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 第二フォーゲート部の創設も決まり、部員も確保できた。


 第一フォーゲート部に入部したときは歯がゆい思いをしたが、今は思い通りに事が進んでいる。


 だけど、ここ最近レイちゃんの元気がない。


 ふとした時に、沈んだ表情を見せることが多い気がする。


 今も、フォーゲートの練習場に到着したが、浮かない顔で考え込んでいる。


「大丈夫? 何かまだ気になることがあったりする?」


 私は思い切ってレイちゃんに聞いてみた。


「いえ、違うのです。その……、お金のことですわ。入学までと、これからのことを考えると、お父様に頼り切りだなと思ってしまいまして」


 進路の変更、第二フォーゲート部の創設、そして北海道へ行くとなると滞在費がかかる。


 どれも、かなりの金額になる。そのことが気になったわけね。


 いくらレイちゃんのお父さんである昭一郎さんから、承諾を得ているといっても、我がままでやっていることなので、気が引けるのも理解できる。


 でも、そういうところに負い目を感じてくれることを、少し嬉しく思ったりもする。


 なんせ、マンガの雲上院礼香なら、そんなこと微塵も考えはしないからだ。


 謙虚で、思いやれる心があるというのは素晴らしいことだと思う。


「あまり気にしすぎるのもよくないんじゃない? 駄目なときは駄目だって言ってくれると思うよ。気になるなら、一度話をしてみたら?」


 雲上院家は、一般家庭とは懐事情が大分違う。


 昭一郎さんからすれば、この程度の出費では一切痛痒を感じないんだと思う。


 それに、今のレイちゃんと昭一郎さんの関係なら、ネガティブな内容の話も普通にできると思うんだけどな。


「確かに、それはそうなのですが……。わたくしの気が済まないというか、何というか」


「少しでも出費を抑えたい、みたいな?」


「そう! その通りなのです。感謝の気持ちを伝えたいというのはもちろんなのですが、それ以上に出費を軽減したいというか……。わたくしも北海道へ行くにあたり、何かしたいという気持ちが強いのです」


