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その次となる二回目は、霊術を教えてもらえることとなった。
今回は、周囲に何もない場所が最適ということで、私たちが生活拠点としている採石場跡が練習場所に選ばれた。
そういえば昔、成長したら霊術を教えてやるって先生が言ってたっけ……。
とうとうその日が来たというわけね。ちょっとワクワクしてきたよ。
などと、当時を思い出して感慨に浸っていると、先生が説明をし始めた。
「霊術は、五つの系統に分かれる。一点集中攻撃、範囲攻撃、強化、防御、回復だ。そして、系統は属性に依存する。火は一点集中、風は範囲攻撃、木は強化、土は防御、水は回復といった感じだ」
「ということは、私は防御、レイちゃんは一点集中攻撃の霊術が得意ってことか」
属性が分かれば、系統が分かるという感じなのね。
「そうなるな。正確に言うと、その系統しか使えないことになる」
「え」
「系統の違う霊術を扱えるのは、複数の属性を持つ者だけだ。例えば、火と水の二属性なら攻撃と回復といった感じだ。更に、そこで個人差がでる。火か水のどちらかが得意系統になっていて、火属性が得意なら、水属性は苦手といった感じだ。どちらの系統も同等に扱えるという場合もあるが、そういう時は、どちらの術も弱い傾向にあるな。三属性以上なら、三つの中で強さに順位がつくと考えてくれ。とはいえ、ある程度の融通は利く。一点集中攻撃の術を連射して弾幕を形成すれば範囲攻撃も同然だし、自身に防御術式をかければ、身体強化したも同然だ。ただ、本来の使い方から外れるほど、霊気の消費量は増加するがな」
「なるほど。じゃあ、ナナちゃんは五属性だから、五つの系統が使えるってことか」
私たちは一つしか使えないのに、ナナちゃんは五つ。
ちょっと羨ましい話である。
「私が五属性って話したっけ。まさか、また妄想の……」
私が属性数を知っていたことに、警戒姿勢を取るナナちゃん。
「違うから! 学校で派閥に勧誘されていた時に会話に上がっていたでしょ?」
私は慌てて、属性数を知った件を話した。
「ああ、あったあった。そんな事があったわ」
当時のことを思い出したのか、納得顔で手をポンと打つナナちゃん。
もう、そっちが忘れていただけなのに、一般人ならためらうような方法で私が調べたと思い込むのは辞めてほしい。
「ふぅ……。で、五属性なら五つの系統が扱えるけど、得意なものと苦手なものがあるってことなんだね」
誤解が解けた私は安堵の息を吐きつつ、話を戻した。
すると、ナナちゃんが首を振る。
「ううん。私は五属性全部が得意なの。苦手な属性はないね」
「五属性は全てが高水準で均等。全てが得意分野となるみたいだ。まあ、身近に五属性がホイホイいるわけじゃないから、例外があるかもしれんが……」
「へぇ、そんな感じなんだ」
万能で最強ってわけか。
さすがはマンガの主人公って感じだね。
「まずは念のために、何の系統が使えるのか調べよう。属性通りなら一点集中と防御だが、二人とも怪しいからな……」
「……うん」
先生の提案に、神妙な顔でナナちゃんが頷く。
なんで二人とも、そんなに複雑な表情をしているのかな。
「いや、調べるまでもないでしょ。属性が変わったわけじゃないし、系統も変化してないと思うけど」
「そうですわね。わたくしたちは特に変わったところもありませんし、系統に変化があるとも思えませんわ」
今の説明で、例外があるのは五属性だけだった。
私たちは普通の一属性だし、結果も通例通りになると思うんだけどな。
「……本人たちに自覚なしっと」
「属性通りの系統が使えると思って、実際は使えないのに訓練してたら時間の無駄だろ。お前たちは、ただでさえおかしいんだから、調べておいた方が無難だと思うぜ」
ナナちゃんと先生が、調査することを強く勧めてくる。
「う~ん、普通だと思うけどな」
「ええ。ほんの少し、霊力が高いだけだと思いますわ」
先生の評価が不服だったが、これ以上ごねるより、さっさと調べた方がいいという結論に達する。
先生は、「まあ、そう言うなって」と、なだめながら二つのテーブルを設置。
私とレイちゃんの前に置かれたテーブルの上に、それぞれ五枚ずつお札のような紙を置いた。
「こいつは術式符といって、該当の属性霊気を流すと術が発動するものだ。本来は弱い術を簡易的に発動させる優れものだが、今回はその機能を利用する。調べるために系統術式が発動したら、文字が発光するだけのものを用意した。五種用意してあるから、端から順に霊気を流してみてくれ。得意系統なら光るはずだ」
「なるほど。じゃあ、私から」
私は一番端にあった一点集中の符を持つと、霊気を通した。
「うわっ!? ぇええええ!?」
すると、符が強烈な光を放った。次の瞬間、符の先端から強烈な大炎が発生。
私はあわてて符を手放した。途端、爆発と見紛うほどの火柱が上がる。
周囲に何もないから良かったが、屋内でやっていたら火災になっていたところだ。
私は炎の勢いが弱まった瞬間を見計らって、足で火を踏み消した。
「不良品ですわね」
「うん、危うく服が燃えるところだったよ」
全く、とんでもないもので調べようとしたものである。
湿気っていたのかな?
