表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/150

87

 


「残念だけど、ここに妖怪はいないみたい。次のポイントは……。あ、ちょっと待って」


 と、話の途中で携帯端末から連絡が入ってきて、そのまま通話を始める。


「うん、分かった。すぐ行くから」


 通話を終えたナナちゃんは、どこか嬉しそうな顔となっていた。


「何かあったのですか?」


「妖怪を見たって。そこで練習になりそうだよ」


 レイちゃんが尋ねると、妖怪の目撃情報があったことを教えてくれる。


 どうやら、妖怪を目撃したら情報が入るように連絡網が構築されているようだ。


 というわけで、ナナちゃんの案内の元、目撃情報があった場所へ向かうこととなった。


 たどり着いたのは、住宅街から少し離れた場所にある廃工場。


 その工場の入り口で、スキンヘッドの人が手を振っているのが見える。


 ナナちゃんがスキンヘッドの人から詳しい話を聞き、その人と入れ替わる形で全員で中へと入った。


 廃工場の中は、案外明るかった。


 天井が所々はがれており、そこから日の光が差し込んでいたためだ。


 ただ、壊れた重機やパーテーションなどがあるため、見通しは悪い。


「一匹じゃないみたいだから。私が初めに倒して、次は二人の実力を見せてもらうね」


 説明しながらナナちゃんが霊装を取り出す。


 それは刀身が細い、レイピアのような形の霊装だった。


 ナナちゃんは霊装を構え、注意深く周囲を見渡しながら少しずつ前へと進んでいく。


 すると、物陰から猫サイズの妖怪が彼女めがけて飛びかかってきた。


「そこか!」


 ナナちゃんは、霊装から霊気を放出し、妖怪を仕留める。


 早業かつ、一撃。見事な腕前である。


「お、一瞬だね」


「さすが幼少期からお仕事されているだけはありますわ」


 私とレイちゃんは、ナナちゃんの手際の良さに感嘆の声を上げた。


「そのことは何卒ご内密に」


 幼少期、という部分が気になったのか、先生が口元に人差し指を当ててレイちゃんにお願いする。


「ええ。心得ていますわ」


 レイちゃんが頷いていると、ナナちゃんが戻ってきた。


「ざっとこんな感じ。この辺りに出る妖怪は弱いから、霊術を使う必要もないし、二人でも楽に倒せると思う。それじゃあ、マオちゃんさんからやってみて」


 見学の後は実践。まずは私から、ということになった。


 私たちが免許を取っただけの、ペーパー霊術師という事実を知ったうえで簡単だと言っているわけだから、ここに出没する妖怪は相当弱いのだろう。


 それにしても……。


「もう、さん付けネタを引っ張らなくてもいいじゃん」


「……分かったよ、マオちゃんさん」


「もうっ!」


「ごめんごめん、次から普通に呼ぶから」


 どうやら、マオちゃんさん呼びとは、これでおさらばとなりそうだ。


 ほっとした私は、指揮棒サイズの霊装を取り出す。


 屋内で弱い個体相手なら、取り回しの良いこのサイズで十分だろう。


 ナナちゃんと同様、慎重に進んでいく。


「そっちから来るよ。気を付けて」


 しばらくすると、ナナちゃんが指さしながら声をかけた。


 そちらに注意を向けると、確かに物陰で何かが動く気配がする。


「OK、任せて」


 私は相槌を打つと、気配察知に集中。


 気配を探ってタイミングを合わせ、壁の向こうにいる妖怪めがけて霊気を放出した。


 放った霊気は壁を貫通。その向こうにいた妖怪に命中した手ごたえを感じる。


 確認すると、黒煙を上げて消えていく姿を発見した。


「まあ、楽勝かな」


「さすがマオちゃんですわ!」


 皆が待機している場所に戻ると、レイちゃんが腕に抱きついてくる。


 しかし、ナナちゃんと先生の二人は無言で私が妖怪を倒した場所へ行ってしまう。


「いや、駄目でしょ……。壁がえぐれてるじゃん。そもそも、壁の向こう側にいる妖怪にどうやって命中させたわけ? 意味が分からないんだけど」


「ヤバいな。支柱とかじゃなくて良かったぜ」


 などと、私が開けた穴を見て言う。


 う~ん、もっと接近してから狙った方が良かったのかな。


「まあまあ……。次はレイちゃんだね」


「頑張りますわ!」


 私の言葉にレイちゃんが洋扇の霊装を取り出し、張り切る。


 レイちゃんはワクワクが抑えきれないのか、かなりの早足でズンズンと奥まで行ってしまう。


「右から来るよ、気を付けて!」


 気配を察したナナちゃんが声を上げる。


「問題ありませんわ。はっ!」


 レイちゃんは洋扇を一閃。それと同時に霊気が放出される。


 飛びかかってきた妖怪は、霊気をもろに受けて両断された。


 バッサリというやつである。


「やったね、レイちゃん」


 私はレイちゃんとハイタッチ。


「わたくしの実力でも、この程度なら朝飯前というやつですわ」


 レイちゃんは自慢げに鼻を鳴らすと、胸を張って見せた。


 が、ナナちゃんと先生は顔を曇らせる。


「駄目でしょ……。問題ありまくりでしょ」


「こっちも盛大にいったな……。街中でやったら賠償で報酬が飛ぶぞ」


 そう言う二人の視線は、レイちゃんが霊気を放った場所に釘付けとなっていた。


 そこには、壊れた重機が斜めに両断された状態で散乱していた……。


「二人とも、もう少し力を抑えてくれる? 大体、普通の霊気放出なのに、なんでそんなに威力が出るのよ……」


 威力を低くしろと、呆れ顔のナナちゃんから言われてしまう。