「う~ん。でも、レイちゃんが節約生活みたいなことをしても、おじさんは喜ばないと思うんだよね」


 むしろ、万全の準備を整えて挑ませたいと考えていると思う。


「決めました! わたくし、少しでもお金を稼いでお父様にお返ししますの」


「おお、いいんじゃない。私も手伝うよ。でも、中学生でアルバイトは無理だろうしなぁ。うちの仕事はレイちゃんには危ないし……」


 良いアイデアだと思うけど、適当な仕事が思い浮かばない。


 一応、うちなら中学生向けの仕事もある。


 資産家の子供の護衛なんかは、同年代の子を同行させる場合もあるからだ。


 でも、レイちゃんにそんな危険な仕事をさせるわけにはいかない。


 バレれば、昭一郎さんもご立腹となるだろう。


「お父様にお仕事を紹介してもらえば、簡単なのですが……。多分、そんな事はいいから勉学に励みなさいと言われてしまう気がしますわ」


「確かに。おじさんの気持ちを考えると、そう答えそうだね」


「それに、事前に相談すれば驚かせられませんわ。折角だからサプライズにしたいのです!」


 レイちゃんは、ぐっと拳を握り締めて力説する。


 なるほどねぇ。何か方法はないかなぁ。


「何話してるの?」


 そんなことを練習前に会話していると、日直で遅れた兎与田さんが練習場に合流してきた。


 フォーゲートの練習は、主にこの三人で行っている。


 鳳宮さんは、お家の事情で忙しいらしく、中々参加できていない。


 それに加え、練習に参加する時も護衛が付いてくる。


 思った以上に、凄い人みたいだ。


 現状、一番練習に参加できていないのは鳳宮さんだが、スコアの方は高水準で安定している。


 意外なことに、フォーゲートの実力は相当なものだ。


 なんでも、霊術師の嗜みの一つだとかだそうで、幼いころから叩き込まれていたらしい。


 そのせいで、フォーゲートが若干嫌いになっちゃったみたいだけど……。


 ただし、その実力は本物。そのため、あまり心配はしていない。


 逆に、私たちと兎与田さんの方が経験不足で実力不足な状態だ。


 なんせ、入学する最近までプレイしたことなんてなかったのだ。


 兎与田さんには専属のコーチが付いてマンツーマンで指導。


 私とレイちゃんは、以前からお世話になっている三沢コーチが提案した独自メニューをこなすという形で練習が進んでいる。


「……と、いうわけなの」


 練習の合間合間に、レイちゃんの悩みとアルバイトを探している話を兎与田さんに打ち明けた。


 フォーゲートの練習を通し、兎与田さんとも随分距離が近づいた気がする。


 部活以外でも、日常会話やフォーゲートの話をすることが増えてきたのだ。


 が、あまり詰めすぎて引かれるのはまずい。


 ここで退部されることだけは避けたいのだ。


 そのため、距離感を掴むのに、かなりの神経を使っている。


 本当は、もっとフランクに行きたいんだけど、危険は冒せない。


「なら、うちの手伝いでもする? 霊力があるなら結構稼げると思うよ」


 事情を聞いた兎与田さんが、家の手伝いをしないかと誘ってくる。


「手伝いって、何をするの?」


「妖怪退治だけど?」


「う~ん……、あまり手荒なことだと、レイちゃんのお父さんが許可してくれるかどうか……」


 正直、OKを貰えるか微妙なラインだ。だけど、稼げそうという言葉には心惹かれる。


「でも、北海道に行ったら妖怪退治するんでしょ? 行く前の練習とか訓練って説明すればいいじゃん」


「確かに。それなら問題ないかも」


 なるほど、それは良い言い訳だ。非常に説得しやすい気がする。


「お金も手に入って予行演習もできる、一石二鳥ですわ」


 兎与田さんの提案に、レイちゃんも大賛成という反応を返す。


「というか、何の経験もなしに危険区域に指定されている北海道に乗り込むのは、やめておいた方がいいと思うけど」


 む、それはもっともな話だ。


「確かに。ちゃんと対処方法を学んでおかないと」


 そういう意味でも、経験者の兎与田さんに教われるのは良い機会だ。


「それじゃあ、今度の休みからやっていこうか」


 兎与田さん自身も乗り気で、とんとん拍子で話が進んでいく。


「お世話になります」


「ご協力、感謝いたしますわ」


 私とレイちゃんは、兎与田さんに深々と頭を下げた。


「まあ、実力不足と判断したらクビにするけどね」


 ええ、容赦ないなぁ。


 ――というわけで、土曜日。


 兎与田さんの指定した場所へ行くと、なぜか先生がいた。


 兎与田太良トヨタ タイラ、私とレイちゃんの霊術の先生である。


 先生はレイちゃんを見て、即座に土下座。


「お久しぶりでございます」


 はは~、と臣下の礼を取るようにへりくだる。


「ちょ、恥ずいからやめてよ」


 その姿を見て兎与田さんが赤面。


 耳まで赤くしながら、先生に蹴りを入れている。


「……まさか、兎与田さんの父親が先生だったとはね」


 改めて自己紹介的な会話をしたことで、先生と兎与田さんが親子だと判明した。


 なんでも、特殊な手続きを経て、先生が兎与田さんを養子としたらしい。


 霊術が絡むので普通ではない養子縁組なのだそうだ。


 兎与田姓は、元の世界で言う豊田と同じような扱いで、それほど珍しい名字ではない。


 初めて兎与田七海という名前を聞いた時、先生のことがちょっと頭をよぎったけど、ありえないと思ったんだよね。だって、元は強烈な酔っ払いだったし……。


