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 と、ここで部長が部室に入ってきた。




 確か、名前は炎泉留美だったっけ……。余り接する機会がないので、うろ覚えだ。


 側にはレギュラーメンバーが勢ぞろいしていた。


「部長!? これは……、こいつらがちゃんと作業していないから、指導していたんです!」


「そうなの?」


「「はい!」」


 部長の確認に、他の上級生たちが声をそろえて肯定する。


 しかし、部長はそこで納得せず、私たちに視線を向けた。


「貴方たち、本当なの?」


「自分たちが良しとするまで、綺麗になった窓を拭き続けろと言われましたけど。それが指導というならあってますね」


 私は、肩をすくめながら答えた。


「……またか」


 私の言葉を聞き、レギュラーの一人がそう呟く。


 部長は気持ちを静めるようにしばらく目を閉じた後、上級生に向きなおる。


「蜜橋」


「はい!」


 私たちに窓拭きを強要しようとしていた上級生が部長に呼ばれて姿勢を正す。


「去年も同じことをして、顧問からも厳重注意をされていましたよね? 貴方には……、いえ、貴方たちには下級生と接するのを禁じます。分かりましたか?」


「……はい」


「それなら練習に戻りなさい」


「し、失礼します」


 下級生との接触禁止を命じられた上級生たちは、部長とレギュラーたちに頭を下げると部室から出ていった。


 おお、これは意外だ。


 てっきり、部長やレギュラー陣は上級生たちの言い分を聞くと思っていた。


 まさか、こちらの話を信じてもらえるとは思ってもみなかったよ。


「ごめんなさいね。彼女は、練習やプレイが上手くいかない時、下級生に当たる癖があるの」


 と、部長が謝ってくる。まさか、謝罪までしてくるとは。


 公正、公平な態度に驚きを覚える。まあ、雑用しかさせてもらえないけど……。


「いえ、大丈夫です。それより、私たちは練習に参加できないのでしょうか?」


 一年生である私たちが、部長と接する機会は限られている。


 私は、ここぞとばかりに質問してみた。


「貴方たちが非常に熱心なのは知っているわ。だけど無理ね」


 部長が首を振って応えた。その後ろでレギュラー陣も否定的な顔色を浮かべる。


「それは……」


「一属性の貴方達の実力では、練習にすら参加させられないわ。他の部員の足を引っ張る結果になれば、部全体の実力低下を招くもの。運が良ければ、三年生になる頃には練習に参加できるくらいの霊力が持てるほどに霊核が成長しているかもしれないわね」


「テストをして実力を見てもらうことはできないですか?」


「見なくても分かるわ。属性数の差からくる霊力の違いは共通。そして、一属性の霊力は二属性と比較しても大きく下回る。この事実は変わらない。分かり切ったことに時間を割くくらいなら、自分たちの練習に使うわ」


 部長のような人物でも、一属性は霊力が低いという価値観は揺るがないようだ。


 今の状態で強引に力を見せつけても、不正やトリックを疑われるのが落ちだろう。


「……そうですか。残念ですわ」


 部長の返答を聞き、がっくりと肩を落とすレイちゃん。


 そんなレイちゃんを見て、部長が声をかけてきた。


「貴方、たしか雲上院さんよね? 雲上院咲耶という名前に覚えはない?」


「わたくしの祖母ですわ」


 部長の問いに、レイちゃんが答える。


 私たちは、そのお祖母さんを手伝うために、フォーゲート部に入ったんだけどねぇ。


「やっぱり! 珍しい名前だから、関係があるのではないかと思ったのよ」


 納得顔の部長は、目を輝かせて喜んでいる。


 レギュラー陣の方は、部長の喜ぶ理由が分かっていない様で、困惑の色を浮かべていた。


 私とレイちゃんは状況が掴めず、顔を見合わせた。


「お祖母様を知っているのですか?」


「私の一族の故郷は北海道なの。といっても、私自身は東京生まれだけどね」


「はあ……」


 そのことと何か関係が? といった風に首を傾げるレイちゃん。


 点と点が線で繋がっていない感じだ。


「本当は私たち家族全員、今からでも北海道に向かいたいくらいなの。でも、家の事情でそうもいかない。もっと言えば、十家の方針で掃討作戦は休止状態になっているから、勝手な行動は許されないの。そんな中、北海道で積極的な活動をしている霊術師は、ほんの一握り。その中でも一番有名なのが、貴方のお祖母様よ。東京で貴方のお祖母様の活躍を聞き、皆歯がゆい思いをしているのと同時に、応援もしているのよ?」


