なんか、スカウトしにきたみたい。(先輩編)
そして次の休日が来た。
指定されたのは、まさかのカフェテラス。
僕は目を擦りながら、葵ちゃんに手を引かれフラフラと歩いて行く。
とんでもなく眠い。本当なら目一杯睡眠をとるはずの貴重なお休みなのに。
日差しが痛い。暑いしだるいし、今にも倒れそう。
「あ、ここだねっ! うん、多分いるよ。なんか一カ所空気が淀んでるから」
葵ちゃんはすぐに二人を見つけたみたい、僕もそちらに目をやった。
「・・・・・・変わってないなぁ」
大きなパラソルの下、紅茶を口にする長い前髪で目を覆った女性。赤いフレアーワンピースを着て上品にお茶を嗜んでいる。隣にはこの照りつける太陽の下、白いレインコートをフードまですっぽりかぶった小柄な人物がいる。むろん雨など降ってはいない。もう空気がうんたら以前に目立ちまくっていた。
「あ、どうも、どうもー」
葵ちゃんが手を振りながら近づいていく。二人の前まで来るとすぐに椅子に座った。いきなりすぎだとは思ったけど、僕も席につく。先輩は顔を上げた。
「久しぶりだね、リョナ子。すっかり髪も白くなっちゃって」
「そういう先輩はお変わりなく」
先輩が失踪して一年半くらいかな。あの時は理由も知らずに急に姿を消したから散々心配したけど、こうやって無事に生きていてくれた。
「あ、私、キャラメルテジナーニャテラトリップ、フラットのパーピーショックでっ! リョナ子ちゃんは?」
葵ちゃんがなんか注文してる、一体どんな飲み物が来るんだろう。
「・・・・・・コーヒー・・・・・・アイスで」
じゃあ、葵ちゃんと同じので、と言うには勇気が足りなかった。
「相変わらず、コーヒー大好きだね、リョナ子は」
先輩はニコニコしながら僕をじっと見ていた。
「・・・・・・懐かしむの結構ですけど、僕達を呼んだ理由をお聞かせ願います?」
先輩は少し呆れたように息を吐いた。
「やれやれ、ま、いいか。こちらも多忙の身でね。単刀直入に言おう」
一連の犯行はこの二人の仕業だ。それはここに呼ばれた時点で確定している。
「そこの、可愛らしい少女が色々私達をかぎ回ってたようでね。こちらも色々調べさせてもらった。そしたらリョナ子に行き着いた。これは運命だと思った」
「・・・・・・・・・・・・で?」
全然、単刀直入じゃない。でもいちいち言わない。
「私は、リョナ子についてきて欲しい。つまり私を手伝えって事。どうだろう?」
先輩の要求は一応想定内だったので、僕は驚きはしない。そして答えももう用意してあった。
「残念ですけどお断りします」
即答したように思われるだろうけど、そんな事はない。これでも悩んで導き出した僕の答えだ。
「・・・・・・ふぅ、リョナ子は今の制度で満足なのか? 少年法や情状酌量で減刑され、あまつさえ裁判で執行逃れまで起きている。それでは他の罪人にとっても不公平だろう」
「では逆に聞きますけど、先輩は何故、殺人鬼と一緒にいるんです? それに前回の事件、対象以外の者も殺めたのはどうしてです?」
この答えしだいで、僕の先輩に対する対処も変わるだろう。
「レッドドットの事か。この子は私がいずれ執行し罰を与える。それまでは私の下で罪を少しでも洗ってもらう。国がそこの少女にしている事となんら変わりない。そして対象者以外といったが、あいつらも共犯だった。だから断罪してやったまでの話だ」
先輩の事だからしっかり調べた上での犯行だろう、けどまだ納得はできない。
「でも、先輩がやってることは犯罪です。法を犯してる」
僕がそう言い放つと、先輩は鼻で笑った。
「法とは人が作ったものだろう。なら、私も人だ。今の法に不備があるなら、私が正しい法に作り替える。リョナ子よ、もし今の法が私の理想と同じものだったらどうだ、お前はなんの疑問も持たずに粛々と執行しているはずじゃないのか?」
「・・・・・・さぁ、どうでしょうね。少なくとも更正の余地がある者はいると思いますけどね。精神の未熟さゆえの犯行もあるでしょう」
「いや、無いな。三つ子の魂は百までだ。環境などの影響はたしかにあるだろう、だが同じ条件でも正しく育つ奴は育つ。犯罪者は生まれながらにそういう因子を持ってるのだよ。逆に、偉大な人物、過去に英雄や聖人と呼ばれた者が、一般人と同じく生まれた思うか? 何か特別なものを宿していたと私は思う。極端に言えばこのまま犯罪を犯す者を排除していけば、最終的には善人しか残らないはずなんだ」