「はぁ……、少し見ない間にとんでもねえことになっちまったな」


 と、肩をすくめながら微苦笑する先生。


 まさか、霊力が高すぎる弊害が妖怪討伐にまで現れてしまうとは。


 とんだ誤算である。


 ……その後。


「だから、霊気を抑えてって言ってるでしょ!」


 ナナちゃんの怒鳴り声が飛ぶ先で、私たちは肩を落としていた。


「抑えてこれなんです。これ以上は抑えられないんです」


「わたくしもですわ……」


 完全に意気消沈。


 限界まで抑えた霊気を放っても妖怪を貫通し、その後ろにある物も傷つけてしまう。


 今、フォーゲートの練習で行っている方法は妖怪退治では使えないし、完全に手詰まりである。


「ぇぇ~……」


 私たちの言葉を聞き、ドン引きするナナちゃん。


 彼女はフォーゲートの練習では別メニューをこなしていたため、私たちの霊力放出を見るのは初めてだったのだ。


「わざと威力の低い霊術でも開発するか……?」


 先生は先生で、何やら対策を考えてくれているようでブツブツ言っている。


 ナナちゃんと先生が、どうしたものかと悩んでいる中、私はあることを思いついた。


 よし、これなら何とかなる。


「これでどうだろう?」


 と、私は指揮棒型の霊装を側にあった棚の上に置いた。


 そして触れていない状態で、霊装から霊気放出を行う。


 すると、握っている時より威力が落ちた霊気が指揮棒から放出された。


 しかし、それでも工場の機材に穴が開いてしまう。


「駄目かぁ~……」


 良い方法だと思ったんだけどなぁ。


「お前、今なにをやった!?」


 すると、目を見開いた先生が私の両肩を掴んでくる。


「え? 霊装の中の霊気だけで霊気放出をやったんだけど」


 霊核拡張修業をやっていた時に編み出した技である。


 今でこそ、最良の方法を発見したが、それまでには色々と試行錯誤した。


 その際に偶発的に身につけたものの一つだ。


 体に接触していない状態での霊装の遠隔操作も、修業の際にマスターした。


 といっても、霊装が体と接触していないため、霊気の供給ができない。


 その分、威力が落ちるのだ。


 それが逆に利用できると考えて試してみたわけだけど、それでも威力が高かったというオチである。


 ということを先生に説明した。


「分かった。普通の霊術師はそんなことできないから。え、そんなこともできないの? みたいなこと言ったら、ナチュラルな挑発になるから気を付けろよ」


 と、先生が悟りを開いた僧侶みたいな顔で言う。


 その隣で、ナナちゃんがボソッと「チートじゃん」と言う。


 く、色々考えて提案したのに、なんでこっちが悪い風な感じになってるのよ……。


 こうなってくると、色々工夫するだけ無駄な気がしてきたよ。


「要は、周囲を壊さなければいいんでしょ?」


 問題点はそこなのだ。


「そうよ。そうしないと赤字よ」


 街中で公共物を破壊してしまったら、それだけで報酬を上回る。


 ここは廃工場だから、多少は許される。


 それでも、支柱なんかを破壊して倒壊させたりしたら大問題だろう。


「次は大丈夫だから。もう一回やらせて」


「ほんとに? 気を付けてよ」


 私はナナちゃんを納得させた後、霊装を片づけて無手で妖怪を探し始めた。


 ほどなくして妖怪が現れ、向こうから飛びかかってきた。


「そいっ!」


 私は妖怪の攻撃をかわして、背後から首を掴むと地面に叩きつけた。


 そして、頭部を踏み抜く。頭部に致命傷を負った妖怪は絶命。


 黒煙を上げて消滅していった。


「ちょ……。何やってるの?」


「霊気を使わなければいいってわけ。これなら周りも壊れないしね」


 答えは簡単。霊気を放出しなければいいのだ。


 身体強化を使っても周りを壊す恐れがあるので、霊気は一切使用しなかった。


 うん、初めからこうやって倒せば良かったのだ。盲点だったよ。


「それですわ! マオちゃんの発想には、いつも驚かされてばかりですの。こんな感じですわね!」


 得心顔のレイちゃんが妖怪を探し出した後、私と同じように妖怪を踏み潰して見せた。


 うんうん、これなら簡単だ。


「なんで、お嬢様のレイちゃんまで出来るのよ!?」


「ふむ、パワー系令嬢ってわけか」


 無手で妖怪を倒すレイちゃんを見て驚愕するナナちゃん。


 そしてその隣で、変な納得の仕方をする先生。パワー系令嬢って、なに?


「そんな簡単にできるようなことじゃないはずなのに……」


 私たちが無手で倒したことが納得いかないのか、腕組みしたナナちゃんがぶつぶつと呟く。


「そうですの? マオちゃんのお母さまもナイフとキックで倒していましたわよ?」


 レイちゃんが不思議そうな顔で言った。


 それを聞き、私の方に疑惑の視線を向けてくるナナちゃん。


「……そうなんだ?」


「ふ、ふつーだよ?」


 普通だと思うんだけどな。


「……そうね、倒せるならそれでいいわ。これなら周囲を壊す心配もない。赤字にならないのは、とても良いことよ。この程度、こっちが慣れれば問題ない話ね」


 ナナちゃんは、赤字にならないということが分かった瞬間、疑問点を全て投げ捨てて切り替えた。


 どうも、彼女はお金が絡むと他のことはどうでもよくなってしまう質のような気がする……。


 その日は、廃工場の妖怪を全滅させて、報酬を貰いに行って終了となった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