 まさか養父になっているなんて思いもしないよ。


 当初、兎与田さんには誤解のせいで、かなり警戒されていた。


 あの状態で、詳しく身元を調べるのはリスクが伴うのでやめたけど、それがまさか、こんなサプライズになるとは思いもよらなかった。


「俺も、ナナが連れてきた友達が、お前と雲上院さんだとは思わなかったぜ。元気にしてたか?」


 先生がニヤリと笑いながら聞いてくる。


「まあね」


 私は、肩をすくめながら笑い返す。


 次いで、レイちゃんが口を開く。


「今回は授業料も発生しませんし、貴方の部下として働く身。普段通りに接していただいて構いませんわ」


「お心遣い感謝いたします。はは~」


 レイちゃんの言葉を聞くと、脊髄反射でかしこまってしまう先生。


「だから、やめてよ。もう……」


 先生のレイちゃんに対する態度が、普段と違いすぎるせいか、兎与田さんが寒気を覚えるようなしぐさで自身の体を抱く。


 が、先生は先生で真剣そのもの。兎与田さんの反応に心外とばかりに言い返す。


「お前、雲上院家を知らないのか? あんま雑な話し方してると、この世から消されるぞ」


「ぇ、こわ……」


 先生の言葉を聞き、さっきとは別の意味で震えあがる兎与田さん。


「ちょっと、こっちに来い……」


 ここでしびれを切らした先生が、兎与田さんを引っ張って私たちから離れていく。


「何よ」


「いいから!」


 隅っこに到達すると、ヒソヒソ話を始めた。


「ええ! ガチもんの金持ちじゃん!」


 しかし、兎与田さんの反応が大きく、こちらにまで伝わってきた。


 なんの説明をしているか察してしまうリアクションである。


「よろしくお願いします。はは~」


 会話を終えて戻ってきた兎与田さんは、レイちゃんの前で深々と土下座した。


 それを見てレイちゃんは困り顔で溜息をついた。


「先ほども申しましたが、こちらが雇用していただいて、指導してもらう身。そのような姿勢は不要です。それに、兎与田さんは、同級生でチームメイトなのですから、普通に接してくださった方が嬉しいですわ」


 というレイちゃんの言葉を聞いた兎与田さんは、目を輝かせて立ち上がった。


 そして、レイちゃんの肩に腕を回すと、笑いかけた。


「話が分かるじゃん。ま、教えるのは手を抜いたりしないから、安心してよ」


「はい。兎与田さんは、そのようなことをする人ではないことは存じておりますわ」


 兎与田さんの距離の縮め方にも、ニッコリ笑顔で対応のレイちゃん。


 そんな笑顔にノックダウンされたのか、兎与田さんが照れくさそうに俯く。


「あ、うん……。てか、ナナでいいから」


「それでは、これからはナナさんとお呼びしますね。わたくしのこともレイカで構いませんわ」


「じゃあ、ナナちゃんとレイちゃん呼びでいいんじゃない?」


 と、私が話しかける。


「そうですわね」


 するとレイちゃんがパッと笑顔になった。


「私もマオちゃんでいいから」


 自分もあだ名呼びでいいよ、と兎与田さんに言う。


 この流れなら、私もお互いに名前で呼び合うのを許してもらえるはず。


「あ、うん。よろしくね、九白さん」


「なんで!?」


 が、兎与田さんは、レイちゃんの陰に隠れるようにして苗字呼びで応えた。


 く、行けると思ったのに。まだ時期尚早であったか。


 などと考えていると、先生が兎与田さんの腕を引いた。


「おい、こっちに来い!」


「また~?」


 嫌々ながらも、先生の言葉に応じて隅っこへと移動する兎与田さん。


 そして、恒例のヒソヒソ話が始まった。


「ええ、何それ! 極道よりヤバいじゃん!」


 またもや、兎与田さんのリアクションが大きくて、こちらにまで声が聞こえてしまう。


 ……ちょっと、どういうことかな。


 先生は一体どんな説明をしているのだろうか。


 ヒソヒソ話を終えると、顔に脂汗を浮かべた兎与田さんがこちらへ戻ってきた。


 そして、私の前でうなだれる様にして土下座。


 斬首を待つ罪人のような仕草である。


「私のことはナナと気安くお呼びください。マオちゃんさん……」


「ぇぇ~……?」


 レイちゃんの時の土下座は臣下の礼っぽかったけど、私にする土下座は命乞いをしているかのようなもの。


 マオちゃんさんって、フランクに行きたいのか、へりくだりたいのか、よく分からなくなってるよ!


「普通にマオちゃんでいいよ。私もナナちゃんって呼んでいいよね?」


 兎与田さんをなだめつつ、仲良くやっていこうという意味も込めて名前呼びの許諾を求めた。


「ナナでも、お前でも、お好きなように……」


 兎与田さんは、深々と頭を下げたまま許可をくれた。


「レイちゃんの時と違う……」


 なんか、こっちが脅してるみたいになってるんだけど……。





 本日の連続更新はここまでとなります


 お楽しみいただけたなら、幸いです


 何より、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


 そして、今回も誤字、脱字報告ありがとうございます!


 何度も読み返していたのですが、こんなに見つかるとは……


 面白い、続きが読みたいと思っていただけたなら、


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