達はそれを選び、そして全力で向き合っているのだろうか。


R子の、七〇日に及ぶ取材の記録。



「はぁぁぁ? テレビ出演??」


 この日、出勤してきた僕に局長から朝一で電話がかかってきた。

 なんでも、職業を紹介する番組があるんだけど、そこが今度は拷問士を取り上げたいらしい。


「ちょっと待ってくださいよ、なんで僕なんですかっ! 他にもいるでしょう。ていうかそもそも拷問士は裏方家業でしょっ! そんな表だって、なおかつテレビに映るなんて駄目でしょっ!?」


 まぁ、そういうよね。拷問士の個人情報は国家機密だし、これほど恨みを買いやすい仕事もそうそう無いよ。普通はオファーが来ても断るのが当然なんだけど。


「え? 年々、拷問士の職を選ぶ者が少なくなってるから、これを機にアピールしたい? 正気ですか!?」


 たしかに花形の仕事ではないし、厳しい試験もある。局長のいうこともわからなくもないけど。


「でも、なんだって僕なんですか、ドク枝さんとかでいいでしょっ!」


 さりげなくなすりつける。僕はただでさえ内気なのに、そんなのやれるわけがない。


「は、特級限定で、私が一番年下だから!?」


 そりゃ最年少で特級拷問士になったけど、僕の下には後から特級になった年上もいる。


「はい? お前は後輩にやらせるつもりなのかって、なら僕の先輩にやらせてくださいよっ!」


 特級はほとんど僕より年上で先輩だ。

 でも、その先輩達は全員口を揃えて、拒否するっ! って言ったらしい。


「そんなら、僕も拒否するっ!」


 そうこう局長と言い争っていたわけだけど。

 お前は後輩なんだからやれって言われて。じゃあ僕より後輩にやらせてと言うと、今度はお前は一番年下なんだからやれって言われて。

 

 あーだこーだで今日から収録です。


 

 拷問士の朝は早い。

 この日R子は、誰よりも早く出勤していた。

 執行前の準備には余念がない。対象者のデータも隅々まで確認する。

 朝食はとらない。コーヒーだけを啜り、書類に目を通す。特級といえども執行中に精神負荷で戻す事がある、R子ほどのベテランでもその可能性はあるとの事だ。

  

  ‐‐‐‐今日はレベル6ですが、いつもと変わったことは? ‐‐‐‐ 


「ん~、特に他のレベルと同じですね。罪人は一人ですし。7だと流石に緊張しますけど、6はもう何十回とやってるんで」


 彼女はとてもリラックスしているように見える。これから手を真っ赤に染める執行人とはとても思えなかった。


 午前8時。今日の執行が始まった。

 この日の罪人は、強盗殺人を犯した者。老夫婦宅に侵入し、夫婦を拘束、何度も殴りつけ金を在処を聞き出すと、そのまま二人を撲殺した。預金から金を引き出そうとした時に、取り押さえられ今に至る。


 ‐‐‐‐犯罪内容によって、感情が動く事はない? ‐‐‐‐

  

「そりゃ、ありますよ。でもそこはぐっと我慢します。繊細な仕事なので気分の昂揚はミスに繋がりますからね」


 そう言うと、R子はR子棒と呼ぶ鉄の棒を手に取る。

 吊させた男の顔を、いきなり殴りつけた。


 彼女は、この棒を誰にも触らせないという。この棒を握る感覚をいつも覚えているため、些細な変化も嫌うらしい。

 その後R子は、淡々と表情を変えず、変わりに手だけが忙しく動いていた。

 歯が飛び、飛び血が着ていた白衣(血でもう全体がどす黒い)にかかる。


 反響する室内に、鈍い音と相手の悲鳴だけが木霊していた。


 数時間後、首の骨が折れ、赤い化粧を全面に施された顔が地面に向かって垂れる罪人の姿。

 (規制中)。


 ‐‐‐‐今回の執行は、どんな感じで決めた? ‐‐‐‐ 


「そうですね、普段はその場で組み立てていくのですが、今回の罪人は、罪もない老夫婦をこれでもかと殴りつけ撲殺しました。だから僕も、これでもかと殴りつけたんです」


 目には目を。執行人は、被害者の痛みを加害者に代わり還元する。

 妻だけは、夫だけはと懇願する被害者達を、無慈悲に殺した犯罪者。

 R子は、この夫婦の声に耳を傾ける。その状況を想像し、自分がされたように感じる事ができるという。恨みを力に変え、彼女達は精神を保っているのかもしれない。 


 R子の心の支えは、飼い猫だ。

 執行後は、知らず知らずに負のオーラが全身から滲み出る。そんな時、自分は何者なのだろうと考える事があるという。しかし、家に帰ると、飼い猫は飼い主のR子の傍にすぐに近寄り顔をすり寄せてくる。この時、R子は奥底から息を吐き出せ、なにか濁ったものが外に出るようだ。


 ‐‐‐‐休日は、なにか特別な事でも?‐‐‐‐ 


「そうですねぇ、だいたい昼近くに起きて、たまに夕方に起きる事も、後は、ベットでダラダラと・・・・・・あ、ここ取り直しお願いします」


‐‐‐‐休日は、なにか特別な事でも?‐‐‐‐ 

 