黒焦げとなった符を見ていると、ナナちゃんがボソッと呟く。
「火傷は気にしないんだ……」
「それはかわすから」
「マオちゃんは、あの程度で怪我をしたりしませんわ」
私とレイちゃんは、うんうんと頷き合う。
あれ位なら大丈夫だね。
「変なところで信頼が厚い……」
「こんな単純な構造の符で不良品なんてあるか……?」
先生は、私が踏み消したせいでボロボロになった符を見つめる。
「とりあえず、私は土属性だけど一点集中の系統が得意ってことでいいのかな」
反応があったので、そう捉えるべきだろうか。それとも単に不良品の誤作動だったのか。
「符の挙動がおかしかったし、試しにもう一枚やってみてくれ」
「じゃあ、次の範囲攻撃を……」
隣にあった符を手に取り、同じように霊気を流してみる。
「あ、まただ」
すると、全く同じように燃え上がった。
今度は慣れたものなので、気づいた瞬間にさっと手放す。
そして同じように火を踏み消した。
「……どういうこった。なんでこんなことに」
予想外の反応が二度も起き、先生が頭を抱えて呻く。
「もしかしてマオちゃんの方に原因があるんじゃない?」
特に理由もない思いつきといった感じで、ナナちゃんが私のせいだと言う。
「えぇ、私?」
普通に霊気を流しただけなんだけどな。
どう見ても符の方が悪いでしょ。
「そ、そういう可能性もあるか。じゃあ、レイカお嬢さんがやってみてくれないか」
原因が分からないので、一旦私は保留。先にレイちゃんの系統を調べることとなった。
「承知いたしましたわ」
頷いたレイちゃんが、符を手にする。
一番端にあった一点集中の符だ。
レイちゃんは火属性なので通常通りなら、この符が反応するはず。
しかし、油断は禁物。ここは注意喚起しておかねば。
「レイちゃん、先生が騙されて不良品を掴まれた可能性もあるから、しっかり身構えてね」
「ええ。二度あることは三度あると言いますものね」
レイちゃんが、真剣な表情で首肯する。
「……いや、ごく普通の符なんだが」
先生が納得いかないと言った感じで、ボソッと呟く。
レイちゃんはその言葉を無視し、符を構えた。
「それでは、いきますわ! きゃっ!」
レイちゃんが符に霊気を流した次の瞬間、異変が起こった。
符は、まるでスタングレネードのような強烈な光を放ったのだ。
「うお」
「どうなってるの!」
全員、堪らず目を閉じる。それでも眩しさが貫通してくるので、目元を手で覆う。
「ナナちゃんと先生は符から離れて!」
そう叫んだ私は目を閉じたまま、勘を頼りにレイちゃんの下へ駆けた。
目を閉じる前に見た景色を思い出し、距離感を把握。
素早くレイちゃんから符を奪い取って投げ捨てた。
地面に落ちた符は一瞬光を失った後、強烈な爆発音を発しながら凄まじい大きさの炎の柱を発生させた。
私はレイちゃんを背でかばいつつ、横抱きにして退避。
熱波が届かないところまで急いで離れた。
安全な場所まで移動し周囲を確認すると、炎の巨柱を呆然と見上げる先生とナナちゃんの姿があった。
私は無言で先生に近づくと襟首をつかみ上げた。
「おい。レイちゃんに何てもの使わせてるんだ!」