「・・・・・・先輩、働かないアリって知ってます? アリにはコロニー内で一定数全く働かないアリがいるんです。でも、その働かないアリだけを取り除いても、また一定数働かないアリが出てくるんですよ。人だって同じじゃないですかね?」
「真社会性生物のアリとはいえ虫は虫だ。高度な思考ができる人間と昆虫を一緒にされては困るよ」
お互い譲らない。話は平行線を辿る。先輩も僕との話を切り上げ、葵ちゃんの方に顔を向けた。
「えっと君はドールコレクターだったか。なんでもリョナ子に執行され死ぬ事を望んでいるそうだな。その執行私がやってやろう。私も元は特級だ。リョナ子より上手に殺してやるぞ、どうだ、しばらく私を手伝わんか? 埋め込まれてるやつも外して自由にしてやる」
「っ!?」
しまった。大誤算だ。僕がここに堂々と来られたのは隣に葵ちゃんがいるからだ。悔しいけど、葵ちゃんがいれば大抵の危機的状況は回避できる。葵ちゃんは僕の事を命がけで守るだろう。自分の利益のために。
葵ちゃんが執着しているのは僕ではない、僕の拷問の腕に心酔してるのだ。もし、僕の両手が無くなれば、葵ちゃんにとって僕などゴミ以下に成り下がるだろう。葵ちゃんは先輩の拷問を僕と見間違うほどに美しいと感じていた。ここで葵ちゃんが首を縦に振った瞬間、僕の立場が一気に危うくなる。
「私、リョナ子ちゃんにやってもらうからいいよ。もう予約してるんだ」
なのに、葵ちゃんはあっさり断った。それがとても意外だった。
「そうですよ、先輩。葵ちゃんは僕が責任を持って全力で執行します。それにね、僕は先輩の腕をとっくに超えてますよ」
僕は内心の焦りを誤魔化すようにはっきり言ってやった。それに対して先輩は口を大きく開けて笑い出した。
「ははは、私に抱きついて大泣きしてたリョナ子が言うようになったじゃないか!」
一頻り笑い終えると、先輩が立ち上がる。どちらにも振られてもう用が無くなったのだろう。隣でオレンジジュースを飲んでいたレッドドットも続いて椅子から降りた。そしてちらりと葵ちゃんの方に顔を向ける。
「・・・・・・うん、こっちのお姉ちゃんはやめた方がいい」
ここで始めて白いレインコートの少女が声を出した。
「ここに来た時も、座ってる時も、目線が色々動いてた。全ての事象に対応しようと思考してた。同時に私にずっと殺意を送り続けてどうやって殺すか考えてた。このお姉ちゃん、本物だね。飼い慣らせないよ」
そうなのか。僕にはただニコニコと落ち着き無く体を揺らしてるだけだと思ってたけど、殺人鬼同士、通じ合うものがあるのだろう。
「お前がそこまでいうならそうなのだろう。おい、ドールコレクターよ、同じ殺人鬼にさえ嫌がられるなんてよっぽどだな。異常さはお前の方が上のようだ」
先輩は吐き捨てるようにそう言った。
「えへへ、ありがとう」
「いや、葵ちゃん、褒められてはないからね」
僕らのやり取りに先輩は含んだ笑みを見せるとそのままレインコートの少女と人混みに消えていった。最後に気が変わったらいつでも連絡してくれと残して。
「キャラメルテジナーニャテラトリップ、フラットのパーピーショック、ご注文のお客様~」
二人が去った後、なんとも形容しがたいパフェとケーキと飲み物が混ざったような何かが来た。
「わ~い♪」
ちなみに、ここに来ることは誰にも伝えてない。先輩達がここを指定してきた時点で、僕には手を出せないと悟った。かなり大きな後ろ盾があるのか、脅迫材料があるのか、どちらにせよ、レッドドットに葵ちゃんが押さえられていては僕ではなにもできない。
「ま、そのうちまた会える気がするよ」
「もぐもぐ、チューチュー・・・・・・リョナ子ちゃんのパイセンさん、このまま放置しとくの?」
「う~ん・・・・・・」
正直な所、僕は先輩の考えに少しだけ共感できる部分もある。あれだけの信念があれば、無関係の人間に手を出す事も考えにくい。先輩が自分を信じて進むのなら、僕は僕の道を歩いていこう。もし二人の道が交差する時が来たら、その時また考えようと思う。
「僕は僕の出来ることしか出来ないから・・・・・・だから、いつも通りに起きて、出勤して、仕事をするよ。なんだか僕も根っこの部分は先輩と同じような気がするんだ」
道は違えど、犯罪とそれを犯す者を激しく憎む。
無念の末にこの世を去った被害者や、理不尽に犯罪に巻き込まれた者。僕らはその人達の恨みを晴らす代行者には変わりない。