 部長はよほど嬉しかったのか、早口でまくし立てるように説明した。


「そんなに有名なのですか? わたくし、霊術に関することには本当に疎くて」


「そうね、北海道に住んでいた人間限定で、とても有名よ。名前を知らない人はいないんじゃないかしら。私もそれで貴方のことが気なったわけだしね」


「初めて知りましたわ」


 お祖母さんが北海道で有名と知り、驚くレイちゃん。


「そうだわ! 部員ではなく、マネージャーにならない? それなら今より活動の範囲を広げることができると思うの」


 部長がレイちゃんの手を取り、マネージャーにならないかと提案してくる。


「ありがとうございます。考えさせてください」


 部長への心証を考えてか、レイちゃんは返事を濁した。


「フフッ、雲上院さんのお孫さんというなら、私の権限をフルに活かして、できる限り協力させてもらうわよ?」


「部長……!」


 部長のあまりに積極的な姿勢に、レギュラー陣が苦言を呈する。


「別に不正や贔屓をするわけではないわ。彼女たちの個性や能力に合った場所を提供すると言っているだけよ」


「……それなら構わないですが」


「貴方たちにとっても悪くない提案だと思うわ。一度よく考えてみて。それじゃあ、良い返事を期待しているわ」


 そう言って部長たちは練習へ戻っていった。


 残された私たちは、途中からの怒涛の展開に対応できず、呆然と立ち尽くしていた。


 ――部長は、私たちに対して中立だったと思う。


 霊術師の視点で部全体のことを考えて判断し、発言していた。


 この学校の中では、間違いなく良い人ランキングの上位に位置する。


 それでも偏見の壁は厚く、属性数で判断されてしまった。


 そこから会話が進んで、レイちゃんとお祖母さんのことを知ってから、態度が好意的なものへと変化した。


 それでも、部活動への本格的な参加は見送られる形で固定されたままだった。


 つまり、この学校においての、一属性に対する対応の限界が知れたということになる。


 もし実力を見てもらえる場が設けられたとしても、私たちに対して良い印象を抱いていない者が大半を占める今の状況では、レギュラーを取るのは不可能だろう。


 ――その日の練習終了後、部員全員に向けてレギュラー選抜試合の開催が告げられた。


 もちろん私たちには参加資格がなかった。


 進行を著しく遅延させるため、という理由らしい。


 完全に詰みだ。


 フォーゲート部に所属して、レギュラー入りを目指す計画は失敗に終わった。


 部長は三年生まで待てば霊核が成長して、霊力が上昇し、練習に参加できるかもしれないと言っていた。


 だが、その時には部長は卒業している。


 部内の雰囲気を見る限り、部長以外の人がそこまで一属性に寛容とは思えない。


 何より、三年も待っていられない。


 私たちは、さっさとフォーゲートを切り上げて、北海道に行きたいのだ。


 こうなると入部している意味はない。


 全ての可能性がなくなったと判断し、私たちは即座に退部した。


 部長以外は、部の厳しさに耐えられずに逃げ出したと勘違いしたようだが、訂正する気も起きない。


「残念だけど、正攻法ではここまでみたいだね」


「ですわね。プランBへ移行しましょう」


「ここまで自由が利かないんじゃ、仕方ないよね」


 と、私は肩をすくめた。


 入学前からこうなるかもしれないと予測していたため、予備案は準備してある。


 できれば、レギュラーを取るという正攻法で行きたかったが、やむを得ないだろう。


「この学校に所属する人に対してあまり肯定的な感情を抱いておりませんし、ここは遠慮なく行かせていただきますわ」


「だね」


 私たちはお互いに顔を見合わせると、強く頷き合った。





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