「そうですね、罪とはなにか、罰とは、自分の存在意義とは、そんな事を考えてると時間が過ぎていきますね。政治経済や、社会情勢にも気を配ります。たまに早起きしてボランティアなどもしたり、体を鈍らせないためにジョギングや、あと花を愛でたりします」


 この日、R子の執行は数日に及んでいた。

 高レベルの執行は、泊まりがけで何日もかかることがある。

 それは孤独との戦いでもある。


 ‐‐‐‐途中でやめたくなる事は? ‐‐‐‐


「始めたらそう思う事はないですね。僕にとってスタートとゴールは始めから繋がっていますから。例えば、途中で投げ出したら多分他の特級の方が引き継ぐんでしょうけど、そんな状態でタッチされてもその後うまくできるはずないんですよ。下の級ならたまにあるみたいですけど特級の人でそんな事した人は今まで聞いた事ないですね」


 連日の執行は、よく眠れないという。だが、R子の集中力は逆に増していく。

 R子は地上最年少で特級と昇進した。

 そんな天才児を同僚達にはどう映っているのだろうか。

 同じ、特級拷問士のS菜に質問してみた。


 ‐‐‐‐同じ拷問士から見てR子さんとは? ‐‐‐‐


「あ、忙しいので執行しながらでお願いしまっす。あー、そうすっね。Rっちは、同業からも一目置かれてるっすよ。あ、自分もですね、この仕事つくとき、まぁ、私が一番才能あるっしょ、なんて自惚れてたんですけど、まさか私より早く特級に上がる人がいるなんて思ってもなかったっす。あ、ちょっと失礼します。おらぁぁっぁぁあっ!!!! なに目閉じてんだ、こらぁ、てめぇ、目閉じた回数×肉ペンチ引きはがしだって言ってんだろがぁぁぁ、おら、また捻りとるぞっ! その肉ぅぅぅぅっ!!! あ、すいませんでした。あー、なんでしたっけ。Rっちの事でしたっけ、ええ、とりあえず好きっすよ、執行技術は惚れ惚れするっす、あの人の拷問だけは自分受けたくないっすね~、だってもう粘土こねてるような感じで気持ちが向けられてないんすもん。なんか自分が人として全否定された気持ちになるっす。自分もあんな感じでやりたいもんっすよ。うんうん」


 こんな同僚からも尊敬されるR子さんだが、やはり新人の時は苦労があった。

 あまりに早いスピードで上に登ったゆえ、腕に精神が追いついてこなかった。

 それでも結果は求められ重圧だけが募る。毎日吐いて、泣いては仕事を続けた。

 普段どおりにしていても呼吸困難になって倒れる事もあった。

 手は震え、どうしても執行が始められない時も。


 ‐‐‐‐その時、それをどう乗り越えた? ‐‐‐‐


「あぁ、先輩ですね。すごい先輩がいたんで。その先輩が言ったんですよ。手が止まっていた僕に、出来ないなら辞めろって、血とは無縁な職を探せって。この時点で、僕は特級ではなかったけどプロでした。そこで辞めたら自分がそこまでだったって認める事になるじゃないですか、それは嫌だった。それから毎日、涙はもういらない、心も捨てろ、そう何度も言い聞かせました」


 人知れず苦労は絶えない。R子さんを外から見ていると淡々と簡単に執行しているように見える。だが、ここまで来るまでにどれだけの血を見て肉を裂いてきたのか。


 ‐‐‐‐この仕事に生きがいを感じますか? ‐‐‐‐


「ええ、世の中屑だらけですもん。ニュースを見てると、毎日毎日誰かが被害者になり、誰かが加害者になってる。また殺人だ、強盗だ、連れ去りだってね。またか、またかです。あぁ、この前虐めで生徒一人自殺しちゃったでしょ? あれ、虐めたグループも、気づいてて放置してた教師も含めて、全員僕が執行する事になったんです。僕、ニュース見てて泣いちゃいました。なんでこの子が死ななきゃならないんだろうって、毎日辛かったろうなって、助けを求めても誰も手を差し伸べてくれなかった。それが悔しくて悔しくて。もう手遅れだけど、せめて僕が君の代わりに罰を与えてあげる、そう思いました。で、そういう罪人が僕の部屋に来た瞬間、この仕事に生きがいを感じますね」


 ‐‐‐‐プロフェッショナルとは? ‐‐‐‐


「仕事があってそれが出来ればみんなプロフェッショナルですね。愚痴ってもいいし、文句いってもいい、時間をかけてたっていい、でも最後までやり遂げる。無理なら、途中で辞めたり、逃げてもいい、でもその時点でプロでは無くなりますけどね」

 

 そういい、R子は今日の業務を終え、家路に向かう。

 この七〇日間、執行件数は三桁を超えた。

 明日からも執行の日々は続いていく。

 彼女がその足を止めないかぎり。

 書き終えてなにこれって思いました。対決編の繋ぎって事にしてください。一応最後の方例の曲を脳内で流してもらえると良い感じかもです。

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